サカナクション @ 日本武道館

サカナクション @ 日本武道館
サカナクション @ 日本武道館
サカナクション @ 日本武道館
サカナクション @ 日本武道館
サカナクション @ 日本武道館
サカナクション @ 日本武道館
サカナクション @ 日本武道館
結成4年、デビュー3年での初の日本武道館ワンマン。ステージ両側斜め後ろまで席を作っての超満員ソールドアウト。なので、武道館でこういうふうに客席が組まれる時の常として、ステージ両袖に視界をさえぎるカーテンやトラス等がなく、モニターPAとかのスタッフが丸見えの状態。ステージ床には、でっかい渦巻き状のマルが描かれ、その上の各々の機材が置かれている。ステージ床から壁にかけてはホリゾント(Rの状態ね)になっていて、後方には一面にでっかいスクリーン。そこに、水槽と思しき、たまにアブクが走ったりする水が映し出されており、小さくゴボゴボと水の音がしている。

開演予定時刻を5分すぎた頃、客電が落ち、そのゴボゴボという音が次第に大きくなり、ピークになったところで「ジョバーッ!」という音と共に、底の栓をぬいたみたいに画面上の水が消えていき、画面が宇宙に変わる。そして夜空に。一面の星。と、曇ってきたかと思ったら雨が降り始め、その雨の画・雨の音と共に、“Ame(B)”のあのボイス・ループが鳴り始め、ブレイクのところで、画面がステージを天井から撮っている図に切り替わる。いよいよ鳴り響く“Ame(B)”ループの中、天井から撮られながらメンバーが登場。ループに合わせてプレイを始め、全員が揃ったところで、1曲目 “Ame(B)”に、ガツーンと突入。
というオープニングの時点で、もう、あまりのカタルシスに言葉を失ってしまった。
かっこいいー! そして、うまい! アガるわこれ。

二度目のアンコールが“目が明く藍色”でしめくくられ、メンバーがあいさつしてはけたところで、“ホーリーダンス”のインストゥルメンタル・リミックスが鳴り始め、それに合わせて画面には、「TEAM SAKANACTION」のスタッフロールが映り始める。メンバーと関わったスタッフすべての名前がひとりずつ流れ、お客さんみんな、手拍子しながらそれを観ている。で、そのスタッフロールが、「AND……THANKS FOR ALL AUDIENCE!」で終わり、ウワーッて拍手が盛り上がったところで、画面がオープニングの時と同じように、天井から撮ったステージの画になる。そのカメラが、ぐるーっと客席の方を向くと、からっぽで、「あ、開場前に撮ったのか」と思ったら、その誰もいないアリーナ席のまんなかにサカナクションの5人が座っていて、手を振ったりおじぎをしたりしていて、いっそうウワーッ! ってなったところで、画面がパッと同じアングルの今の客席に切り替わり、もうさらにさらにウワーッ! てなってるお客さんたちの姿が、どわーっと映る。客電がつく。おしまい。という、エンディングでも、言葉を失いました。またもや、うまい! 感動するわこれ。

って、いきなりオープニングとエンディングだけ書いてどうする。あと、あまりによかったもんで、思わずそこを全部書いたものの、今読み直したら、こう、あんまり、私が興奮しているほど、すごくよいものに見えない気もしないでもありません。書いた奴のせいか。すみません。11月15日(月)0:30より、WOWOWにて、今日のこのライブ『サカナクション LIVE at 武道館 SAKANAQUARIUM 21.1(B)』、放送されるそうです。それをぜひ。詳しくはこちら。→ wowow.co.jp 

それだけだと、ライブレポ放棄になってしまうのでもうちょっと書きます。まず、セットリストはこうでした。

1. Ame(B)
2.ライトダンス
3.セントレイ
4.アドベンチャー
5.Klee
6.フクロウ
7.涙ディライト
8.アンダー
9.シーラカンスと僕
10.マレーシア32 ~ 21.1 ~Paradise of Sunny
11.新曲(タイトル未定)
12.ネイティブダンサー
13.インナーワールド
14.サンプル
15.三日月サンセット
16.アルクアラウンド
17.アイデンティティ
18.enough

アンコール
19.GO TO THE FUTURE
20.白波トップウォーター

ダブル・アンコール
21.目が明く藍色
エンドロール:ホーリーダンスInstrumental Remix)

という、もう完璧なまでの、2010年10月8日時点での「ベスト・オブ・サカナクション」な曲目と曲順。なので、イントロが鳴るたびに「ああっ“セントレイ”!」「おおっ“ネイティブダンサー”!」みたいに、客席の歓喜度がどんどんアガっていく。しかも、これ、いつもっちゃいつもだけど、MC以外はほとんどメドレーみたいに、というかダンス・ミュージック系のDJみたいにぶっ通しでプレイするバンドなので、ライブが進めば進むほど、さらに温度が上がっていく。って比喩じゃなく、ほんとにどんどん暑くなっていった、ホールの中が。
山口がギターを置いてステージ前方へ行き、フロアをあおった(これもいつもですが)、インストの10曲目では、レーザーが飛び交い、スモークがたかれる。14曲目ではステージ後方のスクリーンが落とされて、壁一面のLEDが姿を表し、グラフィック映像が流れる。16曲目では、メンバーの姿が画面に映る。
つまり、それまでのライブ前半においては、それらの演出、一切使われていなかった、ということです。そこまでは、曲によってスクリーンに映ったり映らなかったりする映像と、ステージだけじゃなくフロアを照らすことも念頭に置かれた(つまりクラブ/レイヴ仕様ってこと)ライティングと、音楽だけでもたせていた、ということです。
というあたりの構成の見事さ、見せ方のうまさにも、唸った。アンコールで山口が「TEAM SAKANACTIONは、本当に優秀なスタッフばかりで」と言っていたが、確かに。

特に、何がいいって、いわば「やりすぎていない」ところがいいなあ、これ。と、強く思った。温度がちょうどいいのだ。こういう演出って、もっとレイヴ/クラブ方向の、海外のアーティストなんかだと、「うわあすげえ! ……でも、よくわかんない」ってとこまで行ってしまう、つまり「うれしい」の範囲を超えてしまうこともあったりするんだけど、サカナクションはそうではない。ダサいほどベタではないけど、わかんないほど行きすぎてはいない。この感じって、狙ってできるものではないと思う。つまり、メンバーを含む「TEAM SAKANACTION」は、お客さんと同じ目線を持っているということだと思う。

というのって、そのままサカナクションの音楽自体にも言えることだ。山口が好きで聴いてきた、テクノやハウスなどのエレクトリック・ダンス・ミュージックって、僕が聴いてきたものと近いなあ、と感じることが、よくある。彼は10代の頃、僕は30代の頃に聴いていた、というジェネレーション・ギャップはありますが、ライブを観ながら「そう、UNDERWORLDのこのシンセの音色、気持ちいいんだよねえ」とか、「これこれ、このSCOTT GROOVESがサンプリングしてたファンクのリフってかっこいいよねえ」と思うようなパーツが、いろんな曲のいろんな部分にちりばめられている。その「気持ちいいんだよねえ」とか「かっこいいよねえ」が、まさにファン目線な感じなのだ。
クラブで踊ってる時に隣にいた、知らない奴。特にしゃべったりはしなかったけど、でも俺と同じように汗びっしょりで、俺と同じようにブレイクのスネアロールんところで両腕をあげ「ひゃーっ!」とか叫んでた奴。
そういうセンスなのだ。だから、とてもわかるし、共感できるし、楽しい。ただし、音色はそうでもフレーズがUNDERWORLDはやらないものだったり、そのSCOTT GROOVESなリフを全然違うタイプの曲にぶちこんだりしているがゆえに「まんまじゃん」にならない、そういう周到さも同時に持ち合わせていたりするところが、うまいなあ、ニクいなあ、とも思います。

あともうひとつ、観ながら強く感じたこと。サカナクションって矛盾だらけだ。矛盾によってできている、と言ってもいいかもしれない。
アーティストの「俺が俺が」みたいなのって、嫌い。自分の存在とか個のアピールとかは極力消して、「音楽」と「この場」を主役にして、自分もオーディエンスも同じようにその中の一員である、というふうにしたい。サカナクションはどういうバンドだと僕は思っているし、この日のライブもそういう思想に貫かれたものだったけど、それでも時折、「山口一郎」という一個人の、強烈な自我が匂う瞬間がある。時折じゃないな。結構ある。ずっとかも。
あと、そもそも、ざっくり言うと「頭ぶっとぶ」「まっしろ」「陶酔」みたいな音楽である、ダンス・ミュージックの要素を使って、「思考する」「探求する」「つきつめる」タイプの歌ばかり作っているところも、矛盾している。それから、そういう音楽性なのに、70年代ニッポンフォークをルーツに持つ、「日本語を伝えるために書かれたメロディ」を歌っていることも矛盾だ。
そもそも、そういう音楽好きだったら、ガシーッと打ち込みのトラックを作って、それに生演奏を合わせる、という方法でやればいいのに、サカナクションはそうしない。キモになるフレーズは、いちいち、シンセを手弾きしたり、エレドラのパッドを叩いたりしていて、人力による「ゆらぎ」みたいなものが出るようになっている。でも、完全に生ではない。というのも、矛盾だと思う。つまり、何よりも、それらの矛盾が、「すごくよくわかる」矛盾であることが、このバンドの最大の武器だなあ、と、改めて思った。

もうひとつだけ。昔、ゆらゆら帝国の坂本慎太郎にインタビューした時に、ゆらゆらの音楽ってテクノやハウスに通じるものがあると思う、という話をしたら、「わかる気もするけど、クラブとかで、みんなでワーッっていうのは、あんまり得意じゃないんですよね」みたいな答えが返ってきた。いや、クラブって、たとえ友達と行っても、踊ってる時はひとりになるんですよ。音楽と一対一になって、みんなと同じように動かなきゃとか、そういうのがどうでもよくなって、個々が好き勝手になる、ひとりになるのがいいんですよ。というようなことを、一生懸命話した覚えがある。
本編最後の“enough”で、実家の6畳間の隅にあるようなスタンドライトを、自分の横に立てて灯し、歌い始めた山口一郎を観て、それを思い出した。サカナクションは、孤独を否定しない。連帯も、別に否定しないけど。(兵庫慎司)
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