KING BROTHERS / ZAZEN BOYS@渋谷クラブクアトロ

KING BROTHERSとZAZEN BOYSによる対バンライブ『王様vs侍』。実はこのイベント、2001年にKING BROTHERSとナンバーガールの間で実施されており、それ以来の9年ぶりの顔合わせとなる。かたやメンバーチェンジやライブ活動休止期間を乗り越えながら己の信じるロックンロールを貫いてきた王様=キンブラ。かたや新たなバンドを従えて、ダブ、テクノ、ジャズ、ヒップホップなど、さまざまなジャンルを取り入れながらロックの可能性と「その先」に広がる世界を求道してきた侍=向井秀徳(ザゼン)。まったく違う道を歩んできたふたつのバンドが、9年ぶりにどんな戦いを繰り広げるのか。開演前から期待が高まる。

「MATSURI STUDIOからやってまいりました、ZAZEN BOYSです」と、まず先にステージに上がったのは侍=ZAZEN BOYS。「いつものフリーセッションから行きます」という向井秀徳のMCに続いて、カシオマンこと吉兼聡(G)のギュイーン!というギターが会場の空気を切り裂いていく。それに向井のシンセ、吉田一郎(B)&松下敦(Dr)のリズム隊が折り重なっていく。10分弱にもわたるセッションは、時に激しく、時に淡々とフロアを揺さぶりながら、次第にアンビエントな展開に。まるで得体の知れない化物が居座っているような、妖しい冷気を湛えたサウンドで、オーディエンス一人一人の中に眠る高揚感をずるずると引きずり出していく。すでにライブの定番となっているこの“MATSURI SESSION”、ライブを重ねるごとに、そのスケール感と自由度を増していっていることには、いつも驚かされる。魔術師のような手振りで、カシオマン/吉田/松下を思いのままに操る向井と、その動きを食い入るように見つめてカウントを待つ3人の緊迫した掛け合いも、ライブを重ねるごとにエンタテインメント性を増し、より痛快なパフォーマンスとなっている。

そのまま“I Don’t Wanna Be With You”へと流れた後は、いよいよ侍=ザゼンの本領発揮! “Honnoji”“MABOROSHI IN MY BLOOD”“Tanuki”と、鋭いリフとビートが居合い抜きのごとくぶつかり合うナンバーが、次々と投下されていく。少しでも乗り遅れたら命を落としてしまうかのように、静かに、そして激しく繰り返される応酬に、フロアも釘付け。「ハッ!」とか「ヤッ!」とかいう掛け声を合図に一音一音が放たれるたびに、会場は混沌とした世界へと導かれていく。血なまぐささと殺伐とした空気が混在したその世界は、向井が言うところの「冷凍都市」そのもののようだ。

そんなカオティックな空気が一気に爆発したのが、終盤の“COLD BEAT”。タイトルさながら冷たさを湛えた蒼きビートが、向井の指揮で完璧にコントロールされながらも静かにテンションを上げていく。そして臨界点に達した瞬間、一気にスパーク! そのドラマティックな展開に、それまで息を呑んでステージを見つめていたオーディエンスから大きな歓声が沸き起こる。しかし、フロアが弾けたのもつかの間、ラストは“Asobi”のミニマルなテクノ・ディスコがフロアをクールダウンさせていく。カシオマンが振り鳴らすマラカスの音と、《遊び足りない!》という向井の歌声が、妖しい余韻を残して1時間強のステージを終えた。

続いて、「兵庫県西宮からやってきましたKING BROTHERSです!」と登場したのは後攻を務める王様=KING BROTHERS。いつもの黒と白のスーツでキメたKEIZO(G/Vo)、MARYA(G/Screaming)、SHINNOSUKE(B)、そしてステージ前方に迫り出すように置かれたドラムセットにどっしり構えたTAICHI(Dr)が、1曲目から鬼気迫るプレイを展開していく。アンプに登ったりシャウトをしたり、派手なパフォーマンスを繰り広げながらストレートなロックンロールを叩きつけていく彼らは、ZAZEN BOYSのアクトとは対照的。「今日のライブは俺たちとZAZEN BOYSの戦いでもあるけど、俺とあんたの戦いでもあるんだよ!」「今日はあんたたちを踊らせに来たんだよ! ロックしましょうよ!」と、オーディエンスにまっすぐコミットするKEIZOのMCも、とにかく熱い。

フロアにダイブの嵐を巻き起こした後は、5年半ぶりにリリースされた最新アルバムの楽曲を中心とした後半セクションへ。濃厚なブルースの匂いが立ち込める“ACTION!!!!!”、MARYAが《I love you》と叫ぶ“GET AWAY”など、ドクドクと脈打つ心臓を抉り出したような生々しいサウンドが、会場をどす黒く染めて上げていく。MARYAがトレードマークのオカッパヘアを振り乱して「にしのみやー!」とか「こんなにお客さんがいて嬉しいぜー!」とかいうマイク・パフォーマンスを繰り広げている最中も、会場を闇で覆い尽くすかのごとく大きなトグロを巻いていくグルーヴの、ゾクゾクするような美しさといったら! 「アホなものに流されないためにも、ホンマのロックを知っている皆さんの力が必要なんですよ。これから10年も20年もやっていきますから応援よろしくお願いします!」とMARYAは叫んでいたけれど、まさしく結成10年を過ぎた今でも初期衝動の塊のようなロックンロールを無骨に叩きつけている、キンブラの圧倒的な底力を見せつけられたような瞬間だった。

アンコールは“魂を売り渡せ”など初期の爆裂ナンバーを連続投下! すべてを焼き尽くすような渾身のエネルギーを炸裂させて、3時間にも及ぶ死闘は大団円を迎えた。まさにロックンロールにすべてを捧げたもの同士の、血で血を洗うような戦いだった。「勝敗は誰が決めてくれんねん?」とMARYAは言っていたけれど、まったく違ったアプローチでロックを体言する両者には、当然のことながら決着をつけられるわけなんてない。とはいえ、決着がつくまで観続けたいと思わせるほど、熱く幸福な戦いが繰り広げられた一夜だった。ということで、早くも第3戦目が楽しみなところ。次は9年後といわず!(齋藤美穂)
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