WIRE10@横浜アリーナ

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WIRE10@横浜アリーナ - Takkyu IshinoTakkyu Ishino
WIRE10@横浜アリーナ - Jeff Mills / pics by 北岡一浩Jeff Mills / pics by 北岡一浩
今年で12回目を迎えた、石野卓球がオーガナイズする日本最大級の屋内レイヴ、『WIRE10』。昨年同様、EAST STAGEとWEST STAGEからなるメイン・フロアに、2Fのセカンド・フロア、4FのLISMO STAGEという構成で、計14時間、総勢30組のアーティストを迎えた、年に一度のテクノ祭りである。来週には『Metamorphose』も控えているし、生粋のクラブ&ダンス・イベント人種にとってはこの2週間は、1年で最も幸福な時期かもしれない。会場の横浜アリーナには、オールナイトのダンス・イベントだけあって客足は遅いものの、ピーク時間には今年も多くの人が詰めかけた。

今年のWIREのオープニング飾ったのは、WIRE皆勤賞の石野卓球、田中フミヤに続く最多出演となるフランク・ムラー。(ベロシマ名義も含めると)…だったのだけど、僕の会場までのルートでは、乗り換える電車すべてがまさかの連続遅延…。新横浜駅を飛び降り、ダッシュで横浜アリーナに駆け込むと、ちょうどフランクがRenato Cohen vs Tim Deluxenの“JustKick”をスピンして、フロアを大揺れに揺らしているところだった。DJブースの左右に吊られた巨大スピーカーから鳴らされる地鳴りのようなキック。スネアの輪郭もきれいにでている。有無を言わせず体が躍動し、ああ…今年もWIREに来たんだ!と、やたらめったら高揚感が高まる。この、フロアに入った瞬間に体中を駆けめぐる衝動は何年たっても格別なものだ。彼のラスト・トラックはDJ Rolandoの“Jaguar”。ミスティカルなシンセラインと跳ねるようなビートでフロアをアゲ倒し、初っ端から大ネタ連発なミックス・ワークのフランク。ドSなプレイであった。

“Jaguar”がフェードアウトすると、すぐに後方から何本もの赤いレーザーが照射される。続いてはEAST STAGE、6年ぶりにWIREへ帰還したモニカ・クルーゼ。クリック~ミニマルを基本にしながらも、アバンギャルド・パーカッションが組み込まれたトラックで紡いでいく彼女のビートに、フロアはもうメロメロ。所々に極端なブレイクスを作ったりしてフロアの反応を確かめつつ盛り上げる、悪戯っ子のようなプレイも大変にキュートだ。パーカッシヴで、どことなくブラジリアンな要素も感じさせる彼女のミックスは、ジャーマン・テクノというよりは、もっともっとトライバルなものだった。

モニカ終盤にふと後方を見ると、EAST STAGEに人だかりが。YouTubeで事前に予習して度肝を抜かれた人も多いだろう。(→http://www.youtube.com/watch?v=Pf_nq1J2oHM)そう、続くEAST STAGEはハード・トンのライブ・アクトである。もう日本語の当て字読みでもあんまりなネーミングのこの人は、ジェダイの騎士のような頭まですっぽり覆われたマント姿で登場。80‘sライクなディスコ・ビートが鳴り響くと、マントを脱ぎ捨てその溢れる肉体があらわになった。糸巻きのボンレスハム、縛ったチャーシュー…様々な形容が聞こえてきそうな彼は、いや彼女は、そのボンテージ姿のみならず強烈なライブを披露した。ディスコ・ビートは徐々にTB-303のビキビキなアシッド・トラックに変貌し、持ち前の巨漢から繰り出されるセクシーなダンスとファルセット・ボイスで観客を挑発する。マドンナのカバー“music”、バウンシーな“EARTHQUAKE”での爆発的な盛り上がり方は、ゲイ・カルチャーと密に結びついているディスコやハウスの、タフで危険なエナジーを想起させるようなムードが入り乱れ、これまで体感したことのない高揚感を生み出していた。

たっぷりと汗をかいたところで、アレックス・バウのDJプレイを堪能するためセカンド・フロアへ。僕が行った時のアレックスは、緊張感のあるどす黒いジャーマン・テクノをスピンしていて、割りと渋めの選曲。思い思いに体を投げ出すハード・ダンサーも多い。アレックスは、ターンテーブルやミキサーにはほぼ手を触れず、PC使いをメインにしたDJプレイだった。そうそう、僕は今回のWIREでも可能な限り2階のスタンド席へ行き、メイン・フロアDJブースの後側を覗き込んでいたのだけど、やはりアナログオンリーのプレイヤーは減っていた。CDの方が枚数を持ち歩けるし当然のことだが、アナログオンリーのプレイヤーは今回のWIREで何人いたのか気になるところ。去年は、確かメイン・フロアのトリ、レン・ファキがそうだった。

21:05にメイン・フロアのWEST STAGEに現れたのはエレン・エイリアン。しなやかなミニマルからダーク・エレクトロにも通ずるような硬めのトラックを次々とスピンし、ストイックに踊らせてくれる。この時間帯にエレン嬢はベストの配置。これまでのアッパーな盛り上がり方に風を吹き込むように流れるディープなテクノは、皮膚に吸い込まれるように身体に浸透していく。クール・ビューティなエレン嬢は今年のWIREでも健在であった。そして、その流れを引き継ぐように、レディオヘッドの“Everything In Its Right Place”のミックスでスタートしたのがヘル。5年ぶり、7度目のWIRE登場である。時折無機質なシーケンスの組み合わせが印象的なドイツ・エレクトロや、極端なブレイクスからシカゴライクなトラックにもっていったりと、先ほどのエレン嬢のダークサイドに甘美なシンセラインを編みこんだような純テクノ的なプレイだ。ディジュリドゥ奏者を迎え入れてスタートしたメイン・フロアは、エリック・スネオのライブ・アクト。続く卓球待ちの人も徐々にフロアに押し寄せ、けっこうな混み具合である。エリックは、PCやミキサーの横にドラム・パッド、真横にパーカッション・セットを配置。これらを使って、低重心なテクノにプリミティヴなビートを効果的に挟み込んでいく。人力ハード・ミニマルとも言えるアクロバティックなパフォーマンスを披露して、30分弱の短いセットながらもフロアは大盛り上がり。

そしていよいよ、同フェスのオーガナイザーにしてこの国のテクノ・シーンを牽引し続ける男、石野卓球の登場だ。「ワイア~ワイア~」という軽トラさおだけ屋のスピーカーから聴こえてくるような、お経のような謎のうめき声(00年のWIREコンピに入っていた電気グルーヴ“WIRE WIRESS”のリミックスかも)がフロアの高揚感をじんわりと高め、暴発寸前となったところで自慢のハード・テクノを投下する。ユーモアとグルーヴが交錯するこれぞ卓球、貫禄のプレイである。そして今年5月26日に永眠したKAGAMIに向けて、“Tokyo Disco Music All Night Long”が届けられる。VJには、WIREのラウンドガールが持つ「KAGAMI」のボード、そしてKAGAMIのDJプレイが映し出される。目の前が霞んだ人も多いだろう。きっとこの裏のセカンド・フロア、ともにDISCO TWINSで活動してきたDJ TASAKAのアクトもそんな想いの人たちであふれているのだろう。(DJ TASAKAは彼のトラックをかけなかったらしい)でもまだ夜は明けていない、この夜が続く限り僕らは踊り続けなければならない。この日WIREに集まった人々はありったけのダンスでそれに応えた。卓球はその後も、ハードなテクノの要所要所でThe House Master Boyz and The Rude Boy Of Houseの“House Nation”や自身が今月リリースした『CRUISE』からの楽曲を挟み込み、気が付けば70分、踊りっぱなしのセットであった。卓球のプレイが終わるのと同時に登場したKEN ISHIIは、Twitterで「急にクラフトワークが聴きたくなった。あとでWIREでプレイしようかな」と言っていたが、公約通りにクラフトワークの“Tour de France”を初っ端からスピンし、さらにパーティをぶち上げる。

フード・エリアでしばし休憩をとった後(今年は話題の食べるラー油系のメニューもありました)、セカンド・フロアでブッチのDJ。僕は少ししか見れず、その時は硬派なテクノだったけど、全編見ていた友人の話によると“No Worries”などの自身の楽曲やロバート・フッドの“Funky Souls”もスピンしていて、ファンキーでオールドライクなデトロイト・ハウスも織り交ぜた、表情豊かなセットだったようだ。その後は、メイン・フロアWEST STAGEのローマン・フリューゲルとセカンド・フロアのA.MOCHIを行ったりきたりしていたせいかローマンの代表曲“Rocker”は聴けなかった。(プレイされたかどうかもわからず)WIREでは何度も他の人がプレイする“Rocker”を聴いてきたのに。

3:15からのセカンド・フロアは個人的に最も楽しみにしていた2000 AND ONEのDJアクト。去年のWIREにもライブ・アクトで出演していた彼は、実に男気あるプレイだった。硬い蛇口を力いっぱいひねるようにミキサーをいじり、汗だくになりながらキレのある動きでフロアをアジテートする。選曲も前のめりになりそうな2ステップ・ビートを混ぜ込んだハウシーなものから、デトロイト~ミニマルなものまで幅広い。1つに囚われることなくダンス・シーン全体のベース・ミュージックを包括するジャンルレスな視点は、例えば同じくアムステルダム地方出身のダブステッパー(に括られる)2562の趣向とも非常に良く似ている。このあたり、オランダというどこか開放的な風土が影響しているのかもしれない。そしてメイン・フロアWEST STAGEのレディオ・スレイヴへ。彼のアクトは、鳥の鳴き声が聴こえるトラックで爽やかにスタートし、自分が好んで聴いていたノラ・ジョーンズ“sunrise”のチルアウトなリミックスも彼がしていたことを思い出す。耳をマッサージしてくれるような心地良いパーカッシヴのミニマル、気持ちよく踊れるテック・ハウス。時刻は5:00をまわっている。

いよいよメイン・フロアのトリ、ジェフ・ミルズである。WEST STAGEよりもフロアに近い位置にあるこのEAST STAGEには、三枚の白いスクリーンが並べられている。まずスクリーンにさっと腕を映し、黒いピタッとしたカットソーのジェフ本人が登場。フロアからは大歓声が上がり、スペイシーなトラックをジェフは淡々とプレイし始める。程なくして、右側のスクリーンの映像に赤いカットソーを着た赤ジェフが「いやあ、どうも」みたいな表情で深々と一礼してミキサーをいじる。そして左側のスクリーンに白いカットソーを着た白ジェフが現れ、こちらは挨拶なしにプレイ開始。黒赤白、3人のジェフはプレイ中に互いをチラチラ見ながらアイコンタクトをとる。これはあくまで予測だが、真ん中のジェフ本人が楽曲のミックスと左右のDJプレイ動画のミックスを同時にこなしていたのではないだろうか。ミックスされた音ネタは、赤白ジェフの手元の動きに同期している。つまり、一人でDJとVJを両方やっているということだ。何がなんだかよくわからない人も少なくなかったと思うが、ジェフのステージに何が起こっているのか皆真剣にステージを見つめている。ジェフが顔もあげずにターンテーブルやミキサーを見つめているのと同じように。そんな作業が90分ほど続いていく。普通なら90分も同じ場所で踊り続けていれば、自分の周りで踊っている人はまず入れ替わっているはずである。しかし驚くべきことに僕の周りにいた人は、90分たっても全く同じメンツだった。

これで終わるのか、何かが起こるのか、期待と不安が入り混じったフロア。もちろんここぞとばかりにダンスをキメるものもいる。静観かダンスか、迷っているオーディエンスをよそに淡々と作業を重ねる3人のジェフ。すると突如、手と顔がブルーで後は黒ずくめの男3人がステージ上に乱入。一通りステージを徘徊すると、一段高い向かって左のステージに3人が移動し、ドラム缶をスティックで叩き、ジェフのトラックに合わさってドラムンベースのようなうなりを上げる。3人が叩くとそれぞれ赤、青、黄の水しぶきが上がる。これが本日に急遽発表されたブルーマン・グループとジェフのコラボレーション・アクトだった。解き放たれるようにフロアは歓喜のカオスと化し、彼らが去ったあとも躍動的なパフォーマンスの余韻は残っていた。その後もジェフは淡々とプレイし、7時40分頃、大歓声と拍手が鳴り止まないまま彼はステージを後にした。

しかし、ここからだった。拍手が鳴り止まない。するとジェフがアンコールに応えて再登場!怒号のような大歓声につつまれながらジェフは、あの“the bells”をスピンした。VJの重圧から解放されたからなのか、すさまじい、鬼気迫るプレイである。伝説のPurpose Maker mixのように。もうフロアはダンスなのかただ暴れているだけなのか見分けがつかないほどにもみくちゃになっていった。そしてラストは“Change of Life”。なんなんだこれは、もうDJじゃない、ジェフ・ミルズのワンマンライブだった。このダンス・ミュージックに初めてミニマルを持ち込んだことで知られるオリジネイターが最後の最後で見せたすさまじいプレイに、これまでで最も大きい、歓喜の拍手が贈られる。素晴らしいアクトだった。そして客電がつき、VJに映し出される「SEEYOU NEXT YEAR WIRE11!!!!」の文字、終わってみれば時刻は8:00をまわり(終演予定は7:35)、こうして年に1度のテクノ・フェスティバルは幕を閉じた。

DOMMUNE×WIREのコラボ、USTREAMの設営中継、Twitterと連動したツイナビブース、ジェフのブルーマン・グループとのコラボ、LISMO STAGEのアーティスト・コンテストで一般からも広く募集するなど今年も様々なことにトライアルしてきたWIREだったが、どんなに様々な要素が絡んできてもやはりテクノだった。テクノ以外の何物でもなかった。個人的には、各DJアクトもライブ・アクトも昨年よりさらにテクノに対してよりストイックになっているような気がした。きっと来年のこの時期も僕は横浜アリーナにいると思います。(古川純基)
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