スマッシング・パンプキンズ @ 新木場スタジオコースト 11日編

「SUMMER SONIC 2010 EXTRA」と題されたスマッシング・パンプキンズの単独公演、その2日目である。昨日はムックと9mmがフロント・アクトを務め、この日もacid androidと凛として時雨がエントリーするというこれまた豪華なカップリング。実に10年ぶりとなる待望の来日、サマソニではマウンテンのヘッドライナーを務めたスマパンだが、その間にはメンバーの相次ぐ脱退もあり、結果オリジナル・メンバーはビリー・コーガンただ独りというのが2010年のスマパンの現実ではある。

しかし、かつて「僕が僕でいるかぎり、スマッシング・パンプキンズはスマッシング・パンプキンズである」と言い切ったビリーの言葉を裏付けるように、今回の来日で全貌が明らかになったビリー・コーガンたった独りのスマパンは、私達が知っているあのスマパンに他ならなかった。時を止めた、いや、時の流れを拒むほどの重く暗く鈍い輝きを放つビリーが、あの笑ってんだか困ってんだか微妙なラインの表情を顔に張り付かせたビリーが、そこに立っていた。これが、スマパンのリアルである。そもそも、いつだってビリーは独りだったじゃないか。私やあなたが結局は独りであるように。

とは言えもちろん新バンドを引き連れての来日である。ベースはきっちりダーシーの系譜を受け継いだミステリアスな美女だし、ギタリストは暗い目をした幸薄そうなキャラだし、アメリカの学園ドラマに出てくる小太りのお調子者みたいな風貌のドラマーだけは謎だったが、バンド・トータルの外観、そしてプレイヤヴィリティ自体も問題なく「ビリー独りのスマパン」を補完するものになっていたと思う。

ちなみに、サマソニにおけるスマパンはどこか引き裂かれた状況下で苦戦していたようにも見えた。彼らの過去の楽曲と新しめの楽曲に対するオーディエンスの反応のあまりの落差、そして彼らのパフォーマンス自体も、圧倒的なリアリティと熱量を放射する新しい楽曲の生々しさに対し、過去のそれこそ“Today”や“Tonight, Tonight”といった楽曲はまるでテープを再生したように破綻がなく、どこかのっぺりとしていた。これは90年代のビッグ・アクトのライブでよく見受けられる現象でもある。たかだか十数年前、クラシック・ナンバーと呼ぶにはそこまで古くはない過去が、その割り切れない過去の不完全さがバンドの今をも縛ってしまうような。

しかし、この日のライヴにおいてスマパンの過去と今は見事に調和していたように思う。ハードコアなオーディエンスが集った親密な場の空気もそれを助けただろうし、何よりもビリーその人が過去から解放されていたように思う。不完全な、そう、いつだって常に不完全体だったビリー・コーガンとスマッシング・パンプキンズの「負」の個性自体が、むしろ今此処の逆境を輝かせるようなライヴをやってのけたのだ。
“Today”の恍惚も、“Zero”(やった!)の混沌も、“Disarm”の繊細も、“Tonight,Tonight”のユニティも、のっぺりしたお約束のサービスではなくて、深く哀しく笑うビリー・コーガンの今を反映した楽曲へとアップデートされていた。“United States”ではノイズ・ギターとスライド・ギターの応酬が延々と続くインプロに突入し、このインプロを境とした後半戦は新旧ナンバーが文字通り入り混じってひとつの大きな物語を生み出していった。章立てされて区別されることのない、スマッシング・パンプキンズとは何かについての、たったひとつの物語がそこにはあった。物語の先にはビリー・コーガンがスマッシング・パンプキンズであるという結末が待っていた。それについて最早異論をはさむ余地はない。

「We want more!」と叫ぶオーディエンスには「I want more!」と返し、「My name is Akebono!」とあまり面白くないジョークを飛ばしながら、ステージ上でしこまで踏んでみせたビリー。この日のビリーはちょっとはしゃいでいるようにも見えたし、ちょっと自虐が入っているようにも見えた。そんな彼の一連の言動が、ビリーの不器用さを百も承知のオーディエンスと過度に感傷的になることなくキャッチボールされていく様が、なんだかとてもよかった。

ちなみにアンコールではスマパンの大ファンだというベッキー(あのタレントのベッキーです)が登場し、「私、ビリーの子供を妊娠してます!」と叫んで豪快にスベるという誰も得しないアクシデントも発生。「いや、僕の子供じゃないよ…」と真顔で返してしまうビリーもビリーだったが、そんなアクシデントも含め、「失われた10年」を埋めるレジェンドのパーフェクトな帰還公演と言うよりも、今も昔も変わらずどこかぎくしゃくとして100%にはなりえない、欠落を永遠に抱えた宿命のバンド、スマパンが今もぎくしゃくと生き続けている証を観ることができたライブだったと思う。

ライブの中盤、鳴りやまない歓声の中でビリーは「Sma-Pum is still living」と言った(ほんとに「スマパン」と言ったのだ)。1度目はあっさりと、そして2度目はまるで自分に言い聞かせるように「…still living」とゆっくり繰り返したのだった。(粉川しの)


※追記:文中に、「タレントのベッキーが登場した」という記述がありますが、その後のRO69の調査により、あれはベッキーではなく、「ベッキーを名乗った偽者」であったことが判明しました。確かに、遠目では間違える程度には似ていたものの、別人です。なお、彼女の登場はバンド自らの仕込みによるものであり、クリエイティヴマンのスタッフも一切知らされていなかったそうで、本当は一体何者なのか、公式にはいまだに明らかになっておりません。偽者にだまされ、本物のベッキーさんの名誉を傷つけたことを、深くお詫び申し上げます。
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