スマッシング・パンプキンズ @ 新木場スタジオコースト 10日編

『THE SMASHING PUMPKINS -SUMMERSONIC 2010 EXTRA-』と銘打ってある通り、今回行われたライブは、今年のサマーソニックでMOUNTAIN STAGE(東京・7日)/SKY STAGE(大阪・8日)のヘッドライナーを務めたスマッシング・パンプキンズを軸に、10日:ムック/9mm Parabellum Bullet、11日:acid android/凛として時雨、と日本の精鋭各2組を迎えて2日間にわたって行われる、サマーソニックのエクストラ・ショウ………なのだが。蓋を開けてみればスマパンだけでがっちり2時間。ボリュームだけ見れば「EXTRA」どころか明らかにこっちがメイン・アクトであり、そこにムックと9mmが合わさることで結果としてトータル4時間に及ぶ激烈なロック・ショウになった。

で、この日は最初のムックからしてとんでもなかった。“咆哮”の重金属サウンドと逹瑯のスクリームから立ち昇る図太い背徳の気配! ツーバス乱れ打ちハードコア“アゲハ”の重厚かつファンタジックな音楽世界! いわゆる密室系の、死と内省と背徳のイメージを究極まで突き詰め圧縮した純度1000%のコールタールのような世界観と、欧米はじめ各国でライブを重ね鍛え上げてきた暗黒メタリックなサウンド……それが合体した今のムックの音楽世界は、黒に黒を塗り重ねて聴く者の心に光を描くヘヴィ・ロックのマジックそのものだ。とにかく1音1音のスケール感と存在感がでかい。会場の猛烈なリアクションを見る限り、もともとムック目当てのファンも多かったようだが、「9mmのお客さんもスマパンのお客さんも、ムックの遊びに付き合ってくださいよ!」と会場全体をしゃがませて一斉ジャンプ!とかやりながら会場全体をいつしかムックの世界に塗り替えていく図からも、逹瑯はじめ4人のライブに対する運動神経と肉体性が感じられた。約40分間のアクトは最後、荘厳なるハードコア・オーケストラとでも呼ぶべき“リブラ”で終了。

続いて9mm。スタート早々から“The Revolutionary”“Discommunication”“Wanderland”と畳み掛ける構成も、最後の“Black Market Blues”“Beautiful Target”“Vampiregirl”“Cold Edge”一斉連射!も、とにかく完全アウェイ仕様というか超攻撃型布陣というか、どこを切っても核弾頭みたいなセットリスト。そもそもメタルやハードコアそのものというよりは、そこから轟音成分と衝撃成分だけを喰い破って、ダイナミックでハイブリッドで邪悪でメロディアスな独自のサウンド・フォーマットを築いてきた彼ら。そして、フェスの大舞台も幾度も経験してオーディエンスをがっつり沸かせまくってきた彼ら……だが。この日の4人は至って自由で獰猛なカウンター意識にあふれていたし、それがなんだか、最近のどこか威風堂々としたアクトとは違った、それこそインディー時代のようなラフでフレッシュな感覚を味わわせてくれた。「ムックとは、何年か前から交流があったりなかったりで。こういう形で対バンができてとても嬉しいです。スナッシン……」と、せっかくのMCで卓郎が噛んでしまった(英語風な発音をしようとしてたらしい)のはほんのご愛嬌だ。

そして肝心のスマパン!……に関しては明日もあるので全体のセットリストは伏せておくが、大枠の選曲に関してはサマソニ東京&大阪を踏襲したもの(サマソニ2日間でも曲の並びはかなり変わっていたので、曲順に関しては明日も変わっているはず)で、“アヴァ・アドア”やるし“トゥデイ”やるし“アイ”やるし“トゥナイト・トゥナイト”やるし、ファンも渾身の大合唱で応えるし、というものだった。大きな身体を『ラピュタ』のロボット兵よろしくもてあましながら爆音をぶん回すビリーが「僕たちを観に来た人、どれくらいいる?」と訊かれて手を挙げなかった人が意外と多いのを見て「オー、ニュー・ファンズ! ネクスト・ジェネレーション(笑)」とニヤリとしてたり、観客の声を拾って「『クソ』? ジャパニーズ・シット?」と笑いを誘っていたり……というマイペース感も、満場のスタジオコーストの熱気をさらに高めるものだった。が、何より驚いたのは、「今」のスマパンの泰然とした、それでいて圧倒的な剛性を誇るサウンドそのものだ。というか、かつてのスマパン・サウンドがまとっていた「繊細さの爆発が生む色鮮やかな狂気」とでも言うべきベールがきれいに剥がされたというか、「センシティビティ」と「センチメンタリズム」というエフェクター・ペダルをあえて踏まずに轟音ギターを鳴らしているというか……どこから聴いてもオルタナティブでグランジなスマパンの曲と音だが「スマパン的」ではない感じ、とでも言えば少しは近いのだろうか。

そもそも再始動スマパンはほぼビリー・コーガンのソロ・プロジェクト的独断のもとに始まったものであって、結局ジミー・チェンバレンも抜けた今となっては誰が見てもスマパン=ビリーなわけで、オルタナもグランジもへったくれもない今、かつての「スマパン的なるもの」を自作自演する必要もない。あの、触れるだけで痺れるようにひりひりして、轟音なのに病的なまでに繊細な「スマパン的」な要素は、今日のサウンドの中からはごっそり抜け落ちて聴こえたし、それは他でもないビリー自身のモードの反映なのだろう。これはスマパンか否か?という疑問符を、よりダイナミックなギターと歌とライブによって振り切っていくことーーそれが今の彼の戦闘態勢だし、それによって彼の楽曲とサウンドがまったく別種の攻撃性とオルタナ精神をもって2010年の今日、ここで鳴っていた。そういうことだと思う。

アンコールでもギターを歯で弾きまくり、空も避けよとスクリームをかまし、キメの部分で渾身のジャンプ!(勢い余って倒れ込んでいたが)……と、最後の最後までビリー大熱演の2時間だった。今日(11日)はacid android/凛として時雨を迎えて、同じくここ新木場スタジオコーストにて。若干ながら当日券も16時から会場売場で発売されるようなので、詳しくは招聘元=クリエイティブマンのサイトをご参照のこと。(高橋智樹)
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