plenty @ 恵比寿リキッドルーム

plenty @ 恵比寿リキッドルーム
plenty @ 恵比寿リキッドルーム  - pics by 佐藤哲郎pics by 佐藤哲郎
初ワンマンが2009年5月、吉祥寺WARP。その次が同じくWARPで10月24日。次が2010年1月22日、代官山UNIT。続いて5月16日、渋谷クラブクアトロ。そして今回は、2ndミニ・アルバム『理想的なボクの世界』のリリース・ツアーの追加公演で、東名阪を回るというもので、その初日だったわけですが、これまでのplentyのライブと比べて、お客さんの側に変化があった。

お客、動かない。声を出さない。というか、拍手以外の物音を発さない。

というのが、plentyのライブである。いつもソールドアウトしているのに、いつもしーんと静まり返っている。「人気者のお通夜」みたいな状態なわけです。初ワンマンの時は、友達やバンド仲間が集まって満員になった感じだったので、「江沼あ!」とか歓声がとんでいたが、純然たるファンだけで埋まるようになった2回目からは、自然にそうなった。
今回も、前半はもう、笑っちゃうくらいそうだった。開演予定時刻の18時を5分ほど回ったころ、BGMがフッと途絶えてメンバーが出てくると、バーッて拍手がわくんだけど、すぐ静かになり、誰ひとり、ひとことも発さないまま、3人が準備を終え、演奏を始めるのを待っている。で、1曲目が始まり(いきなりこの曲!? とびっくりしましたが、名古屋と大阪がまだあるので伏せます)、演奏が終わり、2曲目がまずドラムだけで始まり(これも意外な曲順だけど伏せます)、そのドラムにのって江沼が「こんばんは、plentyです。最後まで楽しんでってください」と挨拶すると、どーっと拍手がわくんだけど、それが終わるとまたシーン。

あと、動かない、誰も。4曲目にプレイされた曲なんて、それなりにアップテンポだったのに、リズムに合わせて身体を揺らしたりする客、ひとりもいない。ただ、じいっと、じいいいっと、じいいいいいっと立ち尽くしたまま、ステージを見つめている。
異様です、はっきり言って。クラシックのコンサートじゃないんだから。初期のエレファントカシマシのライブも、こういう感じだったなあ。と一瞬思ったが、あれははしゃぐとステージ上のボーカルの人に怒鳴り散らされるから、つまり怖いから、みんなそうしていたわけで、別にplentyは、江沼も新田も吉岡も怖くない。
つまり、まあ、そういう音楽なわけです。

というのが、これまでのplentyだったんだけど、この日、まんなかよりやや後半寄りのMCにて。MCっていっても大してしゃべるわけじゃないし、江沼、自分でも「……もっとうまく、しゃべれたらなあ……」とつぶやくようなありさまだし、まあ、実際はチューニングのための時間みたいなもんですが、その時。
シーンとしたステージに向かって、「ホテルの件は、謝ってもらったの?」という男の声がとんだのだ。
「おおっ!」と思いました、私。その男、今日何度目かの「シーン……」に耐えかねたというか、「これ、なんかヘンじゃねえか?」と感じたんだと思う。で、この空気を破るには、自分がなんか言わないと、と考えたのではないかとお察しします。偉い。
なお、「ホテルの件」は、前回のクアトロのMCでネタにしていた話です。こちらをご参照ください。http://ro69.jp/live/detail/34864

で。その歓声が空気を変えたのか、そのあと新曲を2曲披露したんだけど、それが終わったところで、今度は女の子の声で「江沼さーん! すげえいいですー!」という声がとんだ。で、ラスト1,2曲では、フロアの一部で、リズムに合わせて身体をゆする人も、何人か現れました。
ただ、いずれの声援も、「江沼ー!」みたいな意味のないものではなく、「質問」と「感想」だったのが、plentyらしいところではあります。


で、ライブ自体はどうだったか。破格でした、今回も。特に2nd『理想的なボクの世界』の曲たちがすごい。演奏はどんどんタイトでムダがなくなり、メロディはどんどん美しくなり、言葉はどんどん直接的になっていく。それに比例して、そのメッセージの精度が、どんどん上がっていく。
妥協や、ごまかしや、うやむやや、曖昧や、保留や、先送りでできた、この世界に対する、そして私やあなたに対する、異議申し立てとしてのロックンロール。いつか死ぬんだよ? 終わるんだよ? 今のそのままで、その日を迎えていいの? ということを、plentyの曲たちはくり返し伝えてくる。容赦ない。だから、みんな、「聴く」「見る」以外の行為ができなくなって、固まってしまうんだと思う。みんなというか、自分がまさにそうなんですが。

というような、いわば「告発型」のロックというのは、日本にも海外にも、過去にいくつもあったし、その中には優れたものもあったし、今後もあるだろう。ただ、plentyが、江沼が新しいのは、すごく「見えている」ということだ。どうしていいかわからないけどとにかく叫ぶ、とか、先行きは見えないけどこのままではいけないから訴える、とか、そういう感じではない。何がどうおかしくて、どう間違っていて、どうダメだからこんなことになっているのか。で、それらを変えれば、どうよくなれるのか。江沼はそれらを見通せていて、見通せているのにそうならないから、そうなるために歌っている。
というような感覚が、plentyの曲には、どれもある気がする。

それから。1月のUNITの時、いきなり新曲がどかどか披露されて、そしてそれらがどれも1stアルバムの曲たちを上回る名曲で、びっくりしたけど(それが2ndアルバムに入る曲たちでした)、さっき書いたように、今回も2曲の新曲がプレイされた。
で、また、どっちもすごかった。その「容赦ない」ままで、どんどんポップに、わかりやすく、拓かれている方向につき進んでいる。
どこまでいくんだろう、このバンド。何か、本来5年くらいかけてやるべきことを、1年くらいでやろうとしているみたいな密度なのが、うれしくはあるけど、ちょっと心配でもあります。(兵庫慎司)
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