ミドリ@SHIBUYA-AX

ミドリ@SHIBUYA-AX
ミドリ@SHIBUYA-AX - pics by 五十嵐絢也pics by 五十嵐絢也
「SHIBUYA-AX! 僕の、僕の、愛情を、受け取ってくれよ!!!!」と、アンコールの“あんたは誰や”で狂喜乱舞するオーディエンスの荒波の上へ身を任せる後藤まりこ(ギターと歌)! そして、ステージに戻った途端あっという間に姿を消した!と思ったら、今度はマイク片手にフロアをのし歩いてPAブースの柵によじ昇って再びクラウド・サーフ! そのまま高く高く担ぎ上げられ「みなさん、もうグチャグチャやな! とことんまでグチャグチャいこうや!」と叫び上げた後、文字通りもみくちゃにされながら、玉せせりの玉のように堂々のサーフィンでステージへ戻っていく彼女の、神々しいまでの存在感!……アルバム『shinsekai』を引っ提げ、6月11日の札幌に始まり、仙台/名古屋/大阪/福岡/広島と巡ってきた「ミドリワンマンツアー2010『新世界ツアー』」の最終日=東京:SHIBUYA-AX公演は、今やどんなパンク・ロックのライブでもほとんど観られないスリルと戦慄——つまり「何が起こるかわからない」という感覚に支配された、圧倒的なロック・アクトだった。いや、ハード・ジャズ・パンクの究極進化形=ミドリのライブが「何が起こるかわからない」「というか後藤まりこが何をしでかすかわからない」のは、それこそもっと規模の小さなライブハウスでお客さんも少なかった頃から変わらないし、O-nestあたりで目の前を猫かトカゲのようにフロア狭しと這い回っていた姿は今でも頭に焼き付いている。が、それをスタンディング1500人規模のAXでやるとなると、それは立派なロックの「事件」である。

下のセットリストを見ればわかる通り、途中に過去曲を3曲盛り込みつつも、基本的な軸になっているのはアルバム『shinsekai』の楽曲(しかも曲順通りに全曲だ)。危機感と緊迫感で自らを追い込むアプローチではなく、後藤まりこ自身の中から湧き出る感情や思考をより自然に解き放った結果、グリム童話のような朗らかな不穏さを持つ“鳩”や、ラテン・ディスコ/轟音沖縄調シャッフル/ハードコアを直結した暗黒クイーンとでも言うべきジェットコースター・ナンバー“メカ”、そして“スピードビート”の岩清水のように清冽に疾走するアンサンブルが生まれていった——というプロセスまでもが、満場のオーディエンスの前で1つ1つ解凍され展開されていくような、マジカルな時間だった。“うわさのあの子。”の前の「私、デトします! 出すって大切!!」と爆笑を誘っていたハジメ(鍵盤)の絶叫MCはもちろん、2階席にいた臼田あさ美(今年2月の彼女企画ライブにサンボマスター/the telephonesとともにミドリも出演)をいじってのものだろうし、「ミドリに入って5年、まさか自分が歌うようになるとは……」と言いつつハジメが歌う“春メロ”のセンチメンタルなメロディは、ギミックでも何でもなくミドリの新たな表現の1ページとなっていた。が……この日のミドリのライブで何より強く胸に残ったのは、その音楽の根本のところにある高純度なイノセンスだ。

 パンクの衝動で鳴らすデス・ジャズというか、フリー・ジャズのビートを乗っ取ったカミソリ・パンクというか、ひたすら鋭利で攻撃的で衝撃的でスリリングなアンサンブル。下ネタから真摯な愛の言葉まで、時に小鳥のさえずりのように、時にオーディエンスすべてを叱り飛ばす勢いの咆哮で歌い上げる後藤まりこの絶唱……しかし。そこから浮かび上がるのは、扇情的あばずれビッチの恋愛活劇とは対極の、イノセントで凛とした世界観だ。というか、爆音に呑み込まれそうになりながら死に物狂いで愛とセックスと乙女の純潔を叫び悶えギターを弾き狂う彼女の姿はそのまま、世界という名のカオスの中で「譲れないもの」を必死に守るために闘う悲壮なファイターの雄姿に他ならない。この日のAXに轟々と渦巻いていたオーディエンスの熱烈な支持は、新作アルバム=『shinsekai』へのリスペクトのみならず、よりタフさを増したミドリの闘い方への共感の高さをも証明するものだった。

 本編中盤、このツアーの名古屋公演でモッシュに押されて顎を骨折して5針縫った女の子がいた、という後藤まりこのMCに、シンと静まり返るフロア。「だから、もうダイブはせんとこ! ダイブするくらいやったら、物投げてくれたほうがええ!……や、よくはないけど、まだ僕の気持ちが落ち着ける。みんなバイトして稼いだ大事な3000円で来てんねんから、ケガせんとこ!」。晴れの場でのコミュニケーションとしての耳障りの心地好さよりも「大事なこと」を優先する。それがかえって、この場所では最高のメッセージとして響いているし、そのすぐ後に「……とても気恥ずかしくなったので、とても理解できないような即興をします!」と演奏に没頭してみせる、一途さの裏返しのシャイな一面も、さらにオーディエンスの高揚感を煽るものだった。

 “鉄塔の上の2人”の、目の前が真っ白にスパークするようなギター・ロックのサウンドスケープ。そして、「もっと! もっと!!」という絶叫とともに暗黒祭囃子の果てへと突進する“どんぞこ”……音楽的なキャパシティを広げつつ、そのロックの深度と切れ味をさらに増しつつあるミドリ。アンコールの“あんたは誰や”の後、ピアノの穏やかな響きとともに歌われたラスト・ナンバーは“POP”。《十年後も想い変わらず、あなたを好きでいたならあたしを見てください。》……そんなピュアでシビアな感情こそ、ミドリのパンクの核心だ。この衝撃と衝動は、なおも留まるところを知らない―—と誰彼構わず強く予感させる一夜だった。(高橋智樹)

[SET LIST]
1.鳩
2.凡庸VS茫洋
3.さよなら、パーフェクトワールド。
4.メカ
5.うわさのあの子。
6.ゆきこさん
7.スピードビート
8.春メロ
9.リズム
10.あたし、ギターになっちゃった!!!!!!
11.ハウリング地獄
12.鉄塔の上の2人
13.どんぞこ

EC1.あんたは誰や
EC2.POP
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