トクマルシューゴ@LIQUIDROOM ebisu

トクマルシューゴ@LIQUIDROOM ebisu
トクマルシューゴ@LIQUIDROOM ebisu
トクマルシューゴ@LIQUIDROOM ebisu  - pic by Hideki Otsukapic by Hideki Otsuka
無印良品のCMソングを手がけたり、SONY VAIOのCMソングやバンクーバー・オリンピックのスポット広告などに楽曲が起用されるなど、その奇才っぷりを日本のお茶の間から世界中までワールドワイドに発揮しているトクマルシューゴ。約2年半ぶりとなる4枚目のアルバム『Port Entropy』を携えて日本では初となる大規模全国ツアー『PORT ENTROPY TOUR 2010』を5月からスタートさせ、本日LIQUIDROOM ebisuにてファイナルを迎えた。彼が繰り広げる夢見心地な世界観に浸ろうと集まった人たちでフロアは超満員。もちろんチケットはソールドアウトだ。

オープニングアクトとしてトクマルシューゴも絶賛するチェロ弾き、倉林哲也が登場。アコースティック・ギターとガット・ギターの2人を加えた3人編成で、ふと頭の中に流れてきたメロディーを即興で形にしたような、柔らかくて温かい音楽を鳴らす。チェロを爪弾いたり、弓を使って滑らかに奏でながら、時にささやくように、時に熱を込めて高らかに歌う倉林の世界観にフロアもじっと耳を傾けていた。

倉林がじんわりと会場を温めた後は、バンドメンバーの岸田佳也(Dr)、chanson sigeru(トイ・パーカッション他)、イトケン(トイ・ピアノ、ウクレレ他)、yumiko(アコーディオン、グロッケン他)の4人を引き連れて、いよいよトクマルシューゴの登場だ。トクマルは裸足で現れ、スツールに腰をかけながらアコースティックギターを奏でるというスタイルでライブはスタート。アルバムのオープニングを飾る、とびきり開放感に溢れた“Platform”で幕を開けるとそのまま“Tracking Elevator”へと流れていく。爪弾かれるアルペジオ・ギター、大地に根付いたような太くて丈夫な幹のようなリズム、キラキラと射し込むような光のようなグロッケンの音色、すべての音が五感を通じて身体に染み渡り、すっかりトクマル・ワールドへと誘われる。

バンドメンバーは楽曲によって、何十種類もの楽器を自在に操り、その技術は観ているだけで幸せのため息が出てきそうなほど、うっとりとさせられる。しかし、決して技巧派であるということだけで魅せるものではなく、そこには初めて楽器を手にした子どものような無邪気さみたいなものが宿っている。その中で自由に歌い、ギターをかき鳴らすトクマル。時に沸き上がる熱い感情が伴ったり、時に混沌とした世界を客観視するような冷静さがあったり、どこまでも捻れたポップ・ミュージックだ。

新旧織り交ぜられたセットリストの中で、途中、バンドメンバーがステージからはけて、トクマルが一人で弾き語るセットがあった。1stアルバム『Night Piece』、2ndアルバム『L.S.T.』からのナンバーを立て続けに披露したのだが、今回のアルバムで手に入れたような開放感とはまた違う、影を潜めたような鬱屈とした世界観を持っていた。まさに、この毒気こそがトクマルシューゴのポップを掌るエッセンスとして働いていて、表面的には爽やかで心地の良いポップでも、一度味わってみればその深さにのめり込んでしまうという一筋縄ではいかない魔法のような力があるのだ。

「もしかしたら、この曲を聴きに来た人もいるでしょう」と言って、おもむろにウクレレに持ち替えてプレイしたのは無印良品のCMソング。口笛やハンドクラップ、何気ない生活音はまさに無印良品のブランドイメージにぴったり。これまで彼の音楽に理想郷のようなイメージを持っていたせいなのか、このCMソングのおかげでこんなにも日常に溢れた近い存在の音楽であることを改めて実感する。さらには、「何かリクエストがあれば言ってください」とオーディエンスに尋ねて、即興カバーを披露したのだが、各地で披露してきたカバーの選曲がまたすごい。TRF“BOY MEETS GIRL”、チャゲ&飛鳥“SAY YES”、トクマルが誕生日だったからという理由で安室奈美恵“CAN YOU CERABRATE?”といったJ-POPソングからサザエさんやドラえもん+ルパン、ポニョ……などアニメソングまでをやったのだとか(ボーカルはすべてドラムの岸田氏が担当)。そして、ファイナルとなる本日はTRF“BOY MEETS GIRL”からのチャゲ&飛鳥“YAH YAH YAH”というメドレーを披露して、会場の笑いを誘っていた。ものすごくトクマルシューゴというアーティストの存在を近くに感じられたし、愛されキャラだなと感じた瞬間でもあった。

ラストは“PARACHUTE”“RUM HEE”の色彩感溢れ、瑞々しさが光るキラーチューンでフロアを桃源郷へと導いていき、リキッドルームを至高の歓びで包みこんだ。アンコール一番最後に演奏された“Malerina”ではどこからともなくフロアからハンドクラップが沸き起こり、一つの楽器として楽曲に溶け込んでいくようだった。日曜日の夜、あー、また一週間が始まる……なんて後ろ向きな気持ちは、手を叩きながら浄化されていき、次第に晴れ渡るような気分になったのはきっと私だけではないはず。生命感に溢れ、躍動に満ちた音楽を届けてくれたトクマルシューゴに称賛の拍手を贈りたい。(阿部英理子)


1.Platform
2.Tracking Elevator
3.Future Umbrella
4.Lahaha
5. MIST
6. RIVER LOW
7.Typewriter
8.Green Rain
9.Such A Color
10.Mushina
11.Light Chair
12.Eurydice
13.Amayadori
14.Sanganichi
15.Button
16.Linne
17.Suisha
18.Orange
19.Vista
20.The Mop
21.Video Killed The Radio Star
22.Parachute
23.Rum Hee

アンコール
1.Laminate
2.Straw
3.Malerina
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