スピッツ@JCBホール

スピッツ@JCBホール
「いつものツアーと違って、アルバム・リリースの全然前のツアーということで、新曲を織り交ぜながら……」と草野マサムネ自身がMCで説明していた通り、7月16日の京都会館第一ホール公演まで現在全国絶賛サーキット中のツアー『Spitz JAMBOREE TOUR 2010』に関しては、アルバムはおろかニュー・シングル『つぐみ』の発売日=6月23日よりもはるかに先行する形で進んでいる。加えて、4月9日の初日=松戸・森のホール21公演からこの日のJCBホール公演に至るまで、本編の構成は基本的に同じ……というと、当然セットリストは極秘中の極秘扱いでもおかしくないところだ。が、このツアーに関しては驚くことに、会員制サイト「Spitz ON-LINE MEMBERS」のみならず期間限定のツアー特設モバイル・サイト(こちらは誰でも見れます)でも、ライブが1本終わるごとにその日のセットリストがアンコールも含めて即日UPされているし、媒体関係者に配られたセットリストにも「楽曲名に関しましては解禁とさせていただきます」と書かれている―――ので、以下、新曲以外は曲名を明記した上でのレポートです。この後の公演をフレッシュな気持ちで観たい!と、各媒体で報じられているセットリストに必死に目をつぶっていらっしゃる方は、ここから先は実際にライブを観てから読むことをお勧めします。とにもかくにもこのツアーは、あたかも手品のタネ明かしも厭わない魔術師のように、軽やかに挑戦的な試みも含んだツアーである、ということだ。

ちょうどツアー折り返し点となるJCBホール2デイズ、その1日目となるこの日。ツアーのこれまでの公演と違うところは、「新曲」とされていたシングル『つぐみ』収録曲タイトルが、発売まで1ヵ月を切っていよいよオープンにされたこと。そして、その『つぐみ』から本編で披露していた“つぐみ”“恋する凡人”に加え、アンコールで「ライブでやるのは初めてなんですけど……」と言って『つぐみ』からもう1曲“花の写真”を演奏したことだ。

“8823”“チェリー”“スパイダー”“放浪カモメはどこまでも”“メモリーズ・カスタム”といった最近のライブでも定番化した楽曲のみならず、1曲目の“初恋クレイジー”(『インディゴ地平線』収録)や『惑星のかけら』の“日なたの窓に憧れて”、『オーロラになれなかった人のために』の“ナイフ”……スピッツ・オール・キャリアからひときわ蒼い輝きを放つ青春性の欠片を丹念に拾い集めるような演奏曲目を見ても、そもそも新作アルバム・タイミングのツアーではない今回のツアーが、単なるシングル・ベスト的な内容でもないことがわかる。上記のような過去作品の楽曲群と新作曲とを乱反射させることで、スピッツの「今」を描こうとするセットリストーーーと言えば、少しは近いかもしれない。そして何より、その新曲が驚きだった。

たとえば下記リスト中の新曲①。ピアノ・ロック・オーケストラとでも言うべき荘厳なバンド・アンサンブルの上で、ホップ・ステップ・ジャンプ!とオクターブ越えの伸びやかな跳躍を見せるマサムネの歌。最新アルバム『さざなみCD』の最後の“砂漠の花”がさらに壮麗に咲き誇ったような楽曲。そして“つぐみ”の、軽快なミドル・テンポに乗せて強烈な艶やかさを放っていくメロディ。複雑な音階やコードワークを駆使しているわけでもないのに、マサムネにしか描けないカラフルな音世界。フォーキーな匂いを感じさせる新曲②も、ハード・エッジなギター・サウンドが暴れ回る“恋する凡人”も、そしてプリティなカントリー調ナンバー“花の写真”も、すべてが音楽のマジックを全身で謳歌している悦びに満ちている。前述の“砂漠の花”を初めて聴いた時、その「ギター・ソロか?」と思うくらいに鮮やかに高音階へ伸び上がるメロディに思わず戦慄が走ったが、その時の「にこやかな魔術」とでも言うべき感覚が、どの新曲からも滲んでいる。

「スピッツのライブの日ってだいたい天気悪いけど、今日は……そこそこ?」というMCから、梅雨時の洗濯物の匂いの元になる雑菌っていったい?という話に流れ込んだり、マサムネ「旅先ではメンバー揃ってご飯食べに行くけど、なんか……仲良いよね?」 テツヤ「逆に『なんで一緒なんだ?』ってたまに思うよね、43とかになるとね(笑)」とほのぼの感を垣間見せたり、ツアー先の福岡でステーキ(マサムネはあえて昭和っぽく「ビフテキ」と言っていた)を食べた話に絡めて「スピッツは草食系なんて言われてるような噂を耳にするけど、肉食ってるから!」とアピールしてみせるマサムネの言葉が逆にそのほのぼの感にさらに拍車をかけていたり―――といった4人+サポート・キーボード=クジヒロコのリラックスしたムードからも、彼らがそれぞれにツアー中盤戦の手応えを感じていることが窺えた。

「今度の夏、スピッツは23歳になろうとしています!」というマサムネの言葉に大きな拍手が湧いていたのも、その後でテツヤが「俺ら、東京出てきてからのほうが長いんだよね」とぼそっと言っていたのも感慨深かったし、本編終盤、「ロック・バンドなんですけど、それっぽくない感じもあるけど、ここからは―――お前らと一緒に、もっと遠くへ行ってみたいんだ!」とマサムネが照れ笑い混じりに言っていたのも、スピッツの「これから」へ向けての闘争宣言のように聞こえて思わず胸が躍った。最高だ。ツアーは明日(29日)も、その先もまだまだ続きます。(高橋智樹)


[SET LIST]

01 初恋クレイジー
02 8823
03 君は太陽
04 新曲①
05 愛のしるし
06 旅人
07 つぐみ
08 日なたの窓に憧れて
09 さわって・変わって
10 スターゲイザー
11 新曲②
12 ナイフ
13 愛のことば
14 恋する凡人
15 チェリー
16 スパイダー
17 放浪カモメはどこまでも
18 メモリーズ・カスタム
19 俺のすべて
20 ヒバリのこころ

EC1 けもの道
EC2 花の写真
EC3 僕のギター
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