奥田民生「ひとりカンタビレ」 @ SHIBUYA-AX

奥田民生「ひとりカンタビレ」 @ SHIBUYA-AX
奥田民生「ひとりカンタビレ」 @ SHIBUYA-AX
奥田民生「ひとりカンタビレ」 @ SHIBUYA-AX
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奥田民生「ひとりカンタビレ」 @ SHIBUYA-AX
奥田民生「ひとりカンタビレ」 @ SHIBUYA-AX
奥田民生「ひとりカンタビレ」 @ SHIBUYA-AX - pics by TEPPEIpics by TEPPEI
1公演につき1曲、客前単身レコーディングツアー、『ひとりカンタビレ』の東京編、3回目。1回目のSHIBUYA-DUOは私、レポートしました。
これ。→ http://ro69.jp/live/detail/32164
2回目の渋谷パルコ劇場は、高橋智樹がレポート。
これ。→ http://ro69.jp/live/detail/34027
あと、0回目というか、客前通しリハの模様も、私のブログでちょっと書きました。
これ。→ http://ro69.jp/blog/hyogo/30703

特にDUO、観ながら書ける環境だったのもあって、「何もそこまで書かなくても」「記録か? これは」みたいなレポートになってしまったので、今回はなるべくさくっといきます。

開場&開演は18:30ですが、私、遅れてしまい、着いたのは19時過ぎでした。ああもうドラム録り終わってベースあたりだろうな、と思いながら入場したら、ベースも終わっており、既にギターの1本目にとりかかっていました。前と比べて、明らかにペースが早い。それから、お客さんたちに今やっている作業のことを説明する回数が増えたり、軽口をたたいて笑わせたり、作業における「観ていて楽しいもの」の割合が増えていたり(例:歌をコピー&ペーストして輪唱状態にしてみせ、客を「おおー!」って感心させるとか)、全体に、「客前でやるもの」「人が観ておもしろいもの」としての性能が、DUOの時に比べてずいぶん上がっている気がする。僕が最初に観た前述の0回目とは、もう別物になっているとすらいえる。ロッキング・オン・ジャパン6月号掲載のレポート&インタビューによると、福岡ではコーラスをお客さんに担当させたりもしたらしい。各地を回り、回数を重ねることで、ブラッシュアップされていったのだと思います。
あと、このツアーでおそらくもっとも大きいハコであるということで、ほかの場所ではできなかった演出もあった。ロビーにはフリーで食べられるおかきなどのお菓子がある、のは他の会場と同じだけど、会場前外にホットドッグやフランクフルトを売る露店カーがあって、出入り自由で買いにいけるのは、たぶんここだけ。AXって普段は1Fはスタンディング、2Fはイス席だけど、今日は1Fにもイスが並べられていて、4席にひとつくらいの割合でテーブルもあって、そのイスの間の通路を、終始、ビアサーバー背負った売り子がウロウロしているのも、このキャパだからできたサービスだと思う。あと、2Fから観ていると、同じく通路をオフィシャルライブカメラマンTEPPEIも終始ウロウロしていたが、これはDUOの時もそうでした。

で。レコーディング作業は、前述の通り、僕が着く前にドラムとベースの録りが終わり(ドラムの録りがてこずって、セットを衝立みたいなので囲って録ったそうですね)、そこからあとはこんな進行でした。


1 ギター1本目。
2 またギター。ただし2本重ねる、というより「弾いてないところにアルペジオを入れる」という感じ。
3 アコースティック・ギター。
4 またアコースティック・ギター。3連の「ジャカジャジャカジャ」というカッティングをかぶせていく。民生、「パーカッションの代わりみたいなもんです」と説明。あと、「ジョン・レノンが“All My Loving”でやっている……」とも説明しかけるが「……なんでもないっす」とやめる。
5 パーカッション。片手にタンバリン、片手にスズを持ち、曲全体に入れる。
6 ここで休憩のあと、ギターソロ。自身が持っている中で一番高いというギブソンのレスポールと、学生の六畳一間にありそうな小さな小さなギターアンプで録音し、最後のフレーズにディレイをかけて「そうするとこうなるわけです」と、聴かせてみせたりする。
7 ボーカル入れ。「なんと『雨』という言葉ではじまるんですね。すごいね、降るとは!」とか言いながら、フルコーラス歌う。歌い終わると、客席をキッと見る。一同、あわてて拍手。
8 まったく同じボーカルをもう一度録る。ダブルといって、歌を二重にする手法です。
9 さっき書いた、Bメロのところをコピー&ペーストして、輪唱状態にするやつを披露。客席、「おおお!」と沸き、大拍手。民生、両腕を挙げてそれに応えたあと、「これは俺がすごいんじゃないんじゃん!」とつっこむ。
11 続いて、「アー」っていうコーラスや、部分的に上のハモリなどを、次々に足していく。で、「サービスで歌だけ聴いてみよう」と、ボーカル&コーラスだけを、山下達郎『オン・ザ・ストリート・コーナー』状態で聴かせてくれる。すばらしい。「思ったよりよかった」と、本人も安心。
12 で、「できたんじゃない? でででできたんじゃない?」と宣言、これにて録りは終了。ひきつづき恒例の「民生はミックス、お客は休憩」タイム。
13 休憩後、お客さんの質問にいくつか答えたあと、画面に歌詞を出し、完成品を全員で聴く時間。曲名はなんと「ひとりカンタビレのテーマ」。「雨の降る日は、家でひとりでとりかかる」みたいな歌いだしで、それが「ひとりであることとは」「何かを作ることとは」みたいな哲学的なテーマに広がっていく内容。特にサビ、言葉遊びや韻や語呂でフレーズを重ねていくうちに、どんどん深くなっていく民生節の真骨頂。『FAILBOX』のラストに入っている「それはなにかとたずねたら」が大好きな私には、かなりくるものがある曲。あの曲ほど暗くはありませんが。でもほんと、名曲じゃねえかこれ? ということを、一同、改めて噛みしめながら、聴いている感じでした。
14 聴き終えて大拍手のあと、「なかなかいいのができました。ありがとうございました」という言葉で、終了。22時ぴったり。全体にサクサク進んだ印象だったけど、終わってみれば、今日も3時間半でした。


にしても。「歌とかも2テイクで録れちゃうんだよ、っていうのをちょっと自慢したいとこもあるわけよ」と、ジャパンのインタビューで本人も語っているが、確かにこれ、奥田民生だからできることだし、奥田民生にしかできないことだ。
つまり、今ってレコーディングでいかようにでもできるんですね。歌のループやコピー&ペーストなんかで、その「いかようにでもできる」っぷりを、民生も紹介していたが、例えば、「このドラム、リズム悪いなあ」と思ったら、画面上で操作していけば、いいリズムに直せるわけですね。ベースもしかり、ギターもしかり。

特に、歌は最もそうだ。以下、知人の「ちゃんと演奏してちゃんと歌うタイプ」のミュージシャンからきいた話です。
彼はある日、「今どんな音楽が主流なのか聴いてみよう」と、ほぼ1日を費やして、渋谷のタワーだったかHMVだったかの試聴機に入っている音を、かたっぱしから聴いたという。で、大変に打ちひしがれたという。
洋楽邦楽問わず、みんなあまりにもオートチューン使いすぎじゃないか? と。オートチューンというのは、歌の音程を正しい位置に持っていってくれるエフェクターというか装置です。そのオートチューンを使えば、完璧な音程になる。自分も試しに触ってみたことがあるけど、おもしろいように直せるので、もう、細かいところまで全部直したくなる。でも、直し終わったその歌を聴くと、音程は完璧だけど、その仕上がりの「魂のぬけっぷり」ったらない。
これでいいの? なんでみんな、そこが気にならないの?

という話でした。たとえばですね。ジャイアンの歌にオートチューンをかければ、あの声で大変にうまくメロディを追うジャイアンの歌を作ることさえできるわけだけど、でもそれ、はたしてジャイアンなの? ジャイアンっていっていいの? それはもう、違う何かなんじゃないの? ということですね。
たとえをジャイアンにしたせいでわかりにくくなってしまったが、つまり、そういうふうに「なんでもできる」ことをつきつめていくと、「それ、きみの音楽なの?」「きみじゃなくてもいいんじゃないの?」っていう領域に、どんどんふみこんでいくわけです。「個とは」「その人とは」「その人の作品とは」みたいなところが、どんどんぼやけていくわけです。
逆にいうと、中田ヤスタカなんかは、それを逆手にとってすばらしく「個」な音楽を作っているともいえるが、まがりなりにも人前で生で歌って生で演奏するバンドマンという職種の者に関しては、そうじゃないんじゃないか。それはやっちゃいかんのじゃないか。自殺行為なんじゃないか。だから、俺はその流れにはのりません。こうやって作っています。
という意志表示を、奥田民生はこのツアーでしている、ということでもあるんだなあ。と、改めて思ったりした。

結局長くなってしまった。まだ書きたいことあるので、ブログかどっかに書きます。(兵庫慎司)
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