HiGE@ 赤坂BLITZ

HiGE@ 赤坂BLITZ
HiGE@ 赤坂BLITZ
赤坂ブリッツにて3ヶ月連続で行われるHiGEの対バン・イベント『9mmの髭とNICOのASSHOLE』。今回レポートをお届けする9mm Parabellum Bulletとの対バンを皮切りに、続いて5月23日にOGRE YOU ASSHOLEと、6月30日にはNICO Touches the Wallsとのライブを予定している。まあイベント・タイトル自体がそのまま親切設計になっているわけだが、これは秀逸なタイトルでしょう。9mmの菅原も今回出演するホストのHiGEや自分たちを差し置いて「凄いよね。『NICOのASSHOLE』だぜ?」と絶賛していた。タイトルとしては確かに、そっちの方が凄いのだけれど。

というわけで今回の先攻は9mmである。傑作アルバム『Revolutionary』をリリースしたばかりの勢いに満ち満ちた4人は、さっそく“Cold Edge”“Invitation”と新作収録曲を投下してゆく。三・三・七拍子でぶん回される“Cold Edge”のバンド一体型リフはもとより、“Invitation”の歌詞は個人的に『Revolutionary』のメッセージ的な部分で作品の根幹を成す重要な一曲だと思っているので、今回聴くことが出来て嬉しい。更にこの後には彼らがメジャー・デビューして以降の代表曲が矢継ぎ早に畳み掛けられてゆく。菅原は「来い!」とばかりに腕を振ってオーディエンスに歌詞を丸投げするなど、MCでの口数も少なくひたすら楽曲で攻めてゆく姿勢だ。滝も菅原を凌ぐほどになった巨大なパーマを揺らしてしっかりとコーラスを入れてゆく。気がつけば、“悪いクスリ”までの8曲をものの30分でやり遂げてしまった。滝のギターのシールドがこんがらがってしまっているので、スタッフがそれを解すのも一苦労である。

「俺が個人的にHiGEを知ったのは……バイトしてるときに音楽雑誌で彼らの記事を見つけて、髭なんだ…って(笑)。バンドとしては去年の夏フェスで、須藤さんに声かけてもらって。カッコイイね、って。なんか自慢みたいになっちゃってゴメン」。菅原にしてはいつになくたどたどしいMCである。特に面白い馴れ初めでもなかったのが不満なようだが、そこは正直申告。「明日は(HiGEと)一緒にARABAKI ROCK FEST.に出るんだ。だから今日の打ち上げは明日のバック・ステージでやるよ!」。そして再び曲また曲。今回はとにかく限られた時間の中にとことん楽曲を撒き散らしてゆく9mmなのである。アップ・テンポで攻撃的なナンバーの連打のあとに投下される“命ノゼンマイ”は強烈なインパクトだったし、確信のメッセージで切り込む“The Revolutionary”もいい。『Revolutionary』発表後では、過去の楽曲の歌詞も新しい命を吹き込まれているように感じる。ラストは超高速の“Punishment”で幕となった。アグレッシブに楽曲群を叩き付けてゆく点ではこれまでどおりだが、滝も中村も演奏のポイントを押さえ方が洗練されていたし、かみじょうのドラムは手数はそのままにスティックの軌道が更に丸くなった印象があって、熱量の高さと安定感が両立したパフォーマンスであった。

そして転換の後、HiGEがステージに姿を現す。新加入のアイゴン こと會田茂一はセンター、1.5列目というポジショニングだ。おお、なんかいかにも攻撃の司令塔という感じでカッコイイぞ。もともとアイゴンはHiGEにとって、新参メンバーというよりは名軍師といった役回りなのだ。彼の加入によって、須藤のポジションはかつてのステージ下手、右トップという位置に戻っている。違和感はない。いい感じだ。で、結論から書いてしまうと、今回のHiGEは「いい感じ」どころの話ではなく凄かった。オープニングのとぼけたファンキー・ロックンロール“なんとなくベストフレンド”が響き渡った時点で、すでにその好調ぶりにはピン、と来るものがあった。“ロックンロールと五人の囚人”(六人だけど)の須藤の突き抜けたシャウティング・ボーカルがオーディエンスを焚き付け、上手の斉藤も自分たちの好調な滑り出しに気を良くしてかぴょんぴょんと高いジャンプを繰り返している。強烈なリフのドライブでぐいぐいと引っ張る“ネアンデルタール Punks Fuck Off!”のグルーヴの上を《ところでさぁ 踊ろうぜ》という歌詞が這い、積極的にオーディエンスを巻き込んでゆく今回のHiGEを説明するようだ。そして拡声器コテイスイのオーバーラップも決まる。もうどうにも止まらないのは本来なら9mmのはずなのだが、個人的にこんな「無敵モードに入ったHiGE」は本当に久しぶりだ。やっぱり凄いバンドだ、と改めて痛感した。

甘美なサイケデリック・サイドのHiGEもいい。アイゴンは音の隙間を縫うような職人芸のギター・フレーズで5人を支えている。中盤では奥田民生がプロデュースした“サンシャイン”や、ACジャパンのCMソングに起用された“青空”といった新曲群も披露された。“サンシャイン”は気怠さと穏やかさが描かれた、まさにHiGEと民生の交点で生まれ落ちた一曲。須藤がアコギを抱えて披露した“青空”は、ポップな中にもHiGEらしいヒネリのあるメロディ・ラインが効いている。一曲一曲がすべて腑に落ちるというか、「これがHiGEです」といちいち名乗っているような説得力に満ちたパフォーマンスになっている。フィリポがアイゴンに絡んでちょっとグダグダなMCタイムになってしまったが、それぐらいでは今回のHiGEは揺るがない。なんといっても無敵モードだから。

後半戦は悶絶ロックンロール・ナンバーの連打である。こんなベスト・オブ・HiGEなセット・リストを、こんな絶好調な演奏を、いきなり出してしまって大丈夫なのかという、でもここまで来たら行けるところまで行ってくれという、そんなドキドキハラハラを孕みながらバンドは転がってゆく。“ハリキリ坊やのブリティッシュ・ジョーク”では、フロア後方までの一斉ジャンプが繰り広げられた。アンコールで“白い薔薇が白い薔薇であるように”が披露されたとき、須藤は「僕たちはこの曲で始まったんだ。で、またこの曲で始まるんだ」と言っていた。『Electric』や『D.I.Y.H.i.G.E.』といった時期、HiGEはバンドの内に向かった実験を繰り返し、ネクスト・レベルでのロックを目指していた。そしてベスト盤を経てアイゴンが加わり、民生と共作し、『9mmの髭とNICOのASSHOLE』で更なる刺激を求めながら、同時に目の前のオーディエンスを強く巻き込み始めたのだ。“白い薔薇~”を聴くと、HiGEは最初から、ある意味そのサウンドの世界観を完成させてしまっていたバンドだったのだと思う。だからこそバンド内での実験には意識的だった。きっと、実験は終わらないのだろう。でも、今のHiGEは明らかに外を向いていて、人々と真っ正面で向き合っている。手探りで、リアルタイムのロックを掴み取ろうとしている。この日の彼らはまさにそれだった。

「夢を見たんだ。それはこのライブの夢で、今ここにいる君たちは誰一人欠けることなく、ここにいた。そういう小さな奇跡が、僕たちの日常を彩っているんですね。誰一人欠けることなく、誰一人増えることなく(笑)。またここで逢おうよ。今日は本当に楽しかった。ありがとう」。とことんロマンチックでとことん馬鹿馬鹿しい、とことん毒々しくて甘美でチャーミングな須藤がそこにいた。この無敵のHiGEに、また近いうちに逢いたい。(小池宏和)

9mm Parabellum Bullet セット・リスト
1.Cold Edge
2.Invitation
3.Vampiregirl
4.Psychopolis
5.Lovecall From The World
6.Sleepwalk
7.interceptor
8.悪いクスリ
9.砂の惑星
10Termination.
11.命ノゼンマイ
12.The Revolutionary
13.Living Dying Message
14.Black Market Blues
15.Punishment

HiGE セット・リスト
1.なんとなくベストフレンド
2.ロックンロールと五人の囚人
3.ネアンデルタール Punks Fuck Off!
4.溺れる猿は藁をもつかむ
5.ランチ
6.サンシャイン
7.ミートパイ フロム ロシア
8. D.I.Y.H.i.G.E
9.青空
10.ドーナツに死す
11.髭は赤、ベートーヴェンは黒
12.黒にそめろ
13.ハリキリ坊やのブリティッシュ・ジョーク
14.テキーラ!テキーラ!
15.ギルティーは罪な奴

アンコール
16.白い薔薇が白い薔薇であるように
17.下衆爆弾
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