ウィルコ @ Zepp Tokyo

7年ぶり、なのである。というか、単独ツアーとしては、今回が実に初の来日公演なのである。彼らが以前に日本の地で演奏したのは、2003年なのである。冬のオールナイト・フェスとして東京・大阪で開催された、今は亡き(涙)MAGIC ROCK OUT以来なのである。2003年といえば、自分はCUTの編集長だったのである。時の流れを凄まじく実感するのである。そして、そんな大きな時の流れは、もちろん、ウィルコというバンドにとっても、そして、アメリカン・オルタナティヴ・ギター・ロックにとっても、大きなものだったのである。

グリズリー・ベアなんかが静かに流れる開演前の場内は、2階から見ると膨れ上がってるかのようにパンパン。曲が終わるたびに飛び交う口笛と大きな歓声で、バンドを一刻も早く呼び込もうとけしかける。ここに詰め掛けた観客が、いったいどれだけ「ウィルコ」を待ち望んでいたのかが痛いほどわかる。それだけでちょっと泣きそうになる。そんなロックにおける幸福な光景は、19時10分、客電の落ちた暗闇がつんざくような歓声で一瞬眩しくなったような錯覚すら起こさせる。そして、彼らがステージに登場した。

1曲目は「Wilco」! 全米ビルボード・チャートで初登場4位を記録した通算7枚目のアルバムの、その冒頭を飾った「バンド・ソング」で、彼らはこの記念すべきライブをスタートさせた。安定感、が凡庸さではなくて極上の愉悦を誘発するものであることを堂々と知らしめるバンド・サウンドが場内を満たす。そして、ジェフ・トゥイーディー独特な甘く鋭く、そしていつも哀しい声がフロアの後方まで届けられると、涙腺が決壊した。なんなんだこれは。

場内も同じと見た。バンド各人のひとつひとつの動きに身もだえ、感応し、狂喜しているのがわかる。それは、「Wilco」の演奏の終わりに、ブレイクを上手く使ってメンバーひとりひとりを紹介していくという小憎らしい演出を見せられてほとんど昇天していた。していたのだけど、そういうことでもない。オーディエンスはもちろん、そのような気の利いたウィルコのユーモアや知性や人間性(?)に反応していたのと同時に、今目の前で展開されている、アメリカン・ギター・ロック、というか、ロックそのものの恐ろしいまでの奥行きと広がりに慄いていたのであり、それがこの、どこをどう下駄をはかせてもお世辞にもスター・オーラのない6人から洪水のように流れ出てくることの不思議に、さらにロックの深遠を見ていたのだ、と思う。とにかく、凄いのだすべてが。

正直に白状してしまうと、ウィルコがこんなバンドだとは思っていなかった。もっと静謐で愚直で趣味のいい、そういうロックを丁寧に聞かせてくれるバンドだと思っていた。もちろん、そこにはかつてオルタナ・カントリーと呼ばれ、いまでは2000年代のアメリカン・ギター・ロックの精神とすら認められる彼らの、幾重にも重ねられた音の圧巻はあるとは思っていた。しかし、ここで演奏されているものは、そういうものを当たり前のように踏まえてはいるものの、もっと大きな何かだった。

どの曲もクライマックスのように繰り出される演奏が実現しているものは、2000年代のアメリカン・ロックがどのような底流を持ち、それがどれくらい太くアグレッシヴでスリリングであったかの高らかな証明としか言い様がなかった。表向きにはザ・ストロークスが登場し、レッド・ホット・チリ・ペッパーズが自己を清算し、リンキン・パークが新たな重さを提示した、そんな中で、ウィルコは静かに、2010年代にいっせいに華開いたアメリカン・ロック新時代のサウンドの準備を誠実に積み上げていた。

そんな時代の流れを、彼らはほとんど孤高の気位で守り、築き上げていたことが、土石流のような音量で浴びせられる。それがウィルコのライブだった。ウィルコは怪物だった。とんでもなかった。ひたすらに研磨されたロック・ミュージックは、研磨されることでとてつもない革新へと到達してしまう。その正しさに、もう途中からずっと、2時間20分後にいたる最後まで宮嵜は泣いていました。

曲が終わるたびに割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こった。中盤まで何も喋らずひたすら演奏を続けていたジェフに向かって、客席から「何か言え!」と声がかかった。背中を向けていたジェフはくるりと振り返ると、一言、「シャラップ!」と言った。それが最初のMCだった(その後はけっこう喋ったけど)。その姿に、男のわたしもつい濡れるほどシビレた。(宮嵜広司)

下記は事前に配布されたセットリストから。

1.Wilco
2.Bull
3.Face
4.Heart
5.One Wing
6.Shot
7.At Least
8.Radio
9.Muzzle
10.Deeper
11.Handshake
12.Imposible
13.Via
14.Poor Places
15.Reservations
16.Spiders
17.Hummingbird
18.Jesus
19.You Never Know
20.Always In Love
21.HMD
22.Hate
23.Walken
24.Man
encore
25.Misunderstood
26.?
27.?

下記は実際に演奏されたリスト。

01 Wilco (The Song)
02 Bull Black Nova
03 You Are My Face
04 I Am Trying To Break Your Heart
05 One Wing
06 Shot In The Arm
07 At Least That's What You Said
08 Radio Cure
09 Muzzle Of Bees
10 Deeper Down
11 Handshake Drugs
12 Impossible Germany
13 Via Chicago
14 Poor Places
15 Reservations
16 Spiders (Kidsmoke)
17 Hummingbird
18 Jesus, Etc.
19 You Never Know
20 I'm Always In Love
21 Heavy Metal Drummer
22 Hate It Here
23 Walken
24 I'm The Man Who Loves You

- encore -
1 The Late Greats
2 I Am Wheel
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