「ありがとう! みんな寒くねえか? 暑いか! もうね、グッときた! 昔、ここ野音でイベントに出た時、『帰れ!』って言われたからね。お呼びじゃねえって。それが今、ちょっとはこの辺でもお呼ばれするようになって……嬉しいよ!」という兄ぃこと増子直純(Vo)のMCに、超満員のオーディエンスから沸き上がる拍手喝采と賞賛の嵐! 結成当時の「アンダーグラウンド・ハードコアの異端児」から、今や「日本のワーキングクラスの希望の星」と呼んで差し上げたくなるまでにその威力とポピュラリティを増した爆裂アラフォー酔いどれ4銃士=怒髪天のワンマン・ライブ『リズム&ダンディー“Dメン2010 日比谷より愛をこめて”』@日比谷野音、3000人のオーディエンスで超満員!
「昨日の夜はどうなることかと思ったよ! 雪って! 41年ぶりだそうです。すごくねぇ?」という兄ぃの言葉通り、まさにライブ当日の明け方まで、東京は超季節外れの雪。天候自体は回復したとはいえ、夕方の日比谷野音はいくら怒髪天のライブといえどもビールを買うのがためらわれるほどのキリッとした寒さ。しかし、『Dメン2010』というタイトルにちなんで昔懐かしい『Gメン’75』のテーマとともに4人(となぜかダンサー2人)がオン・ステージして沢田研二の“勝手にしやがれ”を披露した瞬間、3000人のロック魂はあっさり沸点を越えていた。
「今日はね、ありったけのダンディズムを、頼まれもしないのにみんなの心にデリバリー、的な? これ聴いたら、そこらで仕事してる人はみんな辞めると思うよ。『やってらんねえ!』っつって」と兄ぃは冗談めかしていたが、“ヤケっぱち数え歌”“オレとオマエ”“ど真ん中節”“アフター5ジャングル”“オトナノススメ”といった最新アルバム『オトナマイト・ダンディー』の楽曲に加えて“労働CALLING”“GREAT NUMBER”など前作『プロレタリアン・ラリアット』の曲、さらに“明日をブン殴れ!”“蒼き旅烏”“はじまりのブーツ”“サムライブルー”などなど99年の活動再開後の作品群から次々に、ロックンロールと歌謡とメタルとブルースと熱血とダンディーの限りを尽くした楽曲が飛び出してくると、歓喜を通り越してどうしても感動を禁じ得なくなってくる。日本のロックが進化の過程で置き去りにしてきた、一見カッコ悪いど根性とか熱血とかぐでんぐでんの千鳥足感とかやさぐれ感とか逆ギレ感を、怒髪天は丁寧に1個1個拾い集めて、
血管ぶち切れるほどのエネルギーと誠実さでもって曲の形に結晶させてきた。不況だったり先の見えない時代だったりする中で、怒髪天の黒光りするほどに鍛え上がった極太ロックンロールに熱い支持が集まるのは、偶然でも何でもない。
5月からのアルバム・ツアー&初のフジ・ロック出演!という告知MCの際、思わず「これからの怒髪天にご注目いただけますと……助かります!」と言ってしまう坂詰克彦(Dr)の舞い上がりっぷりは怒濤の失笑を巻き起こして会場の温度を上げていたし、“NO MUSIC, NO LIFE”で「音楽のない人生なんて、お前らのいない野音みたい!」と叫び上げる兄ぃの姿はうおおおおお!とさらなる熱い歓声を誘っていた。アンコールの“YOU DON'T KNOW”では作詞作曲=箭内道彦がアコギ持って参加する一方で上原子友康(G)が壮絶な泣きのギター・ソロを披露して「この都会のど真ん中を手中に収めた気分になってしまって」といつになく満足げだったし、陽が落ちてさらに気温が下がる野音の客席を「冬将軍を見に来たのかと思ったよ! 今度は吹雪かせっから!」と清水泰而(B)が笑いに巻き込んでいた。「のめ、のめ、のめ、のめ!」という唯一無二のカウントから突入した“酒燃料爆進曲”ではマジで野音の地面が大きく揺れたし、《朝焼けの空》という3000人大合唱には、最近とみに涙もろい兄ぃも思いっきり感極まっていた。
極めつけは、熱烈な歓声に応えてのダブル・アンコール“サスパズレ”。歌が始まったが、ステージ上には3人しかいない。「おらあ、どこ見てんだ!」という声のする方を見ると、なんと増子兄ぃがステージ袖のカメラ・クレーンの上に! 「めちゃめちゃ怖いんですけど! 俺の命懸けの感謝、受け取ってくれ!」という絶叫に導かれて、野音の客席全体が♪ラーララーラー、ラーラララーの合唱とともに左右に大きく揺れる。ウルフルズの“いい女”同様、終わると見せかけてなかなか終わらないクライマックス定番お祭り曲なのだが、「この曲でグッとくるようになったら終わりだな!」と舞台に戻った兄ぃの眼はすでに真っ赤だ。「次ワンマンやる時は、涙腺焼き切ってくるわ!」。2時間弱のステージの中で、結成25年の区切りを越えてなお「日々これレッドゾーン」的な前のめり感を体現する「今」を見せつけた怒髪天。やっぱり日本のロックにはもっと怒髪天が必要だ、と改めて感じた一夜だった。(高橋智樹)
[SET LIST]
01.勝手にしやがれ(沢田研二カバー)
02.ヤケっぱち数え歌
03.労働CALLING
04.明日をブン殴れ!
05.GREAT NUMBER
06.蒼き旅烏
07.はじまりのブーツ
08.オレとオマエ
09.サムライブルー
10.ど真ん中節
11.アフター5ジャングル
12.ドンマイ・ビート
13.NO MUSIC, NO LIFE
14.オトナノススメ
EC1-1.YOU DON’T KNOW
EC1-2.ぐでんぐでん
EC1-3.酒燃料爆進曲
EC1-4.セバ・ナ・セバーナ
EC2-1.サスパズレ
怒髪天 @ 日比谷野外大音楽堂
2010.04.17