ボブ・ディラン @ ZEPP TOKYO

およそ60曲近い楽曲を披露することになった今回のボブ・ディランの日本公演。大阪、名古屋、そして東京と計14公演を駆け抜けていった今回の画期的なツアーの楽日がまさに29日Zepp Tokyo。今回は初っ端となった11日の大阪公演を観て、そして、この日の29日。11日の大阪もとんでもない内容に圧倒されただけに、29日にかける期待も相当なものだったけれども、それを軽く上回ってしまうファン冥利に尽きるパフォーマンスだったと思う。感動したとか、感激したとか、ロックのなんたるかがわかったとか、いろいろこの気持のほとばしりを表現する言い方はあるけれども、要するに観ていて、自分の感性の根幹を揺るがされたところがあったということだ。

来日中のセットリストの変遷は数名の友人の話を聞いただけで、某メジャー・レーベル・ディレクター氏の熱血メルマガも11日以外の情報は開封しないようにして(この原稿を書く前にようやく全部開封しました)、なるべくまっさらな気分で臨むようにしたので、やっぱり驚きました、オープナーの〝雨の日の女〟! 「ひょっとすると今日は旧作では『ブロンド・オン・ブロンド』モードなのか!」といきなり盛り上がる。この曲、個人的にはライヴ初体験だし、このブルース感とボブのキーボードのコードが本当にたまらない展開。今日は雨こそ降っていなかったけど、ちょー寒くて、『フリーホイーリン』のジャケ写みたいに彼女を連れて来ている若いディラン・ファンもたくさんいて、それがちょっとうらやましくもあったし、そんな時にこんな厳しい人間関係の歌が出てくると、やっぱりよくわかっていらっしゃいますという感じになるというか。

続いてはボブがセンターに移って〝イッツ・オール・オーヴァー・ナウ・ベイビー・ブルー〟! これはもう歌詞的にかなりハードな展開に入ってきております。そこからやはり『ブロンド・オン・ブロンド』の〝我が道を行く〟。そして、『トゥゲザー・スルー・ライフ』の〝マイ・ワイフス・ホーム・タウン〟、『アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン』の〝アイ・ドント・ビリーヴ・ユウ〟と、ここまでの5曲の展開はあまりにも完璧なパフォーマンス。チャーリー・セクストンを軸とする今現在のディラン・バンドのブルース感の真骨頂をあらためて披露するという感じなので、旧作ではあるが、もうまるで新作のようなエッジに満ちているし、男女の不可逆性みたいな歌詞の流れが本当にすごいことになっている。40代アラフィー・バツイチ、この先どうすればいいの……。

続く『モダン・タイムス』の〝スピリット・オン・ザ・ウォーター〟は97年以降のディラン作品の独特な空気感をもわっと伝える曲なので、一気にライヴのベクトルをいったん切り替えてくれるし、聴けば聴くほど甘さが切ない名曲だと思う。こんな戦前のジャズ・ヴォーカルのような感傷をまっとうなモダン・ロックとして鳴らすという芸当が出来たのはまさにこの人しかいないだろう。続いては、『タイム・アウト・オブ・マインド』からの必殺ナンバー〝コールド・アイアン・バウンズ〟。ここの一年くらいのボブのツアーの軸にもなってきた曲で、来日中は外された日もあったようだが、この楽日では復活して、このもう独特なファンク・グルーヴが病み憑きになります。とりあえず、女か事業か、そのどちらかで失敗した経験があるとこのブルースからはもう逃れられないのかも? そして、出ました、〝廃墟の街〟! もうここからは一気に締めへの流れと雪崩込む感じ。けれども、これに続く〝ザ・レヴィーズ・ゴナ・ブレイク〟、これがもうすさまじいロカビリー的名演で、少なくともAブロック後ろの方のぼくの周りではとてつもない興奮にオーディエンスが捕らわれることになっていた。そこからは〝ホエン・ザ・ディール・ゴーズ・ダウン〟からちょっとカリブ的な『タイム・アウト・オブ・マインド』の〝キャント・ウェイト〟、そして、締め前に必ず演奏されてきた〝サンダー・オン・ザ・マウンテン〟へ。この日まで本編の締めはずっと〝バラッド・オブ・ア・シン・マン〟で、ここで順当にそれで終わっていくのかなと思ったところで、ディランはイントロでバンドにいろいろ要求をして、そのまま変則的に演奏は〝いつまでも若く〟へという、ちょっと驚愕の流れ! これほど老境に至ったパフォーマーとしての凄味を2週間にわたってみせつけておきながら、ここで〝フォエヴァー・ヤング〟とは! たぶん、オーディエンス全体がディランの表現に賭けた意志に圧倒された瞬間でした。少なくともぼくはそうでした。

アンコールはいつものとおり〝ライク・ア・ローリング・ストーン〟〝ジョリーン〟〝見張り塔からずっと〟の3連発で、超盛り上がり状態で終了。その後、カーテン・コール的なバイバイがあったあとで、あまりのオーディエンスの熱狂に折れて、再びバンドが登場! そこからの〝風に吹かれて〟はあまりに予想外の展開で息を呑む展開だった。完全に現在のバンドに合わせたアレンジとパフォーマンスもまた驚きで素晴らしかった。

というわけで、2010年ディラン祭はこうして終わってしまいました。今回のライヴは11日の大阪もあわせて、ぼくとしてはこれまで観たライヴのなかでも最高のライヴ体験のひとつだったといってもいい。その理由として、ボブ自身のモチヴェーションが今非常に高いこと、そしてバンド・パフォーマンスがとてつもない域に達していることが挙げられると思う。けれども、大阪、名古屋、東京とZeppだけという会場に限定した今回のツアーの企画も素晴らしかったと思う。願わくは、近いうちにまたボブをこんな形で観てみたい。(高見展)
 
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