ヨーロッパ @ 渋谷O-EAST

アンコール最後、“ファイナル・カウントダウン”のO-EAST一丸の大合唱に思わずくらくらして、速レポの仕事も36歳のおっさんたる自分の境遇も一瞬忘れて拳を固めて歌ってしまった……というか。この公演はそもそも、北欧が生んだ80年代メロディック・メタル/ハード・ロックの雄=ヨーロッパの3年ぶりジャパン・ツアーの真っ最中であり、本来ならアンコールの最後の曲目を書いてしまうのは御法度もいいところなのだが、3年前の4月に観に行った東京厚生年金会館でも“ファイナル~”はアンコールの最後の最後にやってたので、これはもう「周知の事実」ということにして先に書いておく。いや、「『バンド史上最大のヒット曲を本編でやったら、80s産業ロック・リアルタイマー多めで平均年齢高めの客層がライブの途中で安心して帰ってしまうから』とかいう計算に基づいた巧妙なライブだった」と書きたいわけではない。むしろ逆だ。かく言う自分だって、3年前も今回も“ファイナル~”を楽しみに観に行っているクチなのだが、特に今回は、本編を観ているうちに“ファイナル~”の存在を忘れかける瞬間が幾度となくあった。それくらい、この日の彼らのステージがどこを切ってもエネルギッシュなものだった、ということだ。


ほぼ19:00オン・タイムで照明が落ちたEASTに巻き起こる、怒濤の歓声と手拍子! いきなり最新作『ラスト・ルック・アット・エデン』をはじめ2004年の再結成以降の楽曲で満場のフロアに挑むジョーイ・テンペスト(Vo)、ジョン・ノーラム(G)、ジョン・レヴィン(B)、ミック・ミカエリ(Key)、イアン・ホーグランド(Dr)の5人の、ヘヴィで流麗で、身を焼くほどにハードなロック・アンサンブル! その演奏が絶頂を迎えるたびに、オーディエンスは拳を突き上げ、歌い、叫び上げる。ジョーイの「ミンナ、ゲンキ? クレイジー! サイコー!」という充実感ばりばりのMCを聴くまでもなく、この場にいる誰にとっても最高のライブであることを、もうもうと沸き上がる熱気が物語っている。


そして。これが90年代とか00年代前半だったら、80年代ヘヴィ・メタル/ハード・ロック/あるいは産業ロック系のライブと言えば、髪が白くなったり薄くなったりしたオジサマたちの巣窟と化すのが関の山だった。が、この日の客層は3年前とは明らかに違っていた。『LOUD PARK』などジャンル別ロック・フェスを仕掛け、若いフェス客たちにハード・ロック/ヘヴィ・メタル系古豪の単独公演の面白さを啓蒙してきた招聘元=クリエイティブマンの地道な成果の表れとしか思えないし、前回の椅子席会場のホール・ツアーとは違い、ライブハウス・ツアーを組んだあたりも含め「作戦勝ち」というところは大きい(し、05年にAXでやってたのとは意味合いが違う)。2階席から観ても、確かに白髪頭や薄くなった髪のオジサマオバサマたちは多いが、それに負けじとTシャツ姿の若い男子&女子客が拳を掲げているのも、ちらほらどころではない割合で見受けられる。


そんな会場の熱気を、現在46歳ジョーイの高らかなシャウトをはじめ5人のプレイがぐいぐいと引っ張っていく。曲順の詳細は伏せておくが、もちろん“キャリー”やるし“チェロキー”やるし“ロック・ザ・ナイト”やるし、「この曲は世界中の他のどこでもやらない! 日本でしかやらないぜ!」と言って“ニンジャ”やるし……という往年の名曲群は天井知らずに盛り上がり、いちいち空気がびりびりと震えるほどの大合唱が巻き起こる。だが、何と言ってもモダン・ヘヴィ・ロックに大きく舵を切った2004年以降の3枚=『スタート・フロム・ザ・ダーク』『シークレット・ソサエティ』『ラスト・ルック・アット・エデン』の楽曲の壮麗な破壊力がすごい。だいたい70年代~80年代のハード・ロック系バンドがモダン・ヘヴィ・ロックに接近するとのっそりしたおっさんくささが先に立ってロクなことはないのだが、今の彼らはその重さをもあふれんばかりのエネルギーとクラシカルな構築力でもって突破してしまっている。

ジョーイ「みんな、どこから来たの?」

観客1「オーストラリア!」

ジョーイ「……ウェルカム・トゥ・ザ・ショウ!」

ミック「(にっこり笑ってその観客に水のボトルを投げてあげる)」

観客2「フロム・カナダ!」

ジョーイ「……イッツ・ジョーク? ピック要る?(と自分のピックを投げてあげる)」

という気さくなMCも、そんな会場のむせ返るような熱気をさらに高めていく。


怒濤の絶唱とギター・ソロとメロディアスなシンセ・フレーズとタイトなビートの洪水。何より、「ロックとは極限までパワーを炸裂させてなんぼのショウである」という80年代流の(当時はデフォルトであった)哲学に裏打ちされたアクトの1つ1つに、すっかり身も心も満足しきったところに、最後の最後で“ファイナル・カウントダウン”である。もう、あのシンセ・ブラスのファンファーレも、ジョーイの激情だだもれの歌メロも、音楽の神様降臨!とでもいうようなドラマ性に満ち満ちていた。昨日もここEASTでライブやってた疲れを微塵も見せることなく、「マタアイマショー!」とジョーイが満足げにステージを去るまで2時間弱。世代もジャンルも超えて、誰彼構わず文句なしに燃えるロック・アクトだ。28日は大阪なんばHATCH、29日は名古屋クラブダイアモンドホール。ぜひ。(高橋智樹)

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