ゆず@日本武道館

ゆず@日本武道館
ゆず@日本武道館
ゆず@日本武道館 - pic by 木村篤史pic by 木村篤史
傑作『FURUSATO』を携えて昨年11月から行われてきた『YUZU ARENA TOUR 2009-2010「FURUSATO」』。この3月3日及び4日に行われた武道館公演は、ゆずにとってキャリア初となる「再」追加公演である。北川がプチ・アンケートと称して「毎回ツアーに来てくれる人!」「たまに来てくれる人!」「久しぶりに来てくれた人! いいんですよー、正直に!」なんて余裕の表情でステージ上から問いかける一幕もあった(あと、それに対して、中には「5年ぶり!」という律儀な返答も飛んだ)。つまり、ゆず自身にとっても今回のアルバム『FURUSATO』の成果には、それだけ大きな手応えがあったのだろうということだ。

開演と同時に、『FURUSATO』のジャケット・アートワークに収められていたゼンマイ仕掛けの家のゴンドラが、ステージ上を走り出す。今回のステージで披露された楽曲は、自信が如実に表れて『FURUSATO』収録曲中心のものになっていたが、オープニング・ナンバーは意外にも“桜木町”だ。これはおもしろい。必ずしもアルバム単位としての『FURUSATO』が重要なのではなく、FURUSATOというより大きなテーマがパフォーマンスの根幹となっていて、それに則して演奏曲が選ばれているのだ。肩肘張らずにリラックスして楽しめる進行だけれども、実はかなりコンセプチュアル。というか、ゆずが今回のアルバムとツアーで提示しようとしているそのFURUSATOのテーマと、そこから導き出されるメッセージが、それだけ重要なものになっているのである。

汗だくになってステージを右左に駆け巡りつつ煽り立てる北川と、きっちりとしたギター・プレイにときにはハーモニカを交え、伸びやかな歌声を届けてくる岩沢。ますます明確になってゆく役割分担も胴に入っていて、さすがに経験がそうさせるのか安心感がある。もちろん盤石のバック・バンド「オールスパーキング」によるサポートのおかげもあるだろうが、“二つの言葉”のようにゆず二人のギターと歌を核に据えたナンバーにおいても、安心感は揺るぎないのだ。作品のバージョンよりもゆったりと、ジェントルに聴き手を巻き込んでゆくようなステージングは、もはや貫禄である。

“健太郎のお姉ちゃん”でライブ参加者の固有名詞を拝借してしまうパフォーマンスのとき、この最終公演ではスクリーンに北川の実姉と義兄(つまりお姉さんの旦那さん)が登場。北川、知らされていなかったのかズッコケている。「本当のお姉ちゃんじゃん」「勘弁してよー!」と喚きながらも、“悠仁のお姉ちゃん”を歌うのだった。いや、ある意味正しくFURUSATOである。コンセプチュアルなのである。そして『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のパロディ寸劇を挟みながらの“タイムマシーンメドレー”は1998年。ゆずのメジャー・デビュー年の映像をプレイバックしつつ、当時の楽曲が披露される。二人ともビジュアル的にさほど変化しているわけではないが、1998年当時はやたらめったら目つきが尖っている。正直に言うとあの頃、僕はゆずを「爽やかフォーク・デュオの皮を被ったパンクス」だと思っていた。なんでそう思ったのかずっと不思議だったが、きっとあの目つきのせいだったのだ。大きなコンセプトを掲げて人生のテーマと向き合おうとする今の表現者・ゆずとは、ずいぶん違っている。

「ライブハウス武道館へようこそー!」とどこかで聞いたことのある北川の煽り文句から傾れ込んだ“いちご”、そして華々しく発射されたリボン・キャノンと「それそれそれそれ!」という祭囃子で幕を開けた“夏色”には、リアルにスタンド席が揺れていた。そしてクライマックスに配置された“逢いたい”だ。後に北川は「僕達の歌が、みなさんの側にあるFURUSATOになれば、と思いました」と語っていたけれども、そのFURUSATOとはただ優しく、甘美な思い出というだけのものではないのかもしれないな、と“逢いたい”を聴きながら思った。記憶の内にこびりついて自分を自分たらしめているもの、その心のふるさとは、場合によっては「痕」なのだ。望むと望まざるとに関わらず、確実に大きな存在感をもって自分と共に生きてゆくものなのだ。ストリングス隊を招き入れてプレイされた、本編ラストの壮大な“虹”では、更にこう歌われていた。《間違いなんてきっと何一つ無いんだよ》と。

アンコールでは桜の花びらをかたどった紙吹雪が舞う中で新曲“桜会”が披露されたほか、「もう1曲いける?もう1曲!」といった調子で、ツアー最終日にのみしばしば披露されるスペシャル・ソングなどを披露。18時半にスタートしたライブは22時を回ったところで、ゆずの二人が『FURUSATO』の家型ゴンドラで去って幕となった。更に、アンコール時になされた告知によれば、夏には早くも彼らの次なるツアー『YUZU LIVE CIRCUIT 2010 SUMMER “FUTATABI”』が決定しているという。ホール規模で行われる、久々の2人だけの、弾き語りツアーになるそうだ。彼らのオフィシャルHPでぜひ確認してみて欲しい。(小池宏和)


セットリスト
1.桜木町
2.シシカバブー
3.アゲイン2
4.スーパーマン
5.二つの言葉
6.レストラン
7.健太郎のお姉ちゃん
8.タイムマシーンメドレー
(四時五分~遊園地~ところで~月曜日の週末~
 大バカ者~からっぽ~贈る唄~シュビドゥバー
9.栄光の架橋
10.ゼンマイ
11.はるか
12.Yesterday and Tomorrow
13.マイライフ
14.いちご
15.夏色
16.青
17.逢いたい
Overtune~FURUSATO
18.虹

アンコール
19.桜会
20.陽はまた昇る
21.みらい
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする