ZAZEN BOYS@赤坂BLITZ

2009年最後のZAZEN BOYS単独公演。今年は立川志らく師匠とのジョイントやSCOOBIE DOとの対バン・ツアーなど、組み合わせの妙で観る者を楽しませる機会の多かったザゼンだけれども、今回のワンマンは果たしてどのようなものになるか。リラックスした表情でステージ上に現れたメンバーがそれぞれのポジションにつき、オープニングの演奏へと向かう。向井がひと言「MATSURI SESSIONをおっぱじめます。チャァーメルォ!」。……ちゃーめる? とても耳馴染みのある旋律をギターで爪弾き出した。“チャルメラ”のメロディじゃないか。フロアのあちこちで笑い声が漏れ出すのだが、ステージ上は真剣そのもの。向井のメロディに他のパートが絡むようにして、次第にブルージーな熱を帯びてゆく“チャルメラ”であった。すげえ。こんなロックな“チャルメラ”、聴いたこと無い。

そして例によって、まるでステージ上で楽器を使った組手演舞が繰り広げられるような、或いは向井というサディスティックな指揮者によって統制されたジャム・セッションへと突入。相変わらず息もつかせぬ無茶振り。でも、さすがに現行メンバーに落ち着いてからの月日がそうさせるのか、決して以前ほどシステマティックな雰囲気ではないようにも見える。緊迫はしているが、楽しむ余裕があるというか。“Himitsu Girl’s Top Secret ”や“Honnouji”に至っては、意図的なアレンジの変更というよりも、有機的な変質・変態を感じさせるこなれたアンサンブルを聴かせたのであった。それにしても、これだけ複雑に入り組んだアンサンブルをキャッチーに聴かせるザゼンって、改めて異様な存在だ。ディープでハードコアで趣味的な方向に振り切れていてもおかしくないのに、決してそうはならない。特に近年生み出された楽曲ほど、そう感じる。

「じゃあここで、あまりやらないんですけどね、カバーを。“ジス・チャーミング・マン”!」。なにい!? ザゼンが“ジス・チャーミング・マン”!? カシオマンこと吉兼が、あのジョニー・マーの軽やかに踊るようなギター・イントロを掻き鳴らす。おお、マジだ。“ジス・チャーミング・マン”だ。かつてモリッシーが在籍したイギリスのバンド、ザ・スミスの名曲である。なんてこった。…いや、好きですよ? おれの携帯の着うた、何年もずっとこの曲だし(あのギター・イントロは着信音に最適)。でも、ザゼンとこの瑞々しくキャッチーなメロディという組み合わせが、意外過ぎてびっくりしたのだ。むしろロックとして、両極と言ってもいい。それをノリノリでやっているのがいい。無条件に面白い。またもやフロアのあちこちからくすくすと漏れていた笑いは、つまりそういうことなんだろう。向井はあの、サビ直前の「アァアッ!」という名シャウトもきっちりと再現していた。

〈くり、くり、くり、繰り返される、諸行は無常〉という歌い出しでオーディエンスを沸かせた“SI・GE・KI”から、熱を孕みつつドラマティックに突き進む“Whisky & Unubore”で巻き起こしたシンガロングへの流れは、中盤のハイライトであった。「来年の1月に出る、SuiseiNoboAz(スイセイノボアズ)のアルバムの録音を、私が担当しました。良くも悪くも、MATSURI STUDIOサウンドにならざるを得ないという。まあ、とても好きなバンドです」という向井の援護射撃MCののち、「じゃあ、あまりやらないんですけどね、カバーを」とまたもや“ジス・チャーミング・マン”がプレイされる。そんなにやりたいか。例のシャウトが「おぅわぁっ!」とパワーアップしている。なんなんだ。何の衝動に駆られているんだ向井。

適度な緊張感をもって、余裕すら感じられる熱狂を生み出していた“Cold Beat”では、向井がカシオマンのギター・プレイに再び細やかなハンド・サインを送る。そして“Friday Night”から始まった華やかなキーボード・サウンドが彩るニュー・ウェイヴ/ボディ・ビート路線の固め撃ちは、盤石の体勢でエクスタシーに到達させる力に満ちていた。キャッチーな4つ打ちの中にもはっきりとザゼンのグルーヴが宿るこのスタイルは、やはりひとつの発明だ。カシオマンが操るカオシレーターのエレクトロニック・ノイズにまみれ、向井の詩情が爆発する。同化を拒否する意志と孤独感を糧にドライブしてゆくこの「歌」は、ダンス・ミュージックを一面的な快楽には留まらないものにする。これがザゼンの、踊れるポップ・ミュージックであり、ロックなのだ。

アンコールでは三たび“ジス・チャーミング・マン”をやり、そしてラストはここ最近の定番、楽器置き去りの4人ヒューマン・ビートボックス・セッションによる“安眠棒”が披露された。やっぱり、普通に演奏される“ジス・チャーミング・マン”よりも楽器なしの“安眠棒”の方が、よっぽど「ZAZEN BOYS」な感じがしてしまう。

バンドが有機的にこなれていて、以前よりも涼しい顔をしながら異形のコンビネーションを叩き出していたという印象のステージだった。ただし、そこには目に見えて明らかな、ザゼンの新しい地平というものも無かった。これは100パーセント僕の勝手な憶測だが、彼ら4人はMATSURI STUDIOで実験を繰り返しながら、ときどき息抜きに“ジス・チャーミング・マン”をプレイしたりしているのではないだろうか。息抜きだから、ザゼンらしからぬほどこんなにもカラフルで、メロディアスで、弾けるようにポップな曲でなければならなかったのではないだろうか。果てしない実験が繰り返されて、何度も息抜きしているうちに、こんなに上手くなってしまいました、ということではないのだろうか。いや、100パーセント憶測だけど。来年の彼らは何を見せてくれるのだろう。今から楽しみだ。(小池宏和)

セットリスト
1.Matsuri Session
2.Riff Man
3.Himitsu Girl’s Top Secret
4.Honnoji
5.Weekend
6.This Charming Man
7.Nabe & Sada
8.Daruma
9.SI・GE・KI
10.Whisky & Unubore
11.TANUKI
12.Maboroshi in My Blood
13.Ikasama Love
14.This Charming Man
15.SEKARASIKA
16.Cold Beat
17.Friday Night
18.I Don’t Wanna Be With You
19.Sabaku
20.Asobi

アンコール.
21.This Charming Man
22.安眠棒
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