ライブレポート
2009.12.17
ヨ・ラ・テンゴ @ 品川プリンス ステラボール
結成25周年を迎えた今年は9月に12作目となるニュー・アルバム『ポピュラー・ソングス』をリリースしたほか、3月にも変名カバー・バンドのコンドー・ファックス(メンバーは同一)による1stアルバム『ファックブック』を発表したヨ・ラ・テンゴ。長いキャリアを経てますます意気軒昂な彼らの2年ぶりとなる日本ツアーは、大阪、名古屋、そして9月にもアメリカで対バンを行っているゆらゆら帝国を迎えたSHIBUYA O-EASTでの追加公演に続き、今夜が最終日となる。
ヨ・ラ・テンゴというと個人的には持ち前の技量と音楽の伝統への深い造詣によってどんなタイプの楽曲でも完璧にこなせる器用なバンド、というイメージがどうしても先行してしまうのだが、今夜はそんな先入観が覆されるすごいライブだった。
改めて断ることでもないけれど、器用であることは欠点どころか彼らの最大の魅力の1つである。シンコペーションのコード弾きから生み出される疾走感が心地良い“ナッシング・トゥ・ハイド”、激しい歪みのかかったボーカルとギターが高揚感を煽る“ウォッチ・アウト・フォー・ミー・ロニー”、しんと静まりかえった会場にベースのジェームスの切ないボーカルが響き渡った“ブラック・フラワーズ”などの曲には、心の中のいろんな場所にある普段は忘れられている感情を1つ1つほぐすように喚起し、自分を本当の意味でバランスの取れた十全な人間へと復帰させてくれるような繊細なリアリティがある。
それだけでも感動的なライブだったし、新旧の人気曲がふんだんに披露された全22曲のセットは、「今はホリデイ・シーズンでみんな聴き飽きてるかもしれないけど、クリスマス・ソングをやるよ」とアイラが言って始まった“ロックンロール・サンタ”(Jan Terriのカバー)や、曲の前にオーディエンスやイベンターへの感謝の言葉が述べられた“ユー・キャン・ハヴ・イット・オール”でのライブ恒例のメンバーによるダンスなど、ファン・サービスも盛りだくさんだった。
でも今夜のライブでの一番大きな発見は、オープニング曲“アンド・ザ・グリッター・イズ・ゴーン”、そして本編最後を飾った“ザ・ストーリー・オブ・ヨ・ラ・テンゴ”といった長尺の曲にあった。これらの曲からは、ヨ・ラ・テンゴがその器用さによって多様な世界を展開するいわば「水平的な」表現とはまた別の、個々人がそれぞれ自分の心の中に降りていくような「垂直的な」表現方法を持っていることに気づかされた。
同じリズムやメロディのパターンがひたすら反復されるこれらの曲にはフィードバックを多用したノイジーなギター・プレイも含まれているけれど、デビュー前には音楽批評家をやっていたというアイラの演奏にはほとんど常に抑制が利いていて、その方法論はたとえば聴き手をパワフルに意識の深層にひきずりこんでいくようなゆらゆら帝国の演奏とは趣を異にしている。オーディエンスもサウンドがどれだけ激しくなっても大半の人は身体を軽く揺らしているくらいで、熱狂的な感じはほとんどない。
だが曲が始まって5、6分が経過し、そのパターンが自然に耳に馴染んでくる頃から意識はゆっくりと下降し始める。そしてその落ちていった先にあるのは、“アンド・ザ・グリッター・イズ・ゴーン(そして輝きは失われた)”というタイトルや「僕らは失うことを決心し、決して振り向かないと決めた」という“ザ・ストーリー・オブ・ヨ・ラ・テンゴ”の歌詞が示しているように、彼らがその中で多くのものを失ってきたこれまでの人生(あるいは25年の活動期間)そのものであるように感じられる。
そんな喪失感や時間の不可逆性を前にして、これらの長大な曲ではバンドとオーディエンスはその「長さ自体」を実際に共有することによって、過ぎ去った時間の感触を再現し、かつてそこにあったはずの意味を推し量ろうとしているように思える。そのとき、彼らの鳴らす音はもはや取り戻すことのできなくなったものに対する祈りにも似ている。
会場全体に静謐さが漂った“アワー・ウェイ・トゥ・フォール(僕らの落ちていく道)”で締めくくられた今夜のライブ。タイトルとは裏腹に曲中で「アワー・ウェイ・トゥ・フォール・イン・ラヴ(僕らが恋に落ちていく道)」と歌われるこの曲は、僕らが落ちていく先には愛が待っていることだってあるのだと語りかけているようにも思えた。(高久聡明)
結成25周年を迎えた今年は9月に12作目となるニュー・アルバム『ポピュラー・ソングス』をリリースしたほか、3月にも変名カバー・バンドのコンドー・ファックス(メンバーは同一)による1stアルバム『ファックブック』を発表したヨ・ラ・テンゴ。長いキャリアを経てますます意気軒昂な彼らの2年ぶりとなる日本ツアーは、大阪、名古屋、そして9月にもアメリカで対バンを行っているゆらゆら帝国を迎えたSHIBUYA O-EASTでの追加公演に続き、今夜が最終日となる。
ヨ・ラ・テンゴというと個人的には持ち前の技量と音楽の伝統への深い造詣によってどんなタイプの楽曲でも完璧にこなせる器用なバンド、というイメージがどうしても先行してしまうのだが、今夜はそんな先入観が覆されるすごいライブだった。
改めて断ることでもないけれど、器用であることは欠点どころか彼らの最大の魅力の1つである。シンコペーションのコード弾きから生み出される疾走感が心地良い“ナッシング・トゥ・ハイド”、激しい歪みのかかったボーカルとギターが高揚感を煽る“ウォッチ・アウト・フォー・ミー・ロニー”、しんと静まりかえった会場にベースのジェームスの切ないボーカルが響き渡った“ブラック・フラワーズ”などの曲には、心の中のいろんな場所にある普段は忘れられている感情を1つ1つほぐすように喚起し、自分を本当の意味でバランスの取れた十全な人間へと復帰させてくれるような繊細なリアリティがある。
それだけでも感動的なライブだったし、新旧の人気曲がふんだんに披露された全22曲のセットは、「今はホリデイ・シーズンでみんな聴き飽きてるかもしれないけど、クリスマス・ソングをやるよ」とアイラが言って始まった“ロックンロール・サンタ”(Jan Terriのカバー)や、曲の前にオーディエンスやイベンターへの感謝の言葉が述べられた“ユー・キャン・ハヴ・イット・オール”でのライブ恒例のメンバーによるダンスなど、ファン・サービスも盛りだくさんだった。
でも今夜のライブでの一番大きな発見は、オープニング曲“アンド・ザ・グリッター・イズ・ゴーン”、そして本編最後を飾った“ザ・ストーリー・オブ・ヨ・ラ・テンゴ”といった長尺の曲にあった。これらの曲からは、ヨ・ラ・テンゴがその器用さによって多様な世界を展開するいわば「水平的な」表現とはまた別の、個々人がそれぞれ自分の心の中に降りていくような「垂直的な」表現方法を持っていることに気づかされた。
同じリズムやメロディのパターンがひたすら反復されるこれらの曲にはフィードバックを多用したノイジーなギター・プレイも含まれているけれど、デビュー前には音楽批評家をやっていたというアイラの演奏にはほとんど常に抑制が利いていて、その方法論はたとえば聴き手をパワフルに意識の深層にひきずりこんでいくようなゆらゆら帝国の演奏とは趣を異にしている。オーディエンスもサウンドがどれだけ激しくなっても大半の人は身体を軽く揺らしているくらいで、熱狂的な感じはほとんどない。
だが曲が始まって5、6分が経過し、そのパターンが自然に耳に馴染んでくる頃から意識はゆっくりと下降し始める。そしてその落ちていった先にあるのは、“アンド・ザ・グリッター・イズ・ゴーン(そして輝きは失われた)”というタイトルや「僕らは失うことを決心し、決して振り向かないと決めた」という“ザ・ストーリー・オブ・ヨ・ラ・テンゴ”の歌詞が示しているように、彼らがその中で多くのものを失ってきたこれまでの人生(あるいは25年の活動期間)そのものであるように感じられる。
そんな喪失感や時間の不可逆性を前にして、これらの長大な曲ではバンドとオーディエンスはその「長さ自体」を実際に共有することによって、過ぎ去った時間の感触を再現し、かつてそこにあったはずの意味を推し量ろうとしているように思える。そのとき、彼らの鳴らす音はもはや取り戻すことのできなくなったものに対する祈りにも似ている。
会場全体に静謐さが漂った“アワー・ウェイ・トゥ・フォール(僕らの落ちていく道)”で締めくくられた今夜のライブ。タイトルとは裏腹に曲中で「アワー・ウェイ・トゥ・フォール・イン・ラヴ(僕らが恋に落ちていく道)」と歌われるこの曲は、僕らが落ちていく先には愛が待っていることだってあるのだと語りかけているようにも思えた。(高久聡明)




















