MIKA @ 新木場STUDIO COAST

MIKA @ 新木場STUDIO COAST
MIKA @ 新木場STUDIO COAST
MIKA @ 新木場STUDIO COAST - pic by Yoshika Horitapic by Yoshika Horita
日本に限った話ではないことを承知で書くが、今のロック/ポップ・リスナーにとって、なかなか生のミーカのステージを観る機会が得られない現実というのは、ほとんど苦行に近い。瞬く間に全世界規模のスターになってしまった彼だから致し方ないことなのかも知れないが、2年前にはデビュー・アルバム発表前のショウケース・ライブが一回、ベスト・アクトの呼び声も高かったフジ・ロックと、その翌日のリキッドルーム公演が一回。今年9月にリリースされたセカンド・アルバム『ザ・ボーイ・フー・ニュー・トゥー・マッチ』を引っ提げての再来日となった今回も、スタジオコースト一発のみである。月曜日にも関わらず溢れんばかりの人が詰めかけた会場ではあるのだけど、それにしたって参加を望む人全体の数から見たら、どれだけの割合でカバーできているのか知れない。大変な事態である。或いはミーカ自身も、ここ2、3年でいきなり訪れた狂騒の日々には、心底慎重に向き合っているというところなのかも知れない。

満天の星々を描き出すような、大小の球体が宙空に浮かぶステージ。先にバンド・メンバーが順に現れ、中央に置かれた長椅子に腰を下ろしてゆく。フロアに背を向けるようにして座る彼らの視線の先で、ロケット発射のニュースがスクリーンに映し出された。空へと飛び出していったロケットが爆発・大破するという悲劇ののち、『2001年宇宙の旅』のテーマに乗って、宇宙服姿の人物がゆっくりと姿を現す。ヘルメットと宇宙服を脱ぎ捨てた彼の素顔こそが、ミーカだ。半分がチェス盤柄、半分がボーダー柄というジャケットに蛍光イエローのスニーカーを合わせ、笑顔でステップを踏みつつ流れ出すのは彼のデビュー曲“リラックス、テイク・イット・イージー”である。伸びやかで美しいファルセット・ボイスが、場内を満たしていった。早々に大きなシンガロングで応えていったオーディエンスも、最高である。

“スタック・イン・ザ・ミドル”では、ミーカがキーボードの弾き語りスタイルで歌い出す。そして「Are you ready to sing? 歌いたいー!?」とオーディエンスに声を掛けてスタートしたのは“Dr. John”だ。メロディの鮮やかさとクリスピーな節回しが同時に届けられるボーカルが、何しろ素晴らしい。ミーカは日本語が本当に堪能で、英語で話した後にそれを自ら日本語に訳して同じことをもう一度言う、というMCスタイルが終始一貫していた。時折彼が演奏するキーボードは、当初ステージやや上手寄りに設置されていたのだが、「こっち側の人、見えないよね。よし、動かそう」と言って中央寄りに移動させるなど、やたら気遣い屋なポップ・スターなのである。

ステージ後方のスクリーンには曲毎に異なった静止画やアニメーションが映し出され、様々な小道具(ライトスティックが無数に生えた帽子とか、「僕の友達」と紹介してミーカが連れ歩いたマリオネットとか)も使う。“ビッグ・ガール”では、その曲名どおりの体型の女性ダンサー達が登場して踊っていた。「見せる」ステージングにかけては以前から評判のミーカである。しかしそれらはあくまでも、良い意味で「添え物」であった。ダンサーの振り付けなんかは結構適当だし、小道具も効果的なタイミングで持ち出される、という程度のものだ。それよりも、バンドが華やかなビジュアルとは裏腹にストイックな生演奏に徹する人達で、ミーカの優れたボーカル・パフォーマンスが決してブレないということの方が、ステージのテーマとして重要だった。ミーカは完全に音楽そのものでオーディエンスと向き合おうとするパフォーマーだ。今回の公演を通して、明らかにされた事実と言えば何よりもそのことだった。

“ザ・ガールズ”では、フロアのオーディエンスを中央から左右に分け、コーラス部の《Blame it on the girls~》《Blame it on the boys~》というパートをそれぞれに歌わせ、声量の大きさを競わせたりもした。ムキになったオーディエンスが、歌というよりほとんど叫び声を上げていたことも、ステージの楽しさに花を添えていたと思う。「大学でオペラを学んでいたとき、ミカコというピアニストに出会ったんだ。僕の本名はMicaだけど、彼女の名前にあやかってMIKAと名乗ってる。この曲は、その大阪出身のミカコに捧げます」。そう告げて披露されたのは“ハッピー・エンディング”だ。ドラマティックで美しい、そして果てしなく悲しいバラードとともに明らかにされた、ミーカのルーツ。ミカコさんは今、このステージを観ているのだろうか。

「今日が、今年最後のショウなんだ。なのでクリスマス・ソングを歌おうと思う。ゲストは、ヒカルウタダ……」。な、なに!?「宇多田ヒカル!!」。うわあああーっ、と、おおおおおーっ、が混じり合って会場を揺さぶらんばかりにどよめく場内。友人として知られる2人ではあるけれど、これは余りに大きなサプライズである。そしてミーカと宇多田のデュエットによる“レット・イット・スノウ”。歌う宇多田に、ミーカは景気良く紙吹雪を振り撒いたりしている。理由も分からないし誰に対してかも分からないが、謝りたい気分になってきた。すみません。ごめんなさい。まだクリスマスまで一月弱あるけれど、おれ今年、これ以上のクリスマス・ソングを聴く自信がありません。

ミーカがオーディエンスの一斉ジャンプを煽った“ラヴ・トゥデイ”。そしてバンドのメンバー紹介ののちに繰り出された“ウィー・アー・ゴールデン”での身震いしてしまいそうな大きなシンガロング。基本的に美メロ名曲だらけなので、むしろどこに盛り上がりのピークを持っていったらいいのか分からなくなってしまいそうなミーカのステージなのだが、それでもこの本編クライマックスはやはり凄かった。

アンコールに応じて披露されたその1曲目は、“トーイ・ボーイ”だ。やった。私事で恐縮ですが、おれこの曲大好きです。二度ほど歌い出しで歌詞を忘れてしまったのはご愛嬌だが、オルゴール風のキーボードを弾きつつ歌われる悲しい物語。悲し過ぎて転げ回って楽しくなってしまうところとか、痛過ぎて感覚を失って夢見心地になってしまうところとか、そういう極めてロックなヴァイブが、ミーカの歌にはある。ほどよく浸れるような悲しみの歌は無いし、現実逃避して楽しむような歌も無い。“ウィー・アー・ゴールデン”なんか、高揚感は半端ないが救いようもなく悲しい歌だ。多くの人々の心を捉えて離さないミーカの魅力は、根本的にはそこにあるように思う。

“グレース・ケリー”を経て最後の“ロリポップ”では、ミーカたちがアルミ・バケツのパーカッションを打ち鳴らし、無数の大きなボール状風船がフロアに跳ね、そして大量の紙吹雪が待って大団円を迎えた。こんなステージを、もっともっと多くの人に観てもらいたい。近い将来に日本でまたそんな機会が訪れることを、心から願いたいと思う。……それにしてもだ。もちろんミーカもだが、華やかな名曲群のボトムをがっちり支えていたアフロ・ヘアーのドラマーのお姉さん、すげえかっこ良かったな。(小池宏和)

セットリスト
1.Relax,Take it Easy
2.Big Girl
3.Stuck in the Middle
4.Dr. John
5.Blue Eyes
6.Touches You
7.Pick Up Off The Floor
8.One Foot Boy
9.Blame it on the Girls
10.Happy Ending
11.Let it Snow
12.Billy Brown
13.I See You
14.Rain
15.Love Today
16.We are Golden

アンコール
17.Toy Boy
18.Grace Kelly
19.Lollipop
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