RHYMESTER @ JCB HALL

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ライムスターの本格的再始動。シングル『ONCE AGAIN』の発表に続き、いよいよあの3人が、活動20周年をも記念した復活の舞台『R20』に立つ。ファンの期待の大きさたるや、尋常なものではない。その意味で、正直に言ってしまうと今回のステージは、少々肩透かし感が否めない内容になったのも事実だ。と言うのも、久々のキング オブ ステージのガチなパフォーマンスを存分に楽しみたい、というファンの想いと、宇多丸&Mummy-Dが最後になって語っていたように「これまではもっと無骨なステージをしてきた」「(07年の)武道館と同じことはやりたくない」という想いから作り上げられた今回の総合エンターテインメントとも呼べるようなパフォーマンスには、それぞれ方向性の違う意気込みが渦巻いていて、結果的にパフォーマーとオーディエンスの歯車が空回りしてしまう部分があったからだ。要は、その意気込みのズレの部分を認めた人から順に「ノったもん勝ち」なショウだったわけである。恐らくはその部分で賛否両論、というところなのだが、個人的には「20周年ならではのハイレベルな課題だなあ」などとひとしきり感心してしまったことも、先に記しておきたい。

幕の降りたステージの端に、スポット・ライトを浴びた黒いスーツ姿の男が現れる。「あ、どうも!」。なんと、クレイジーケンバンドの横山剣である。剣さんによる開会宣言に続いて、ステージに降りた幕をスクリーンに、ライムスの歴代PVなどを次々にミックスしてゆくバイオグラフィー映像が流された。そして遂に、“ONCE AGAIN”のイントロの出音一発とともに幕が切って落とされ、ライムスターが登場する。ドラマティックなトラックの上にシリアスなストーリーテリングが踊り、サビでは早々に大きなシンガロングが起こる。そして無数の人差し指が、また、突き出された親指が、宙を舞っていた。その光景は、いきなり目頭が熱くなって視界がぼやけてしまうほどに、美しいものだ。

剣さんがライムスの3人それぞれに、活動20周年記念と文化功労?を讃えた楯を贈呈するセレモニーがあり、そして宇多さんが切り出す。「みんな今日、勘違いしてるかも知れないけど、俺らやる気ないですよ!」「誕生日みたいなもんじゃん。むしろみんなに祝ってもらう日でしょ」とDさんも続いた。えええ? 今回のライブは2部構成であり、第1部はなんと、ゲスト・パフォーマーのライブと、そのゲスト&ライムスのトークによって進められるという。これは意外な展開だ。

というわけで第1部は、TARO SOUL & KEN THE 390、サイプレス上野とロベルト吉野、COMA-CHI、DABO、MELLOW YELLOWという5組のアクトが、それぞれの持ち曲1曲とライムスへのトリビュート曲1曲を披露。そして一組がライブを終えるごとに、“WELCOME2MYROOM”に乗ってステージ中央のDJ卓がぐるりと反転して現れる室内セットのソファにライムスとゲストが腰掛け、ビールをちびちび煽りながらトークを繰り広げるという、『Rhymesterの部屋』が行われるのであった。うーむ、手が込んでるんだかユルユルなんだか。

ゲスト・ライブは、それぞれにライムス20周年を祝うパフォーマンスだったのだが、COMA-CHIは“B-GIRLイズム”でもちろんライムスと共演。ライムス曲のトリビュートについては、DABOが“知らない女”をチョイスしてえらいハマっていたところと、サ上が“キング オブ ステージ”の冒頭のリリックを《マイクロフォン1 マイクロフォン2~》から《マイクロフォン1 マイクロフォン1!!》と差し替えて挑発的に煽っていたところが面白かった。ステージが少しピリッと締まったと思う。そして『Rhymesterの部屋』に至っては終始笑いが絶えなかったのだけれど、トリビュート曲についてDさんがいちいち「フロウが古くさくてやりにくい、とか思ったっしょ」などと、ボヤキのようなイジメのような絡み方をしていた。

と、ここまでで既に2時間近くが経過してしまったのだが、第2部はいよいよライムスのライブ本編である。最初のうちはライムスも、そしてオーディエンスも、第1部のユルいムードを引き摺ってしまっている感があったのだが、“肉体関係 part.2”の終盤に三たび横山剣が登場。このあたりで、次第にJCBホール全体が熱を帯び始めてゆく。ていうか、いきなり出てきていい声だなあ。剣さん、大活躍である。さらにラン・DMC“ウォーク・ディス・ウェイ”のトラックをそのまま使った“We LOVE Hip Hop”から、アップ・テンポな“付和Ride On”“ザ・グレート・アマチュアリズム”へと繋ぎ、一気に会場をヒート・アップさせてゆく3人であった。

なのだが、真に素晴らしかったのは“渋谷漂流記”“ラストヴァース”という新曲群であった。どちらも“ONCE AGAIN”からの流れを汲む、ストイックな物語性に満ちたリリックで描かれてゆく曲なのだが、プロデューサーがそれぞれ異なる割にドラマティックなトラックがエモーションを増幅させる、という点でもスタイルが一貫している。20年のキャリアを誇るライムスだからこその、日本語ラップの過去と未来を真摯に見据えた新しい名曲たち。もしかすると今回のライブは、この新曲群を聴くためにあったと言っても過言ではないかも知れない。

アンコールは、ステージ左右のスクリーンに映し出された生前の忌野清志郎のステージ・パフォーマンスとコラボレートする“雨上がりの夜空に35”。今年のフジ・ロックで行われた清志郎トリビュート・ライブと同じ方式だ。そして宇多さんが「小便ちびるなよ」と告げていたように衝撃のパフォーマンスとなったのが、DABO、TWIGY、そしてZEEBRAが登場してそれぞれにオリジナルのリリックをリレーしてゆく“ONCE AGAIN Remix”である。まさに空いた口が塞がらない光景であった。“ONCE AGAIN”はこのとき、もはやライムスの再出発ではなくて、日本語ラップの再出発を告げる一曲になってしまったのだ。

というわけで、これまでのライムスのライブ・パフォーマンスとはずいぶん趣向が異なっていて戸惑う部分もあったのだが、たっぷり3時間、笑って弾けて驚ける、お腹いっぱいのステージであった。最後に、重要な告知である。2010年2月3日、ライムスターのニュー・アルバム『マニフェスト』リリース決定。今回のライブで披露された“ONCE AGAIN”“付和Ride On”“渋谷漂流記”“ラストヴァース”も当然収録し、さらに初回限定盤には、アンコールでプレイされた驚愕の“ONCE AGAIN Remix”がボーナス・トラックで入る。これは大変なことになった。確実に新曲群にぶっ飛ばされることになるだろうその日を、どうか心待ちにしていて欲しい。(小池宏和)

〈OPENING〉
1.開会の挨拶 by 横山剣 from クレイジーケンバンド
2.オープニング映像
3.ONCE AGAIN (Rhymester LIVE)
4.オープニングセレモニー by 横山剣 from クレイジーケンバンド

〈第1部 LIVE&TALK〉
1.TARO SOUL & KEN THE 390
2.サイプレス上野とロベルト吉野
3.COMA-CHI
4.DABO
5.MELLOW YELLOW

〈第2部 Rhymester LIVE〉
1.R.E.S.P.E.C.T. (JIN-TRO)
2.キング オブ ステージ
3.ロイヤルストレートフラッシュ
4.渋谷漂流記(新曲)
5.肉体関係 part.2 逆featuring クレイジーケンバンド
6.We LOVE Hip Hop
7.付和Ride On
8.ザ・グレート・アマチュアリズム
9.And You Don’t Stop
10.ラストヴァース(新曲)

EN-1.雨上がりの夜空に35
EN-2.ONCE AGAIN Remix feat. DABO,TWIGY,ZEEBRA
EN-3.オイ!
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