SHINKIBA JUNCTION 2009 “また倶知安じゃないジャン!” @ 新木場スタジオコースト

SPARKS GO GOが05年に地元・北海道の倶知安(くっちゃん)町で開催し、会場となった体育館で伝説の「床陥没」を起こしながらも起死回生の即席ステージ設営で切り抜けたイベント、『JUNK!JUNK!JUNK!』。昨年は横浜、今回は新木場と首都圏に会場を移しているのでタイトルも『SHINKIBA JUNCTION 2009』となっているが、めでたく5回目の開催である。豪華出演陣の登場を待つスタジオコーストは、通常使用されるステージ=メインステージに加え、建物の外にテントステージを設けての2ステージ制の進行となった。16:00の開演から、順を追ってレポートしていきたい。まずはメインステージにて、元マネージャー、SMA鈴木氏による呼び込みでスパゴーが前説に現れる。たちばな哲也(弟:Dr)の挨拶から、橘あつや(兄:G)の「感動です! 長丁場ですが頑張りましょう」という言葉が連なり、そしてヤックこと八熊慎一(Vo/B)は「雲ひとつない天気でよかったね!(注:屋内である。念のため)無事に行われるようひとつよろしく!」と告げる。さあ、いよいよ最初の出演者の登場だ。

● ユニコーン
まず、こういったイベントのトップ・バッターにユニコーンが飛び出してきてしまうというところが、何ともスパゴー企画ならではだなあ、という気がする。大復活で、大御所で、結構とっておき感があるのに、今回はいきなりである。しかも、メンバー間の軽いノリで「よろしく~」と決まってしまいそうな雰囲気すらある。民生の「僕と阿部君以外は倶知安に行ったことがないんで、EBIさんから一言あります」という振りに対しEBI、「倶知安にいくぞー!」と早くも次回以降に向けて堂々の宣言。プレイした9曲のうち6曲が『シャンブル』からであり、そんな配分のセット・リスト、再結成どころか10年選手のバンドでもありえないだろう、とつくづく思った。“大迷惑”すらプレイされなかったが、それでオーディエンスを十二分に納得させてしまう力が、今のユニコーンにはある。“服部”もすっかりこなれてドライブ感を発揮していた。“WAO!!”ではスパゴー・テッチが色違いのツナギ姿で登場。川西さんとのツイン・ドラムで盛り立てる。このときはテッシーのライト・ハンド奏法も冴えまくっていた。

● ザ・ビートモーターズ
この日の出演者の中で最も若いグループが、テントステージに登場のザ・ビートモーターズだ。今回のレポートにあたって、「しっかり見てこい」と厳命を受けていたバンドなのだが、フロントマン/秋葉による1曲目“愛をさがして”の《アー おれとあのこは恋人さ》の歌い出し《アー》一発で、その特別な存在感を理解してしまった。涼しげな表情で、むしろやや沈んだような目をして歌うシンガーなのだが、届いてくる声は男臭さとフェロモン丸だしの絶唱ソウル・シャウターなのである。MCとなると急にオドオドして声も消え入りそうになるので、ギタリストの木村に「君は緊張しているのか?」と笑いながら突っ込まれていたが、マイクを前にした途端「変わる」タイプだ。エレカシの宮本に近いものがあるし、その「変わる」度合いで言えば男性版・チャットモンチーのえっちゃん、とも言える。曲調はファンキー&グルーヴィーなものからメロディアスな美曲などさまざまだが、最後にパンキッシュに爆走するときのバンドの姿がまた、かたや突っ走ってしまったり、かたやそこに喰らいついてみせたりのデッド・ヒート。それを実に楽しそうにやる。なんというか、原始のロック・バンドである。熱い。

●真心ブラザーズ
前々日、そして前日と、渋谷でそれぞれ趣向を凝らした結成20周年記念ライブを敢行した真心。二人の弾き語りで“ENDLESS SUMMER NUDE”を披露した後はバンド・セットでデビュー曲から最近の曲まで幅広く、伸び伸びとプレイする。空気が一変したのはスパゴーからお兄さん(あつや)が登場して“STONE”を共演したときであった。これは、5年前にも共演するはずだったのに訳あって果たせなかった、因縁の曲なのだという。不穏でダーティなギター・イントロから、哀しき男の叫びが繰り広げられる。これこそ真のエモ。ところがYO-KING、歌の途中で「あ、歌詞忘れちゃったー」などとしれっと言ったりする。ここはガッチリ決めて欲しかったなあ。20周年ライブでお疲れなのだろうか。一方、“どか~ん”で「テッシー兄さんにあやかって」と一曲丸々ライト・ハンドを決めたり、「最近はサーファーの肩身が狭いんだよ!」と時事ネタでヒート・アップしたりと、今回は男・桜井が意地を見せる形に。そしてラストは高い緊張感をもって“拝啓、ジョン・レノン”で締め括ってみせた。

● 倶知安乃風
ここで『JUNK!JUNK!JUNK!』恒例の謎のフォーク・ユニットがテントステージに登場(くっちゃんのかぜ、と読む)。ステージに向かったら既に満員御礼の大盛況なので、会場の至る所に設置されたモニターで観ることにした。ゼブラ柄のパーカーでフードを被り、申し訳程度のラップ(?)を繰り出すイモ旦那(ヤックに似ている)と、ターンテーブルでブレイクスを決め、タオル回しまで煽って妙にノリノリのキビ旦那(民生に似ている)が《ニセコのよーこ ハコダテのうえ くっちゃーん》とどこかで聴いたメロディを歌っている。余りの盛況ぶりにオーディエンスがステージ前に押し寄せ、危険を察知したイモ旦那が一言、注意を促す。「こんなんで押すなよ」。ここに新参メンバーのニュー旦那(ビートモーターズの秋葉に似ている)、そして「コラーっ!」と威勢良く現れたミズ旦那、改めYUKI旦那(ついさっきまでメインステージにいた人に似ている)が加わり、やはりどこかで聴いたような倶知安・町自慢ソングを次々に披露してくれた。それにしても、イモ旦那、キビ旦那、YUKI旦那の歌にしっかり拮抗していたニュー旦那は立派だった。まあ、歌っていることは《心から好きだよ ラ・ム 噛み締めたい》とかそういうことなのだが。イモ旦那は「いよいよ最後の曲になってしまいました。……いや、こんなのダラダラ長くやってらんねえから」と言っていたが、お遊びにしてもずいぶん細かい部分まで詰められていたのではないだろうか。

● TRICERATOPS
終始、盤石のグルーヴ・ロックでメインステージのオーディエンスを沸かせていたのがトライセラであった。ゴリッとしたリフと和田のボーカルがもんどりうって転がる新曲“I GO WILD”を含め、ダンス・ビートと甘いメロディに彩られた名曲群が繰り出されてゆく。「さっきむこうで記念撮影があったんだけど、全員で撮ったあと、じゃあSMA(所属事務所)のみで! トライセラすいません!って。寂しかったんだよ! いいなぁSMA。けど、今日は仲間入りできて光栄です!」と和田が語っていた。ああ、そうか。トライセラだけ違うのだ。その後“ハートのショップ”で呼び込まれてセンターに陣取ったヤックが「今日は俺が好きなバンド・ベスト3を呼んだんだ」と告げる。トライセラはそのベスト3バンドということだ。「すいませんね、ギター弾かせちゃって」と続いた言葉通り、ヤックがベースを弾くので1曲だけ林がギターにスイッチ。ときに手元を確認しながら、和田とのハーモニーを奏でるギターを披露してくれたのであった。

● detroit7
デビュー当時はある程度、今回の他の面々にも共通するようなグルーヴを備えていたが、どんどんパンキッシュになってオープニング・ナンバーの“In The Sunshine”から耳をつんざくような爆裂ロックンロールを轟かせていたdetroit7。性急な、サウスポーから繰り出される悲鳴のようなギター・サウンドと、吐き捨てるようにパンキッシュな歌メロでバンドのカラーを明確に打ち出していた菜花。そしてその体躯からは想像もつかない鋭角で激しいドラミングを見せつける山口。二人の間を取り持つバランサーのように安定したベースを弾く古田島。このトライアングルは、本当にかっこいいロックンロール・バンドだ。海外での活躍も活発になっていて、確かに洋楽指向と言えばそうなのかも知れないが、スタイルとして確立された彼女たちのクールでエキサイティングなロック・サウンドはもっと注目されるべきだ、と感じられた。古田島は、倶知安乃風で使われていた「ヨー、ヨー、ヨー、テイ!」というフレーズが妙に気に入ったらしく、何度も口にしていた。僕もこれはなんだろう?と思っていたのだけど、倶知安のそばには日本100名山のうちのひとつ、羊蹄山があるのだそうだ。わかりづらい。これまたローカルネタである。

● SPARKS GO GO
そしていよいよ本日の真打ち、スパゴーが登場である。ここでも無論、スペシャルなセッションが連発であって、detroit7の菜花を交えてビジュアル的にもサウンド的にもセクシーさを増した“恋をしましょう”、ユニコーン・阿部Bがマックを持ち込んで効果音を加えた再結成ABEX GO GO“おせわになりました”、となれば民生を加えての再々結成THE BAND HAS NO NAMEとして05年のセカンドから“マルホランド・ドライブマーケット”と、見事オーディエンスの期待に応えたパフォーマンスである。でも、その上での話だが、アンコールの“SOMETHING WILD”まで、スパゴーは徹頭徹尾スパゴーであった。不思議なバンドだ。独自のグルーヴは一貫してあるが、決してそれはアクの強いものではない。強烈な、匂い立つようなグルーヴを誇るバンドは他にもいる。でもスパゴーはグルーヴィなのに、軽やかなのだ。泥臭くないのだ。そしてこれこそが、長きに渡ってこれだけのファンに支持され続けるスパゴーの秘密なのではないかと思った。「5回目だよ。素晴らしい素晴らしい出演者、優秀なスタッフ、そして、俺。何よりも、集まってくれたお客さん」。と語っていたヤックだが、或いはこの「俺」を言うためだけに、彼はスパゴーをやりイベントをやり、「すいませんね」と「いやいやいやいや」を言い続けているのではないだろうか。そのいつも申し訳なさげで遠慮深げな、しかし確かにそこに存在しているグルーヴの自己主張が、これだけの人々を魅了し続けているのではないだろうか。「みんな来年、倶知安に行こうと決めつけてるでしょ?……行けたらいいね」。先の言葉に続けて、やはりどこか遠慮がちに、ヤックはそう言ったのだった。(小池宏和)
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