WIRE09 @ 横浜アリーナ

WIRE09 @ 横浜アリーナ - TAKKYU ISHINO pic by kazuhiro kitaokaTAKKYU ISHINO pic by kazuhiro kitaoka
WIRE09 @ 横浜アリーナ - MODERAT pic by kazuhiro kitaokaMODERAT pic by kazuhiro kitaoka
WIRE09 @ 横浜アリーナ - ELLEN ALLIEN pic by kazuhiro kitaokaELLEN ALLIEN pic by kazuhiro kitaoka
WIRE09 @ 横浜アリーナ - HARDFLOOR pic by kazuhiro kitaokaHARDFLOOR pic by kazuhiro kitaoka
昨年で10回目という節目を迎えた、石野卓球が主催する日本最大級の屋内レイヴ・イベント、『WIRE09』。今年は、昨年のMAIN FLOORとSECOND FLOORの2ヶ所に加え、新たに4FのサードエリアにLISMO AREAを設け、さらにボリュームのあるラインナップに。トータル約13時間という充実のロングセットに、国内外から総勢24アーティストが大集結! 24組なのでさすがにすべてのアクトはフォローできませんが、以下、僕が観たアクトを中心にレポートしていきます。

■MODERAT(メインフロア・EASTSTAGE)
昨年のレディオヘッドのオープニング・アクトも記憶に新しいモード・セレクターと、ザシャ・リンのプロジェクト・アパラットのコラボユニットであるMODERAT。テクノというよりは、ダブ・ステップやグライムの変則的なビートを基本軸に、甘美かつダーク、時にスペイシーなアンビエントを上物に被せるサウンドは、WIREらしくないといえばらしくないが、音に「浸る」という意味では格別。とてつもなく気持ちいい。だから、ダンスするというよりサウンドに身を任せてゆらゆら揺れている人が多かった。ちなみに、MODERATは、モード・セレクターやアパラットと同じようにエレン・アレンが主宰するレーベル「Bpitch Control」より音源をリリース。どんどんジャンルの幅を広げていってます、このレーベルは。

■JEFF MILLS(LISMOエリア)
ジェフは、絶対入場規制がかかる! と踏んでかなり早めにLISMO AREAへ。今日のアクトは、デトロイトでDJをプレイするジェフを衛星生中継するというもの。ブース前には、PCモニターがずらっと並べられ、背中に「AXIS」(ジェフのレーベル)のロゴ入り白衣を着た男が6人、せわしなく動いている。スクリーンには、宇宙ステーションのような場所で淡々とプレイするジェフ。スピーカーから流れてくる音が、本当にデトロイトから鳴らされているものなのか実感がない奇妙な感じと、ジェフがプレイしている! という興奮が、微妙な温度で混ざり合う不思議な体験だった。(僕がどれほど動揺していたかは、兵庫のブログを見ていただくとよくわかると思います)

ジェフは、現在宇宙旅行から2010年元旦に日本に還ってくるというストーリーを展開しており、スクリーンには「The Sleeper Wakes 2010年1月1日午前0時00分01秒 東京」の文字が。それがどこで、どのような形で開催されるアクトなのか発表はなかったが、ジェフが06年から開始している『One Man Spaceship』(仮想宇宙旅行プロジェクト)が2010年最初の日に完結する。ジェフが本当の意味で日本へ帰還するのは、その日となる。

■ELLEN ALLIEN(メインフロア・WESTSTAGE)
もはやWIREの定連組でもあるエレン・アレン嬢。2年連続、今年で5回目の出演。出演者の中でただ一人の女性である。テクノ・シーンに女性が少ないことはよく言われることだが、相変わらずこの人ときたら、硬質でソリッドなテクノをガンガンスピンするのだった。テクノ界のパティ・スミス? ちょっと違うかもしれない。プレイはこの上なくクールなのに、ブース内でハンドクラップしたり、小刻みにダンスするエレンの姿はやっぱりキュート! ラストのluke solomonの“Sprits”で、フロアは完全にノックアウトされ歓喜に酔いしれていた。

■HEIKO LAUX(セカンドフロア)
続いては、レーベル「Kanzleramt」(内閣官房という意味らしい)の創設者でもあるHEIKO LAUX。ベルリンに本拠地を置き、15年にわたってドイツのテクノ・シーンを牽引し続けている大ベテランがSECOND FLOORに登場だ。MODERATとは逆に、最もWIREらしいアーティストと言えるかも。デトロイト寄りのシャープでタイトなテクノが多かったが、シンセの「響き」に比重を置いたトラックを所々に差し込み、リズム一辺倒ではない表情豊かなセットだった。エレンと石野卓球に挟まれる形の時間帯なので、人の入りもほどよく、思い思いに体を投げ出して踊っているハード・ダンサーが多かった。

■TAKKYU ISHINO(メインフロア・WESTSTAGE)
横浜アリーナ中の人が全ていたんじゃないのかというほどに、メインフロアがごった返したのは、やはり石野卓球のアクト。すごい人の量、半端じゃない。序盤こそハード・ミニマルな展開で淡々と踊らせてくれたが、中盤、誰もが知るあのギター・リフレインが鳴り響く。「“beat it”だ!」皆が口々に叫んでいる。「こ、これは!?」とVJを見上げると、そこには「Happy Birthday MICHAEL」の文字が! そう、今日8月29日はマイケル・ジャクソンのバースデイなのだ! 狂乱というよりは祝祭的なムードがフロア全体を包むと、ここからは卓球節全快である。美しいピアノ・リフから岩を砕いたようなハード・ビートをジェットコースターのように紡いでいくユニークなミックスワークは今宵も健在だった。
ちなみに、誰もが気になったであろう、ラストのロシア民謡のようなディズニーっぽいような不思議な曲、あれはJurgen Paapeの“Ofterschwang”というらしいです。

■HARDFLOOR(メインフロア・EASTSTAGE)
卓球に続いては、言わずと知れたアシッド・ハウス番長HARDFLOOR。3年ぶり2度目の登場である。ウニョウニョうねる反復ベースラインと図太い重低音アシッドを下地に、途中途中でフェーズが切り替って次々とカットインされる音ネタが身悶えするほどに気持ちいい。これぞアシッド! タイトル名から察するにWIREに捧げられたと思われる新トラック“Heavy On Wire”。そしてラストはなんと“Acperience”!! 今風にミックスされず、原曲そのままにプレイされた“Acperience”は「セカンド・サマー・オブ・ラヴ」を現体験できずに、いつまでも憧れを抱く僕にとっては、今宵、最も印象深いトラックとなった。

■DUSTYKID(メインフロア・EASTSTAGE)
WIRE初登場となるイタリアはサルディーニャ島出身、DUSTYKIDことパオロ・アルベルト・ロッデ。DJセットのアクトです。全出演者の中で、最もジャンルレスな楽曲をスピンしていたのがこの人。初っ端から、女性ボーカル(WIREでボーカルありのトラックがかかることはけっこう少ない)の柔らかなミニマルトラックで、フロアをメランコリックな世界へ誘い、80’sディスコやブレイクビーツっぽいナンバーからUR直系ビートまでをミニマルに繋いでゆくプレイは圧巻の一言。彼のプレイや楽曲に、快楽性よりも多幸感や祝祭感を多く感じさせるのは、やっぱり地中海に面したイタリアというどこか開放的な風土が影響しているのかなとふと思う。

■JORIS VOORN(メインフロア・WESTSTAGE)
さて、さすがにこの時間に入るとオールナイト・イベントという長期戦を踊り抜き、疲れはててしまう人も少なくない。時刻はもう4時を回っている。しかし、“incident”がスピンされた瞬間にフロアは大爆発、大狂乱! 外から聴きつけたのか、猛ダッシュで踊り狂いながら何人もの人がフロアへ突進していき、魔法がかかったかのようにフロアは息を吹き返す。そんなダンスフロアのドラマチックな光景は、このような時間にこそ訪れるものだということを示してくれたのが、JORIS VOORNのプレイだった。

■LEN FAKI(メインフロア・EASTSTAGE)
昨年のWIRE08ではベスト・アクトの呼び声も高かったLEN FAKI。僕が今回のWIREで観る最後のアクトとなった。彼のDJプレイを観察すべく、2階のスタンド席へ移動。EAST STAGEで彼のブースは一段高い場所にあるので、彼のブースの真後ろからアリーナを見下ろす形で観ることができる。これは本当にレアな機会。プロDJとは、パンパンのレコードバックから、みたいなイメージだったけどLEN FAKIは真逆。ブース裏の机に美しく並べられた10枚足らずのレコードを、ただただ順番にかけていくだけ。実際のプレイもそうだ。たまに音量を絞ったり、ミキサーをちょこちょこいじる程度で、大技がない。むしろこまめに水分をとったり、変なアヒルダンスを踊ったりしていることの方が多く、あっけにとられた。例えばジェフ・ミルズのような手数の多いDJとは大違いだ。しかし、LEN FAKIの余裕さと無駄を一切省いたプレイに、オーディエンスががっちりロックされる様を目の当たりにすると、ああ、この人は何もかもわかっててプレイしているんだろうなという凄味と確かな説得力が感じられた。

本当は、LEN FAKIを途中まで聴いて、SECOND FLOORトリの田中フミヤをラストに…という流れだったのですが、入場規制がかかった大行列で入ることができませんでした。これが唯一の心の残り。ただこうして振り返ってみると、新たなエリアの増設、衛星生中継というJEFF MILLSの試み、出演アーティストは昨年あたりから少しずつジャンルレスになっているし(昨年はブラック・ストロボなんかもいた)今年の『WIRE09』は、ある意味トライアルしているようにも思えた。それだけでなく、トレンドに流されずあくまでテクノという本流を守りつつ、というさじ加減が本当に難しい。でも『WIRE』はそれをやったし、それが結果に結びついている数少ないフェスの1つだと思った。(古川純基)
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