ホフディラン @ 渋谷C.C.Lemonホール

ビートルズのオケにビースティ・ボーイズのラップが乗った賑々しいマッシュ・アップのオープニングSEと共に、バック・バンドのBEST 3(Dr.:田中元尚、Ba.:北田万紀、G.:堀内順也)が登場する。彼らが叩き出すダイナミックなイントロがC.C.Lemonホールを満たし、歓声の中にベイビーとユウヒが姿を見せた。ホーン隊とコーラス・メンバーを引き連れての登場だ。この7月3日は、1996年にホフディランのメジャー・デビュー・シングル『スマイル』がリリースされた記念日であり、デビュー13周年ちょうどを迎えるステージ。その名も『13年の金曜日』の幕開けである。“ホフディランのテーマ”がスタートするとき、ベイビーは客席に向かって嬉しそうに手を振った。

ステージ上に立つ総勢8名のメンバーは、全員お揃いの「HOF」とプリントされた赤いTシャツを着込んでいる。ユウヒが夏を迎撃する“summer time POP!”を歌い終えると、ベイビーが「今日で13周年です。めでたい!」とステージ・タイトルの微妙な不吉さをすっかり忘れたかのような挨拶。するとユウヒ「よく来たねー、この平日の早い時間に。僕の知り合い、堅気の人は誰も来てないよ」と自虐的な笑いで応じる。うーん、なんかどちらにしても思い切った祝福がしづらいというか、最初のMCで見事にいつものホフディランな空気になってしまった記念日である。しかしこの2人の、演奏にかけるボルテージはかなり高い。“カミさま カミさま ホトケさま”でのユウヒはバンド・アンサンブルを身振りで指揮しつつ更にステージ上で飛び跳ねているので、自分の演奏パートが回ってきたときに慌ててキーボード前に戻ってきたりしてハラハラさせる。ベイビーはオーディエンスにスウェイしながらのコール&レスポンスを求め、これが何度も執拗に繰り返された。この2人の意気込みが強いと、オーディエンスも楽ではないのである。

さて、今年のホフのニュー・アルバム『ブランニューピース』のツアー時から告知されていたこの『13年の金曜日』だが、多くのゲスト・ミュージシャンが招かれることも予め伝えられていた。今日最初のゲストは、盟友、かせきさいだぁ≡である。かせきは自らが描いたキャラクター、ハグトンの着ぐるみの手を引いて登場。ひとしきり思い出話に花を咲かせたあと、踊るハグトンを中心に“夢の夢の夢の夢”でセッションする。この曲は、かせきが先にアルバムに入れたので「かせきの曲」ということになったのだそうだ。へえ。さあゲストはまだまだ控えている。続いての登場は、TOKYO NO.1 SOUL SETからBIKKE。彼はマイケル・ジャクソンに追悼の意を表し、ステージ袖からムーン・ウォークで登場する。「上手くない」と自分で突っ込んでいたが、やることに意義があるしBIKKEのムーン・ウォーク、超レアである。ていうかBIKKE、テンションたけえ。よく喋るし。ここでは“NICE DAY”を一緒に披露、「ホフ結成のきっかけは、(TOKYO NO.1)SOUL SETの前座に出演したこと」という話も聞けた。へえ。トリビア連発である。

ベイビー・ボーカルのメロウな演奏が光った“ふさわしい人”とユウヒの感傷的だが強い歌メロが導く名曲“欲望”を挟み、次なるゲストはダイヤモンド☆ユカイ! ヒョウ柄シャツにラメ入りパンツで登場したユカイによれば「この衣装はベイビーのリクエスト」なのだそうだ。この世紀の異色コラボでは、何しろ異色コラボ過ぎて共演曲が存在しない。そこで出されたアイデアがザ・タイマーズ“デイドリーム・ビリーバー”のカバーである。清志郎への追悼曲はベイビーが何かやるかなと思っていたけど、ここでユカイは清志郎の歌唱スタイルそっくりに歌いあげ、アウトロでブルース・ハープまで披露した。ベイビーの豊かなハーモニー・ワークも良い。ベイビーはユカイが去ったあと「久々に僕の方から、珍しい人ですね、って思った」と言って笑いを誘っていたが、なかなか面白いコラボだったと思う。そして最後のゲストは、自ら『スター・ウォーズ』の“インペリアル・マーチ”を口ずさみながら登場したトモフスキー。ジャンプを加えながらのステップが超元気である。 “コジコジ銀座”でギターを携えたもりくんも飛び出し、2人でステージ上を縦横無尽に、そして客席通路まで駆けずり回る。今日の出演者は、なんでみんなこんなに元気なんだ。おっさんばっかりなのに。

オフィシャルHPで『ブランニューピース』の論文と共にファンに募ったリクエスト曲、その第1位として披露されたのは“甘い蜜”であった。ベイビーが「去年だったらスクリーン使って大々的に発表したんだけど、今日はやらない。別料金かかっちゃうから」と語る。「そういうことまで言わなくていいよ!」と即座に反応するユウヒの突っ込みは、ライブDVD用の録画を気にしてか、通常の3割増ぐらいで鋭く、手厳しい。さすが社長である。自らハンド・マイクで“スーパードライ”“Low Power”と不景気な話題を払拭してみせ、本編をクライマックスへと導くのであった。メンバーが衣装のTシャツを着替えてスタートしたアンコール、1曲目はデビュー曲の“スマイル”である。「デビューした日は、このすぐ目の前にあった渋谷eggmanでライブしたんだけど、そのとき来てた人いる? いる! 13年来てる! これからもぜひ来てください!」と、ディープなファンとのやりとり。そういえばあの、やついいちろうも、そのステージを観ているのだっけ。今日も会場のどこかにいるのだろうか。このあとには再びかせきさいだぁ≡とBIKKEをステージに呼び込み、ホフとの3者がステージ上で揃うのは初めてというコラボ曲“FUN”も豪華再現された。

と、ゲスト・ミュージシャンの参加をトピックとして取り上げ過ぎて、じゃあ13周年のホフとしてのスペシャル感は何もないじゃないかという話になってしまいそうなのだが、この日最も素晴らしかったのは何より、ホフの演奏だった。初めはホールだから音響がいいのかな、と思っていたが、それに加えてバック・バンド含め誰もが気合の入った、集中力をビシビシ感じさせる演奏をしていた。そして、ホフというバンドはタイトでダイナミックな、力強い演奏をするほどに、楽曲のチャーミングなポップさも増してゆくのだな、と思った。ロックかポップか、ではなく、ロックするほどにポップ。こういう特別なフィーリングも、やはりホフならではの素晴らしさなのだと改めて実感させられた。(小池宏和)

※なお、本文中にございますダイヤモンド☆ユカイさんの“☆”の正式表記は“六芒星”になります。
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする