ライブレポート
2009.05.16
SPECIAL OTHERS @ 日比谷野外大音楽堂
SPECIAL OTHERS
SPECIAL OTHERS最新アルバム『PB』を引っ提げての全国ツアー、『PB Adventure』のファイナルは、日比谷野外大音楽堂であった。宮原(Ds)が「遂にこの日が来てしまいました!」と声を昂らせる。スペアザにとって初となる野音単独公演なのである。でも、チケット即完が物語るように、多くのファンにとっても待望の舞台であることは間違いないだろう。スペアザと野音、このマッチングは出来過ぎなくらいにハマっている。彼らのサウンドは、屋外が本当によく似合う。予報では雨が心配されていたけれども、木々に囲まれた会場の湿度が高くひんやりとした空気が、都会のど真ん中にいることをときに忘れさせ、フジ・ロックやメタモルフォーゼなどの野外フェスにも似た感触を思い起こさせる。
『PB』スリーブ写真でもお馴染みの赤黒フランネル・シャツをお揃いで身に纏ったメンバーが登場し、まずは“Surdo”を披露する。マーチング・ビートに合わせて宙空に飛び出してゆくグライダーのような、力強くも滑らかなオープニングである。そしてここからは『PB』収録曲を立て続けに披露していく4人。シャッフル気味の高速リズムがまくしたてるように走る、アルバムのオープニング曲“Title”だ。ギタリスト/柳下とキーボード奏者/芹澤が交互にリードを取り、会話をするようにメロディを紡いでいる。スペアザ流レゲエ/ダブ解釈といった印象の“Potato”では、又吉が繰り出すヘヴィなベース・ラインの上で、けたたましいハモンドの音とブルージーに泣くギター・フレーズがスリリングにぶつかりあう。芹澤の背後でびゅんびゅんと回転を速めたり緩めたりするレスリー・スピーカーは、生き物のようなサウンドの躍動感を視覚に直接、訴えかけてくるようだ。『PB』の楽曲群はスペアザの音楽の「生」の感触を、これまで以上に強く打ち出している。生々しい息づかいがそのまま伝わってくるタイム感のグルーヴもそうだが、情感豊かなギターと鍵盤の語り口もライブではダイナミックに描き出されるのである。今回のステージも2部構成になっていて、その間に一旦休憩が挟まれるのだが、第1部のクライマックスとなる“Uncle John”で今日初めての高揚のコーラスが歌われた。言葉にならない情感をサウンドで、言葉が生まれるまでの物語をメロディで描き続けるスペアザは、ここでようやく「歌」に辿り着いた。その辿り着くまでの時間が、シンプルでキャッチーなコーラス・フレーズが生まれるまでのドラマが、聴く者の胸を揺さぶる。彼らは歌を不要とするバンドではない。歌が生まれるまでのドラマを描くことが出来るバンドなのである。
太陽が沈み、いよいよ夜を迎えるというところで、芹澤の鍵盤ハーモニカによるノスタルジックでフォーキーなメロディが浮かび上がり、第2部が幕を開ける。“PB”での宮原は、ただでさえ手数の多いドラミングなのに素手でさまざまなパーカッションまで操り、そのラテン・フレイバー漂うダンス・ビートを支えていた。アッパーだが同時に、甘美な魅力も兼ね備えた一曲である。スペアザはもともと、誰にも似ないポップ・ミュージックのフォーミュラを追求してきたバンドだけれども、ここに来てまた、天井知らずに表現の幅を広げている感がある。彼らは、アーシーでピースフルな、古い時代のロックの共同幻想を蘇らせるバンドなのだろうか。決してそうではない。彼らの音楽は確かにピースフルだけれども、単に演奏技術の高さや楽曲のアレンジや展開の魅力だけではなくて、今を生きる不特定多数の人々に浸透してゆく、今の時代に有効なだけの磨き抜かれた鋭さ、スタイリッシュさを誇っている。スペアザのファンには、ジャズやファンク・ミュージックが好きな人もいれば、フォークロアな音楽が好きな人もいれば、近代的なポップ・ソングが好きな人もいるだろう。4人が車座になってアコースティックで美しい“Sunrise”をプレイし始めたとき、客席の至る所から自然発生し場内を満たした大きなハンド・クラップは、そのことを裏付けていたと思う。また彼らは時折、楽曲ごとにライブ仕様の特別なアレンジでイントロを付加し、聞き覚えのある人懐っこいメロディをそこに忍ばせてオーディエンスを沸かせたりもする。こういうところも、音楽を不特定多数のオーディエンスとのコミュニケーションそのものとして捉えているスペアザらしいやり方だ。第2部のラストからアンコールにかけての名曲連打は本当に素晴らしかった。言葉は時折、シンプルなフレーズが反復するだけだ。しかしそこにはドラマティックな物語が、歌心があった。オーディエンスはそれによって、繋がることができたのだ。芹澤は「バーで2人の友達相手にプレイしたりしていて、それが4年ぐらい前で、こんなにたくさんの人が集まるなんて思ってなかった」と言っていた。正直に言えば僕も、『BEN』が出た後くらいに高田馬場で初めてスペアザを観て、カッコイイけどインストだし、流行とも関係のない音楽だし、大きな成功を掴むのは難しいかと思っていたけれど、大間違いだった。この4人がやってきたことが、正しかったのだ。
最後にもうひとつだけ。アンコール前になって柳下が、かつて高校の入学祝いにお父さんにギターを買って貰って弾き始めた、というエピソードを紹介し、お父さんがこの会場に来ていて、ちょうど還暦の誕生日なのだ、と教えてくれた。場内は大喝采である。そして柳下はギター一本で“Happy Birthday”を弾く。これが実に柳下らしくスペアザらしい、インストなのに歌心に溢れた名演だったのである。お父さん、嬉しかっただろうな。弾き終えてから柳下は「でも、もう酔っぱらって帰っちゃったかも」などと言っていたが、とんでもない。お父さん、涙流して喜んでいたからね。お父さんの60年と柳下の人生と。すべてが濃く凝縮された、たったワン・コーラスだけの、最高の“Happy Birthday”が野音に響いていた。(小池宏和)
第1部
1.Surdo
2.Title
3.Potato
4.SPinWednesday
5.Uncle John
第2部
6.LIFE
7.PB
8.Stay
9.Sunrise
10.Laurentech
11.IDOL
アンコール
12.AIMS
13.BEN
SPECIAL OTHERS
SPECIAL OTHERS最新アルバム『PB』を引っ提げての全国ツアー、『PB Adventure』のファイナルは、日比谷野外大音楽堂であった。宮原(Ds)が「遂にこの日が来てしまいました!」と声を昂らせる。スペアザにとって初となる野音単独公演なのである。でも、チケット即完が物語るように、多くのファンにとっても待望の舞台であることは間違いないだろう。スペアザと野音、このマッチングは出来過ぎなくらいにハマっている。彼らのサウンドは、屋外が本当によく似合う。予報では雨が心配されていたけれども、木々に囲まれた会場の湿度が高くひんやりとした空気が、都会のど真ん中にいることをときに忘れさせ、フジ・ロックやメタモルフォーゼなどの野外フェスにも似た感触を思い起こさせる。『PB』スリーブ写真でもお馴染みの赤黒フランネル・シャツをお揃いで身に纏ったメンバーが登場し、まずは“Surdo”を披露する。マーチング・ビートに合わせて宙空に飛び出してゆくグライダーのような、力強くも滑らかなオープニングである。そしてここからは『PB』収録曲を立て続けに披露していく4人。シャッフル気味の高速リズムがまくしたてるように走る、アルバムのオープニング曲“Title”だ。ギタリスト/柳下とキーボード奏者/芹澤が交互にリードを取り、会話をするようにメロディを紡いでいる。スペアザ流レゲエ/ダブ解釈といった印象の“Potato”では、又吉が繰り出すヘヴィなベース・ラインの上で、けたたましいハモンドの音とブルージーに泣くギター・フレーズがスリリングにぶつかりあう。芹澤の背後でびゅんびゅんと回転を速めたり緩めたりするレスリー・スピーカーは、生き物のようなサウンドの躍動感を視覚に直接、訴えかけてくるようだ。『PB』の楽曲群はスペアザの音楽の「生」の感触を、これまで以上に強く打ち出している。生々しい息づかいがそのまま伝わってくるタイム感のグルーヴもそうだが、情感豊かなギターと鍵盤の語り口もライブではダイナミックに描き出されるのである。今回のステージも2部構成になっていて、その間に一旦休憩が挟まれるのだが、第1部のクライマックスとなる“Uncle John”で今日初めての高揚のコーラスが歌われた。言葉にならない情感をサウンドで、言葉が生まれるまでの物語をメロディで描き続けるスペアザは、ここでようやく「歌」に辿り着いた。その辿り着くまでの時間が、シンプルでキャッチーなコーラス・フレーズが生まれるまでのドラマが、聴く者の胸を揺さぶる。彼らは歌を不要とするバンドではない。歌が生まれるまでのドラマを描くことが出来るバンドなのである。
太陽が沈み、いよいよ夜を迎えるというところで、芹澤の鍵盤ハーモニカによるノスタルジックでフォーキーなメロディが浮かび上がり、第2部が幕を開ける。“PB”での宮原は、ただでさえ手数の多いドラミングなのに素手でさまざまなパーカッションまで操り、そのラテン・フレイバー漂うダンス・ビートを支えていた。アッパーだが同時に、甘美な魅力も兼ね備えた一曲である。スペアザはもともと、誰にも似ないポップ・ミュージックのフォーミュラを追求してきたバンドだけれども、ここに来てまた、天井知らずに表現の幅を広げている感がある。彼らは、アーシーでピースフルな、古い時代のロックの共同幻想を蘇らせるバンドなのだろうか。決してそうではない。彼らの音楽は確かにピースフルだけれども、単に演奏技術の高さや楽曲のアレンジや展開の魅力だけではなくて、今を生きる不特定多数の人々に浸透してゆく、今の時代に有効なだけの磨き抜かれた鋭さ、スタイリッシュさを誇っている。スペアザのファンには、ジャズやファンク・ミュージックが好きな人もいれば、フォークロアな音楽が好きな人もいれば、近代的なポップ・ソングが好きな人もいるだろう。4人が車座になってアコースティックで美しい“Sunrise”をプレイし始めたとき、客席の至る所から自然発生し場内を満たした大きなハンド・クラップは、そのことを裏付けていたと思う。また彼らは時折、楽曲ごとにライブ仕様の特別なアレンジでイントロを付加し、聞き覚えのある人懐っこいメロディをそこに忍ばせてオーディエンスを沸かせたりもする。こういうところも、音楽を不特定多数のオーディエンスとのコミュニケーションそのものとして捉えているスペアザらしいやり方だ。第2部のラストからアンコールにかけての名曲連打は本当に素晴らしかった。言葉は時折、シンプルなフレーズが反復するだけだ。しかしそこにはドラマティックな物語が、歌心があった。オーディエンスはそれによって、繋がることができたのだ。芹澤は「バーで2人の友達相手にプレイしたりしていて、それが4年ぐらい前で、こんなにたくさんの人が集まるなんて思ってなかった」と言っていた。正直に言えば僕も、『BEN』が出た後くらいに高田馬場で初めてスペアザを観て、カッコイイけどインストだし、流行とも関係のない音楽だし、大きな成功を掴むのは難しいかと思っていたけれど、大間違いだった。この4人がやってきたことが、正しかったのだ。
最後にもうひとつだけ。アンコール前になって柳下が、かつて高校の入学祝いにお父さんにギターを買って貰って弾き始めた、というエピソードを紹介し、お父さんがこの会場に来ていて、ちょうど還暦の誕生日なのだ、と教えてくれた。場内は大喝采である。そして柳下はギター一本で“Happy Birthday”を弾く。これが実に柳下らしくスペアザらしい、インストなのに歌心に溢れた名演だったのである。お父さん、嬉しかっただろうな。弾き終えてから柳下は「でも、もう酔っぱらって帰っちゃったかも」などと言っていたが、とんでもない。お父さん、涙流して喜んでいたからね。お父さんの60年と柳下の人生と。すべてが濃く凝縮された、たったワン・コーラスだけの、最高の“Happy Birthday”が野音に響いていた。(小池宏和)
第1部
1.Surdo
2.Title
3.Potato
4.SPinWednesday
5.Uncle John
第2部
6.LIFE
7.PB
8.Stay
9.Sunrise
10.Laurentech
11.IDOL
アンコール
12.AIMS
13.BEN
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