亀の恩返し @ 日本武道館

亀の恩返し @ 日本武道館 - pic by 内藤順司pic by 内藤順司
亀の恩返し @ 日本武道館
亀の恩返し @ 日本武道館
亀の恩返し @ 日本武道館
とりわけこの10年間、好転しないままタフな日々を強いられてきた経済状況を始め、決して明るくはなかった時代に生きる人々の生活を数々のヒット曲で支えてきたアレンジャー/プロデューサー、亀田誠治。斬新な音楽的アプローチを実践し、その上で人々に愛される、時代に対して最も効果的な大衆音楽を生み、育ててきた男、亀田誠治。音楽に対する盲目的な信頼と批評眼を併せ持ち、大いなる理論と人間味を注ぎ込み続ける、亀田誠治。彼が総指揮を務めるイベント、その名も『亀の恩返し』が、2日間に渡って日本武道館で催された。彼と共に音楽を生み出してきた、また彼と縁のあるビッグ・アーティスト達が一同に会す、一大音楽祭である。今回、レポートにあたって会場で頂いた亀田のインタビュー記事には、『自分は天性の裏方だと思います』とある。イベント名の印象といい、スター性を振りまくアーティスト達のそれとは違って、この人の姿勢は極めて謙虚である。でも、堅苦しい優等生なのかと言えば、もちろん彼の大胆な音楽表現の数々が示すようにそうではないだろう。一見、謙虚な優等生だが、なんか虎視眈々とおもしろい企みを練っているイタズラ小僧的な一面を、この人は持っている。絡んでみたらものすごくおもしろい。そういうところが、この10年ほどで多くのアーティストやスタッフやファンに伝わり、そして信頼を得、こうしたビッグ・イベントの開催へと繋がっていったのではないだろうか。勢いとノリだけではなかなか人が動かない時代である。スターのカリスマ性とは違った個性で、こうして人々を突き動かしてしまう亀田の在り方というのは、実にこの時代においてシンボリックだ。

それにしても、今回のステージの形状はかなり特殊である。2階、3階の観客席は全周すべて使用され、南北に3つの長方形ステージが斜めにズレて連結している(難しいな、この説明は)。東西にそれぞれアリーナ席があってステージを挟む形になり、北側ステージはスピッツ専用、南側ステージには亀田誠治率いるハウス・バンドが、そして中央ステージの半分が掘りごたつのようにくり抜かれ、金原千恵子ストリングスとグランド・ピアノが収まる形になっている。会場が暗転すると、モニター類の他にテッちゃん(スピッツ)のエフェクターとか熊井吾郎(KREVA)のMPCとかが点滅していてすごくカッコいい。秘密基地みたいだ。今回のイベントに思いっきり特化されたステージで、ひたすらアイデアを洗練させて組まれたものであることが伺える。これだけでも大変な労力だったろう。でも意外と、イタズラな優等生はこういう秘密基地を作るのが得意そうでもある。

2日間のオープニング/クロージングでグッド・メロディの風を場内に吹き込ませてくれたスピッツ。弾き語りとバンド・サウンドの両方で、そのエモーショナルな歌唱の掌握力を見せつけてくれた秦基博。草野マサムネとの感動的なデュエット実現はおろか、「企画難易度ひくいと思われたら心外、って亀田さんが言ってた!」とのたまってこの2日間のために亀田と共作した“恩返し”(名曲!)まで披露したKREVA。ド派手なタイツ&ピンヒール姿でヴィブラートの効いたボーカリゼーションを披露したJUJU。貫禄の名曲連打と「僕の亀も元気です」の下ネタ投下でポップ・スターぶりを発揮した平井堅。満場の歓声の中に登場し、「師っ匠ぉ〜」の名フレーズも炸裂して亀田との最強タッグで魅せてくれた椎名林檎。不特定多数のオーディエンスが集まるイベントで、目一杯はじけながら“あたしなんで抱きしめたいんだろう?”をシンガロングさせてしまったChara。「亀田さんと出会ってから10周年ですよ! 10年で、一緒にステージで演奏するの初めてですよ!」と喜びのパワフルなステージを展開した復活DAI。圧倒的にソウルフルな歌の才能が咲き乱れ、初めて歌う亀田との共作曲を見事に表現しきってのちも「歌うのしんどい曲だって忘れてた」と笑った絢香。バラードからディスコ・ポップ、ファンキーなロックまで次々に展開し、絢香との超豪華デュエット“夜空ノムコウ”で締めたスガシカオ。こうして思い返してみても、本当にとんでもないボーカルばかりが集結し、しかも過剰なサービスが提供されたイベントであった。

マサムネは「亀田さんがプロデュースしたように生のストリングスとやるのは初めてで…ミュージシャンやってて良かった」と告げ、KREVAは「ここのストリングス隊の人たちがさ、がっちり手拍子してくれるんだよ。これだよなあ」と感嘆し(実際、それは本当に温かな光景だった)、平井堅は「亀田さんが僕の曲にいつも魔法をかけてくれる」と語った。やたらハイ・テンションで楽しそうだったCharaは「亀田さん! ツアーやりましょうよ!」とまで言っていた(あと、余りにも楽しかったのか終盤にスピッツ&DAIと“やさしい気持ち”を披露してステージを降りるときには「ああ…終わりかぁ…」とも零していた)。それほどまでに人と音とを強く温かく紡ぐ、亀田誠治の音楽の世界であった。でも決してそれは、「亀田誠治ナイト」ではなかったのだと思う。もちろん亀田のアレンジメントは平井堅が語るようにまさに魔法だし、選りすぐりの巧者を集めた亀田バンドも素晴らしかった。2日目の終演後、ピアノ奏者を務めた皆川真人にサインを求めているファンも見かけた。しかし、演奏された楽曲は、作品として亀田が関わった曲に限らず、「名曲」が選ばれていたし、そしてこの2日間に参加したアーティストの顔ぶれと実際のパフォーマンスを観れば、それが「歌」に集約されていくものだということは明らかだ。それはつまり、歌が、言葉とともに一人一人のリスナーに刻み込まれ、人々が楽器やプレーヤーを持たずとも一人で再現できる、音楽だからだ。『亀の恩返し』は、そんな「歌」にこそフォーカスしたイベントだった。

亀田はステージ上で、またエンディング映像の中で、この日に観て、聴いて、感じたことを、武道館を出たら親でも子供でも恋人でも友達でも、誰にでもいいから伝えて欲しい、と訴えていた。音楽の力を伝え、求め、求められるというダイレクトな循環を願っていた。それはとてもアナログだけれど、効果的なやり方のように思えた。音楽産業に関わる人には(「音楽の力」を信じてない人は論外としても)、そのダイレクトな循環を当たり前のことと思い込み過ぎて口にしない人が多いのかも知れない。そして亀田という人は、音楽の伝わるソフトとして最もポップでカジュアルな「歌」を選んでいる人なのだと思った。自分では歌わないから(スガシカオが言うにはカラオケは好きらしい)自ら最高の裏方に徹している人なのだと思った。『亀の恩返し』というイベントは、タイトルの印象とは裏腹に思いっきり未来に向けられたイベントだったのだ。実は1日目が終わった帰路に、知人から電話で忌野清志郎の訃報が伝えられて、僕は一気に醒め、落ち込んだ。とてもお祭り気分にはなれない、と思った。でも、2日目の武道館に向かう電車に揺られながらRCサクセションの『RHAPSODY NAKED』を聴き、そして『亀の恩返し』の高い志に気付いて、励まされた。それは清志郎がロックを日本語で伝えようとしていた志と同じ種類のもので、かつ今の時代からシャープに未来を見据えた、強い思いの形でもあったからだ。(小池宏和)

セットリスト 5/2

スピッツ
1.春の歌
2.チェリー
3.メモリーズ
4.さわって・変わって
5.正夢

秦基博
6.朝が来る前に
7.フォーエバーソング
8.シンクロ
9.新しい歌
10.鱗(うろこ)

KREVA
11.成功
12.音色
13.くればいいのに
14.生まれてきてありがとう
15.恩返し
16.あかさたなはまやらわをん

JUJU
17.I can be free
18.素直になれたら
19.やさしさで溢れるように

平井堅
20.瞳をとじて
21.哀歌(エレジー)
22.思いがかさなるその前に…
23.楽園
24.POP STAR

椎名林檎
25.茜さす 帰路照らされど…
26.more
27.ギブス
28.閃光少女
29.丸の内サディスティック

スピッツ
30.空も飛べるはず
31.魔法のコトバ


セットリスト 5/3

スピッツ
1.春の歌
2.チェリー
3.メモリーズ
4.さわって・変わって
5.正夢

Chara
6.Tomorrow
7.Cherry Cherry
8.o-ri-on
9.FANTASY
10.あたしなんで抱きしめたいんだろう?

KREVA
11.成功
12.アグレッシ部
13.くればいいのに
14.生まれてきてありがとう
15.恩返し
16.あかさたなはまやらわをん

Do As Infinity
17.空想旅団
18.遠くまで
19.遠雷
20.冒険者たち
21.陽のあたる坂道

絢香
22.おかえり
23.夢を味方に
24.ありがとう。
25.三日月

スガシカオ
26.春夏秋冬
27.真夏の夜のユメ
28.Hop Step Dive
29.コノユビトマレ
30.夜空ノムコウ

Chara
31.やさしい気持ち

スピッツ
32.魔法のコトバ
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