【来日レポ】ゴリラズ @ Zepp DiverCity Tokyo公演

【来日レポ】ゴリラズ @ Zepp DiverCity Tokyo公演 - pic by Teppei Kishidapic by Teppei Kishida

いくつもの意味でエポックメイキングなライブだった。第一に、今回のゴリラズの来日自体が、彼らにとってキャリア初の単独来日だったこと。しかも前日の幕張公演の追加にあたるこの日の会場はZepp ダイバーシティ東京、そのキャパシティは2500人弱とゴリラズを観るには貴重すぎる小規模シチュエーションだったこと。そして何よりこのダイバーシティ公演は、6月29日にリリースを控えるニュー・アルバム『ザ・ナウ・ナウ』を世界で初めて、そしておそらく世界で唯一、曲順通りに全曲プレイするスーパー・プレミアムなショウだったことだ。

彼らは前作『ヒューマンズ』のツアー中から世界各地の公演で『ザ・ナウ・ナウ』の曲を単発的に試運転披露してきたし、幕張でもシングルの“Humility”他7曲をプレイしていた。でも、アルバム全曲を曲順通りやるというコンセプトはやっぱりオンリー・ワンだ。リリースに一週間先駆けて、ゴリラズの新モードを誰よりも早く正確に、そしてアルバム音源以上に濃厚に体験できるチャンスだったからだ。

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驚いたのは、アルバム音源に対して既にライブ・バージョンとしていくつものアレンジが加えられていて、進化・発展したプレゼンになっていたことだった。ちなみに前作『ヒューマンズ』ツアーが終わったのが今年3月末、そして『ザ・ナウ・ナウ』ツアーが始まったのが6月頭なので、その間に2ヶ月しかブレイクはない。それでもなお現在のゴリラズがライブ・バンドとして疲弊することなく、充実の只中にあるのは驚くべきことだ。

“Humility”の軽妙なラテン・ビートを後半に向けてドラマティックに盛り上げていくゴスペル風コーラス、“Tranz”のダークなエレクトロ・ポップはギター&ベースが丁々発止でやりあうロックなアレンジに置き換えられていて、フロアは早くも縦ノリのポゴダンスが巻き起こる。スヌープ・ドッグが映像で登場した“Hollywood”もねちっこいベースを効かせた強烈ファンキーな仕上がりだ。

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正真正銘の世界初披露となった“Kansas”以降のアルバム中盤曲は、本作のプロデュースを務めたジェームズ・フォードの手腕が光るエレクトロニックなセクション。レトロなラウンジ・ポップを下敷きにしたヴェイパー・ウェイヴのような“Sorcererz”はゴリラズとしても新鮮な一曲で、ここで本作からの新キャラクターの「Ace」がスクリーンに登場する。スライドを効かせたカントリー・ギターで始まる“Idaho”は、『ザ・ナウ・ナウ』というアルバムがデーモンが2Dとして体験したツアーの日々を振り返るロード・ムービーでもあることを感じさせてくれるナンバーだ。車窓を流れる景色のように、曲ごとに本当にビビッドに表情が変わるのだ。

ちなみに『ザ・ナウ・ナウ』のツアー・ヴィジュアルは現時点でゴリラズとしてはかなりシンプルな作りで、その代わりに曲間に必ずテキストのメッセージが挿入される構成になっていた。「NO MORE UNICORNS ANYMORE (ユニコーンはもういない)」、ジョージ・オーウェルの『1984』をモチーフにした「BIG BROTHER IS WATCHING YOUTUBE(独裁者はユーチューブを監視している)」といったそれらのメッセージは、どれも政治や社会の問題を暗示したものだったと言える。

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つまり、前作『ヒューマンズ』がトランプ政権樹立を「予見」したアポカリプス的アルバムだったのに対し、『ザ・ナウ・ナウ』は実際にその悪夢が起こってしまった「今」を、如何にサバイブするかについてのアルバムだと捉えることができる。サウンド的にはハード&ダークなダンス・アルバムだった前作から一転、ずっとリラックスしていてフレンドリーな歌物アルバムである新作だが、そのテーマ自体は根底で連続性を持っているということだろう。

クラフトワークダフト・パンクがコラボしているようなあり得ないインストが最高だった“Lake Zurich”をインタールードとして、ライブはいよいよ後半戦へ。そしてこの後半の数曲が静かなるクライマックスだったのだ。『ザ・ナウ・ナウ』がデーモン・アルバーンのソングライティングにフォーカスした作品だということが改めて確認できる、珠玉のメロウ・ポップスの連続。ブラー時代から受け継がれたリリシズム、デーモン固有のちょっとひねくれたシニシズム、そして50歳を迎えた現在の彼の余裕の息遣いの中に宿った微かな哀愁が、至高のメロディと洗練のサウンド・デザインに込められていた。

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そんな『ザ・ナウ・ナウ』のアルバム・トータルとしてのあまりの素晴らしさと、後半のパーソナルで深い余韻に包まれて、「もうここで今日は終わりでいい……」なんて思ったものの、“On Melancholy Hill”のあのチャーミングなイントロが鳴った瞬間にそんな殊勝な気分はどこかに吹き飛んでしまった。そう、この第2部は前日の幕張のセットをぎゅっと凝縮したような、つまり問答無用のベスト・ヒット・セット! ぺヴェン・エヴェレット、ブーティー・ブラウン、さらにはデ・ラ・ソウルまでオン・ステージで繰り広げるパーティーは圧巻の一言だし、ラストを飾ったのは“Dirty Harry”、“Feel Good Inc.”、“Clint Eastwood”という禁じ手スレスレの3連発! 直近のゴリラズのツアーにおいて、こんなベタで過剰なエィンデングはほかではありえない。前半の『ザ・ナウ・ナウ』再現で「今」にきっちりフォーカスしたからこそ実現した、まさにスペシャルな一夜のスペシャルな締めくくりだったのだ。 (粉川しの)

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