ノラ・ジョーンズ @ 日本武道館

4月9日の仙台から21日の名古屋まで、全国9公演もの日程がスケジュールされた4年半ぶりのジャパン・ツアー。武道館は追加公演含め3夜連続であり、その一夜目から見事に座席がみっちりと埋まっている。ノラ・ジョーンズのキャリアの充実を物語る光景だ。以下ライブレポートの本文はネタバレを含む内容となっているので、今後の公演を楽しみにしている方は閲覧にご注意を。


ノラ・ジョーンズ @ 日本武道館 - All pics by Masanori DoiAll pics by Masanori Doi

まず、今春のUS/ジャパン・ツアーでオープニング・アクトを務めているアロイシアス・3。ノラのバック・バンドとしても活躍しているザ・キャンドルズのピート・レム(Key)がダン・リード(G)と共に立ち上げ、キャンドルズからグレッグ・ウィゾレック(Dr)も加わったベースレス・トリオ(時折、サポートでベースも入る)だ。ブルージーな哀愁をなびかせるインストから、緊迫感と力強さを兼ね備えたグルーヴィーなナンバー、グレッグやピートがボーカルを兼任する楽曲まで、アメリカの多様なルーツ・ミュージックを消化しつつ、ピートのオルガンやダンのペダルスティールが深い味わいを残すパフォーマンスである。

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休憩を挟んで、いよいよノラ・ジョーンズのステージだ。バンドと共に姿を見せたカジュアルな装いのノラが歓声を誘うと、ピアノを前に腰掛けてデビュー作『ノラ・ジョーンズ』(『Come Away With Me』)から“I’ve Got to See You Again”を切り出す。滑らかで瑞々しいジャズ・ピアノと歌の立ち上がりだ。新作『デイ・ブレイクス』が原点回帰かそれ以上のピアノ/ボーカル・ジャズ作品となっていたこともあり、ロマンチックな再会の一幕になった。そこから新作曲“Tragedy”、カントリー色を帯びて転がる“Out on the Road”と続く。ジェシー・ハリス作の初期ナンバー“Something Is Calling You”のダイナミックに展開するアレンジも素晴らしかった。

愛嬌たっぷりに挨拶を挟み、新作収録のニール・ヤングのカバー“Don’t Be Denied”はソウルフルに膨らんでゆくパフォーマンスだ。そして“Chasing Pirates”以降はピアノを離れ、キーボードやギターを奏でながら自由闊達なステージを観せてゆく。プスンブーツ名義の“Don’t Know What It Means”セルフカバーも演奏し、はたまたファーストからの“Nightingale”を彼女自身のギター演奏と共に披露していた。付かず離れず、そんな彼女なりのジャズとの距離感を感じさせる時間帯だ。

ノラ・ジョーンズの、ジャズとの距離感はとても独特だ。ジャズ・ピアノのスキルを持ちながら、その表現はカントリーにフォーク、ロックと多岐に渡る。第一線のジャズ・ミュージシャンを数多く招いた新作『デイ・ブレイクス』とツアーで、彼女はジャズとの距離感にひとつの決着を付けようとしているのではないか。新作の内容とは違い、ザ・キャンドルズ/アロイシアス・3の面々も、辣腕プレイヤー揃いではあるがジャズ・ミュージシャンというわけではない。

ノラ・ジョーンズ @ 日本武道館

もちろん、再びピアノに向き合い、優しく丸みを帯びた歌声で届けられる“Don’t Know Why”では喝采が起こる。歌メロを反芻するようにピアノをリフレインさせるスウィング・ナンバーの新作曲“It’s A Wonderful Time For Love”も素晴らしかった。キャリアを見渡す楽曲群をソロ弾き語り(ダンのペダルスティールが絡む一幕も)で奏でる一幕には惚れ惚れとさせられる。ジャズは彼女にとってアインデンティティの大切な一部ではあるが、しかしそれだけでは収まりきらないものもまた、彼女の中にあるのだ。

ノラ・ジョーンズ @ 日本武道館

バンド編成に戻り、刺激的なサウンドが差し込まれる新作曲“Flipside”はすこぶるかっこ良かった。優しいソウル・ジャズの“Carry On”も届けられる。本編最後には、敢えてまたもやギターを手に取り、セッティングに少々手間取る素振りを見せながらも「大丈夫よ。プロなんだから」と笑顔で告げて“Stuck”を歌い上げていった。かつてブルーノートから鮮烈なデビューを果たし、21世紀のアメリカのジャズの希望として期待を寄せられてきたノラ・ジョーンズは、素晴らしいミュージシャンでありながら自由な表現を求め葛藤してきた。もしかすると彼女は、何度も胸の内でこう呟いてきたのではないか。「大丈夫よ、プロなんだから」と。

アンコールでは、ウッドベースやマーチング・ドラムも持ち込まれたステージ中央にメンバーが寄り添うようにして、フォークタウン・スタイルでオーディエンスの手拍子を誘いながら、伸び伸びと楽しげに名曲を連発していった。ひとりのアーティストが描いてゆく表現キャリアと、音楽ジャンルの意味についても思いを巡らせる、とても濃密でドラマティックなステージであった。(小池宏和)

〈SETLIST〉

01. I’ve Got to See You Again
02. Tragedy
03. Out on the Road
04. Waiting
05. Something Is Calling You
06. Don’t Be Denied
07. Chasing Pirates
08. Don’t Know What It Means
09. Wake Me Up
10. Nightingale
11. Don’t Know Why
12. It’s A Wonderful Time For Love
13. Humble Me
14. Little Broken Hearts
15. Painter Song
16. Flipside
17. Carry On
18. Stuck

(encore)
01. Sunrise (folktown)
02. Creeping’ In (folktown)
03. Come Away with Me (folktown)
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