ジェフ・ベック @ パシフィコ横浜

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ジェフ・ベック @ パシフィコ横浜
ジェフ・ベック @ パシフィコ横浜
新作『ラウド・ヘイラー』を引っ提げての来日ツアー初日となったジェフ・ベックの横浜公演。ヴォーカルを2名従えてのライブとなり、近年のライブとは打って変わったバンド・ギタリスト「ジェフ」の原点と向き合わせてくれる素晴らしいライブとなった。

タイトルが「拡声器」を意味する新作『ラウド・ヘイラー』ではヴォーカルを前面に打ち出し、メッセージも強く訴える内容となっただけにそれに準じたライブになるのかどうかというのがとても楽しみだったのだが、まさにそれを直球でぶつけてきたライブで、相変わらず世界一の名演を紡ぎだしながらも、ひたすら一ギタリストに徹するジェフの姿はしびれるかっこよさに満ちていた。基本的にぼくがライブで観たことのあるジェフはほとんどギター・ソロイストとしてのジェフばかりなので、今回の公演は格別なものとなった。

冒頭は新作からの“The Revolution Will Be Televised”。バンドが登場して舞台袖からジェフがイントロを弾きながら学ランみたいなスーツ姿で登場し、とりあえずかっこいい。72歳でこのかっこよさはほかにミック・ジャガーくらいしかいない。するとヴォーカルのロージー・ボーンズが観客席後部から登場し、拡声器でヴォーカルを披露するという演出。この曲はもともとギル・スコット・ヘロンの名ファンク・ポエトリーである“The Revolution Will Not Be Televised”へのオマージュで、ギルの楽曲が来たる革命は資本主義にメリットはないから一切テレビ報道されないという内容だったのに対して、今回のジェフの“The Revolution Will Be Televised”はすべてが映像化されて配信されている今、来たる革命もまたテレビ報道されるけれども、もはや誰もそれに関心を持たないという現代のシニカルさを訴えるもの。そもそも今回、ジェフが新作でなぜ歌ものをやろうとしたのかといえば、かつて大きなインスピレーションとしてきたR&Bのメッセージ性は今の時代にこそ一番必要だと感じてのことであるはずだ。圧倒的にヘヴィーなギター・リフにロージーのメガホンで繰り出される、ラップというよりはやはりギルを意識したポエトリー・リーディング、そしてそれに絡むジェフのギターが混然となったうねりのようなパフォーマンスがのっけから素晴らしく、新作の意図をよく伝えるものになっていた。

ジェフ・ベック @ パシフィコ横浜
ジェフ・ベック @ パシフィコ横浜
続いたのは“Freeway Jam”でソロ・ギタリスト曲としてはジェフの代表的なナンバーでまごうことなきそのサウンドを弾きまくる。そしてギター・ソロのスタイルとしてイギリスのギタリストにあまりにも大きな影響をもたらしたロニー・マックの1964年の“Lonnie on the Move”のカバーへと雪崩れ込み、ひとしきりギターを堪能させてくれた後で、再びロージー登場。披露したのは“Live in the Dark”で、分厚いグルーヴを利かせた演奏にジェフがギターを絡めながら、ロージーがトランプ政権成立を見通していたかのような暗さや闇との対峙を決意するヴォーカルを歌い上げる。その後は、どこまでも伸びのあるジェフのギターの音色とどこまでも硬質なリズム・カッティングを同時に堪能できる“Thugs Club”が続くが、ミッド・テンポ・ファンクとして盛り上がってから「金持ちしか勝てない戦いの相手なんかもうしない」とロージーの歌い上げるコーラスのメロディのキャッチーさとそれに絡みつくジェフの絶妙なリズムとフレーズがひたすらしびれた。

ここでまたロージーが退場し、演奏はマハヴィシュヌ・オーケストラのカバーの“You Know You Know”に突入。1985年の『フラッシュ』に収録されたナンバーで、ここ数年この曲はレパートリーに復活してきていて、実際、変幻自在のジェフのギターが素晴らしかった。

続いては『フラッシュ』にヴォーカルとして参加していたジミー・ホールが登場し、ロッド・スチュワート時代のジェフ・ベック・グループの“Morning Dew”を披露したかと思うとその次はサム・クックの不朽のプロテスト・ソウル“A Change Is Gonna Come”という、猛烈にソウルフルな展開へ。つまり、ブルースやソウル的な持ち歌についてはジミー、新曲群やよりファンクっぽい曲についてはロージーという構成になっているわけだが、もちろんジェフのギターもとてつもなく、歌の合間に放り込んでくるフレーズは音符ひとつひとつが玉のように粒立っているような素晴らしい演奏だった。

というわけで、ジェフのギター曲、2系統の歌ものをめぐっていく展開であっという間に18曲目の新作の"Right Now"で本編終了。アンコールにはザ・ビートルズの“A Day in the Life”をまずは披露。いつもジェフのこの曲を聴くと思うのは、この曲はあまりにもイギリスらしいブルースだということで、ジェフの奏でるジョン・レノンのメロディが切ないほどに感動的だった。そして、最後はジェフ・ベック・グループの“Going Down”となったが、多彩な展開を取りつつもヴォーカル・グループとしてのアンサンブルを前面的に打ち出した構成はとても刺激的だったし、ジェフなりの時代との向き合い方が明確に示されていて、一線のアーティストとしての気概をどこまでも感じさせてくれた。(高見展)
ジェフ・ベック @ パシフィコ横浜
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〈SETLIST〉
01. The Revolution Will Be Televised
02. Freeway Jam
03. Lonnie on the Move
04. Live in the Dark
05. Thugs Club
06. You Know You Know
07. Morning Dew
08. A Change Is Gonna Come
09. Big Block
10. Cause We’ve Ended as Lovers
11. O.I.L. (Can’t Get Enough of That Sticky)
12. The Ballad of the Jersey Wives
13. Scared for the Children
14. Beck’s Bolero
15. Little Brown Bird
16. Rollin’ and Tumblin'
17. Superstition
18. Right Now

En1. A Day in the Life
En2. Going Down(Moloch cover)
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