ブラッド・オレンジ @ 恵比寿ガーデンホール

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ブラッド・オレンジ @ 恵比寿ガーデンホール
ブラッド・オレンジ @ 恵比寿ガーデンホール
本年度のベスト・アルバム有力候補の大傑作『フリータウン・サウンド』を引っさげての待望の初来日。スカイ・フェレイラやソランジュ等のプロデュースでも知られるデヴ・ハインズのソロ・ユニットだ。チケットは完全ソールドアウトで、この稀なる才人を待ち構える。客入れには誰が選んだか、ずっとジョン・コルトレーンが流れている。久々に聴いた60年代コルトレーンの最高峰『至上の愛』の狂おしいインタープレイが耳にこびりついて離れない。

開演予定時間を15分ほど過ぎたところで登場。ギター/キーボードとベース、ドラムス、コーラス、というよりはセカンド・ヴォーカルの女性、そしてデヴという5人編成。ショウの序盤はPAが悪くヴォーカルがほとんど聴きとれない上に演奏も固さがあったが、徐々にバランスが良くなりほぐれてくる。

ブラッド・オレンジ @ 恵比寿ガーデンホール
ブラッド・オレンジ @ 恵比寿ガーデンホール
奏でられるサウンドは、レコードで我々が魅了された、最高度に洗練されたエレクトロニック・インディR&Bのイメージをほぼ完全に払拭するような、拍子抜けするほどオーセンティックでシンプルなバンド・サウンドだ。デヴはステージ狭しと動き回り、踊りまくり、ギターやピアノを弾きまくって、思いのほかエネルギッシュで肉体的。ナルシスティックにギター・ソロを披露するあたりは往年のプリンスを想起させるが、プリンスのような濃厚なファンク色、アンチ・モラルな危険さ、ジェンダーを踏み越えたエロスの匂いは希薄で、歌声も含め雰囲気はむしろマイケル・ジャクソンに近い。

バンドの演奏はデヴ自身のプレイも含めかなり達者。特にドラムとベースは素晴らしい。だが練り上げられたバンド・サウンドという感じはまだない。おそらくライブの場数がまだ足りないのだろう。そのせいかバンド・メンバーがお互いのプレイに熱く呼応しあって上り詰めていくようなスポンテニアスな盛り上がりがなく、どこか冷めていてクールだ。だがそれがこの人の個性なのだろう。歌もダンスも振る舞いもマイケルやプリンスの域にはまだほど遠いが、濃厚なソウル/ファンク・フィーリングや鍛え抜かれたスキルがない代わり、絶妙なバランス感覚と垢抜けた都会的で軽やかなセンスは他では得がたい個性だ。技術よりも情念よりもセンスで勝負。それはUKのインディ・ポップ畑出身という出自に関係しているのかもしれない。

ブラッド・オレンジ @ 恵比寿ガーデンホール
ブラッド・オレンジ @ 恵比寿ガーデンホール
今はまだアーティストやポップ・スターというよりは、プロデューサーとしての振る舞いが勝っているという印象も受けた。それが今後このバンドで十分なステージ経験を積むことでどう変わっていくか。稀なる才人の今後を見守っていきたい。(小野島大)
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