GOOD ON THE REEL@Zepp DiverCity

GOOD ON THE REEL@Zepp DiverCity - all pics by Viola Kamall pics by Viola Kam
まるで幼子が泣き声をあげるような切実さで響きわたる千野隆尋(Vo)の歌声。その千野が大きく両手を広げ、あるいは身振り手振りを交えて繰り出す美しいメロディ。力強いバンドサウンド。それらが歓びと悲しみをひとつひとつ数えながら、最後に全てを“ハッピーエンド”へと導いてゆく。GOOD ON THE REELのライヴは、私たちに「いまを生きること」の揺るぎない価値を感じさせてくれるものだ。それは、どんな偉い先生の論文でも講義でも太刀打ちできないほどの説得力。「昨日が、今日が、明日が、あなたを作ってくれます。何の特別なことがなくても、それだけでかけがえのない日々だと思います」。本編のラスト“Mr.Week”を歌う前に千野はそう言った。そして、《かけがえのない私》を誇れと歌った。あの時、その肯定のメッセージに救われたのは、私だけではなかったはずだ。

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開演前、ステージの紗幕には降りしきる雨が映し出されていた。カエル、かたつむり、てるてる坊主。それらのイラストが浮かんでは消えていく。定刻、紗幕にメンバー5人のシルエットが大きく映し出され、“BYSTANDER”からライヴは始まった。高橋誠(Dr)が繰り出す軽快なビートにのせて、左右を固める伊丸岡亮太(G)と岡﨑広平(G)のギタリストふたりが存在感のあるリフを鳴らした。宇佐美友啓(B)のベースが口火を切った“サーチライト”。鋭く攻撃的なロックナンバーを続けざまに届けると、千野が「さあ……! 素晴しき今日を、はじめよう!」といつもの決まり文句で、“素晴らしき今日の始まり”へ。「東京へ帰ってきたよ!」(千野)、全15公演のツアーのファイナルが幕を開けた。

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今回のツアーは昨年12月2日にGOOD ON THE REELがリリースしたアルバム『ペトリが呼んでる』を引っさげたものだ。「ペトリコール」という、雨が降った時に地面から湧き上がる、あの懐かしいような独特の匂いを指す言葉をタイトルをつけた作品。この日はアンコールを含めて全21曲が披露されたが、アルバムの12曲は全て演奏された。千野がアカペラで歌い出してドラマチックに聴かせた切ないバラード“つぼみ”、マーチングドラムに合わせて祈るようにメロディを紡いだ“So Late Me”、岡﨑が鮮やかなライトハンドを繰り出した焦燥感滲むロックナンバー“スケール美術館”。一曲一曲が短編小説のような奥行きと物語性を持つGOOD ON THE REELの楽曲は、聴き手に想像の余地を残しながら、しかし忘れてはいけない大切な想いを明快に訴えかけてくる。

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ハイライトはライヴ中盤に披露された“rainbeat”だった。5人が立つステージの後方に雨を模したような銀テープが垂れ下がり、光が乱反射して美しく輝いていた。「ウォーウォー」とフロアから巻き起こるシンガロング、野性的なリズムと瑞々しく重なり合うギターリフ。その全てが強い生命力を持って響き渡っていた。《花も 草も 木々も》《鳥も 虫も 魚も》《雨よ 叩け!》。千野が振り絞るような歌唱で届けた端的な言葉。あらゆる生き物と同じく自然の中でのみ生かされている私たち人間が、その胸に抱える悩みなどいかにちっぽけで取るに足らないものか。その言葉は、そう感じさせる雄大な包容力を秘めていた。

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およそ2時間近くにおよぶライヴのクライマックスを飾ったのは、“ペトリコール”と“Mr.Week”だった。あの頃、《雨の匂いがした》アスファルトで長靴を履き、水たまりで遊んだ少年少女たちが、こうしていま《かけがえのない日々》を懸命に生きている。過去から現在へと時間軸を繋ぐように紡いだ2曲。ゆったりと流れる演奏の最後の一音までじっと耳を傾けていた会場からは、曲の終わりと同時に割れんばかりの拍手が贈られた。

GOOD ON THE REEL@Zepp DiverCity
アンコールでは、会場が一体となって盛大に腕をまわしたライヴの定番曲“シャワー”と切なくてポジティヴなバンドアンセム“ハッピーエンド”を届けて、およそ2時間半におよぶライヴに幕を閉じた。「ぶっちゃけて言うけどね、ステージに立つことはいまだに怖いことなんだ。出番前は足が震えるし、嗚咽もする。それでも俺がステージに立つのは、形のなかった幸せがあなたたちだと気付いたからです。今、この世界に一緒に生きてくれて本当にありがとう!」。千野は感謝の言葉と共に、この先も一緒に歩いていこう、と最後に集まったお客さんとの約束を交わしていた。

この日、「雨の匂い」と共に幕を開けたGOOD ON THE REELのライヴだったが、気づけば心は晴れやかだ。《どうなるかはわからないけど》、私もとりえあず歩いてみよう。(秦理絵)

●セットリスト

01. BYSTANDER
02. サーチライト
03. 素晴らしき今日の始まり
04. さよならポラリス
05. ただそれだけ
06. ゴースト
07. つぼみ
08. So Late Me
09. スケール美術館
10. アイスランド
11. REM
12. 存在証明書
13. シャボン玉
14. rainbeat
15. 夕映
16. ホワイトライン
17. ペトリコール
18. Mr.Week
(encore)
19. ノースポール
20. シャワー
21. ハッピーエンド
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