グライムス @ 赤坂BLITZ

とにかくニコニコと楽しそうなんである。

まるでお年頃の女子高生のように、あっちを向いてはクス、こっちを見てはウフ、てな具合に、笑いながら喋っているというか、喋りながら笑っているというか。ガーリーなムード満載。そして忙しい。歌い、踊り、飛びはね、シンセやサンプラーを操作し、パッドを叩き、ギターを弾き、早口で喋り、あちこちに話題が飛び、ケラケラ笑いながらステージの端から端まで走って愛想を振りまき、共演者を紹介し、観客に呼びかけ、とにかくひとときも落ち着く瞬間がない。なにもかもが全力投球なのだ。その動きが実に清々しい。

そして大事なのは、シャツに短パン、赤い大きなリボンという、お洒落だかなんだかわからないファッションもそうだが、そのいずれもが微妙に均衡が崩れていて、どことなく垢抜けなさが漂うところ。はっきり言えば微妙にダサく、スキがあって、どれもが少しづつ足りない。しかしその足りなさこそが彼女の魅力なのである。それを一言で表すならば「可愛い」としか表現しようがないものだ。そして歌う楽曲はどれもが超がつくほどポップでキャッチーで覚えやすいものばかり。観客の熱狂は、ここ最近見たことのないほど熱く激しく、そして微笑ましいものだったが、それは憧れのスターを仰ぎ見るような振る舞いとは明らかに異なっているように思えた。

そのありようは、たとえば去年のフジロックで、息をするのもためらわせるような完璧なパフォーマンスを見せたFKAツイッグスとは対照的だ。共感も共有も参加も拒否するようなスキのないFKAのライヴは正しくアート・フォームであって、大衆的とは言いにくいものだったが、グライムスは共有も共感も参加も可能なポップスとして見事に機能していた。鑑賞するのではなく参加したくなる。完璧なショウではないからこそ、仰ぎ見るのではなく同じ目線で共感できる。機材の操作ぐらい誰かに任せた方がショウとしての完成度はあがったかもしれないが、その手作り感覚のDIYなこだわりと頑張りを応援したくなる。自分もなにかできそうと背中を押してくれるのだ。

ここまであえてその言葉を使わずにきたが、まさしくグライムスは「アイドル」なのだ。そういえばダンサー2人やサポートのHANAも含め女子4人が元気いっぱいに歌い踊るステージははやりのグループ・アイドルでも見ているような気がしないでもない。ただし誰かがお膳立てしたわけじゃない。歌って踊って演奏できて曲も書けてサウンドメイキングもできる最強のDIYアイドルだ。

パフォーマンス面を述べてきたが、楽曲作りのソツのなさ、サウンド・プロダクションのクオリティの高さ、ベース・ミュージック以降を感じさせる音響面の抜かりのなさは、もちろん言うまでもなく、レコードで十分わかっていたことだ。だがその音楽的才能がアート作品ではなく、ポップ・ミュージックを作ることに傾注されているのが素晴らしい。もともとがオタクな宅録少女で、この日アカペラで歌った「アヴェ・マリア」が示すような、ゴスで耽美でダークな文化系女子だったグライムスは、その気になれば、もっと気取った<アーティスト>としての道も開けていたはずだ。前作『ヴィジョンズ』までは、そんなアート指向な雰囲気もあった。だが新作『アート・エンジェルズ』で聴かせた急激なポップ化は、戦略的にそうしたというよりも、自然にそうなった、いやならざるをえなかったのだ、ということがこの日のライヴを見てよくわかった。グライムスは今の時代のアイドル=ポップ・アイコンとして必要なものをすべて持っている。その光り輝く未来が本当に楽しみだ。(小野島大)
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