ベンジャミン・ブッカー @ shibuya duo MUSIC EXCHANGE

昨年、セルフ・タイトルのデビュー・アルバムをラフ・トレード(米本国ではデイヴ・マシューズのATO)からリリースした、ニュー・オーリンズの若きガレージ・パンク/R&Bシンガー、ベンジャミン・ブッカー。彼の初となる来日公演が、大阪と東京で行われた。ATOにラフ・トレードとくれば、アラバマ・シェイクスのデビュー・アルバム『Boys & Girls』が思い出されるけれども、ベンジャミン・ブッカーのアルバムもアラバマ・シェイクスと同じく、ナッシュヴィルのヴィンテージ機材を揃えたスタジオ=ボム・シェルターで、同じプロデューサーのもとにレコーディングされている。音源に真空パックされていた荒削りで衝動的なパフォーマンスが、生のステージでどれだけ再現されるのかが気掛かりだ。

この夜、開演時間きっかりに登場してオープニング・アクトを務めたのは、邦人バンドのシャムキャッツ。夏目智幸(Vo/G)と菅原慎一(G/Vo)がリード・ヴォーカルをスイッチしながら、気怠さの中に苛立ちを忍ばせてギター音響をなびかせ、4ピースの飾り気のないサーフ/サイケデリック・ポップの時間を育んでいく。都会の喧噪ではない、郊外のベッドタウンの視界と心象が鮮やかに伝えられるシャムキャッツの情景喚起力は、ちょっと他に類を見ないほど強烈なものだ。夏目はオープニング・アクトとしての役回りを「ごはんを混ぜて、寝かせて頂いて、ベンちゃんを味わって頂く」とユーモラスに語り、3月4日にリリースされる最新ミニ・アルバム『TAKE CARE』のナンバーで先頃解散した昆虫キッズをトリビュートしながら、“LAY DOWN”で締め括るまでの全7曲を披露した。彼らは来る3月19日、フレッド・ペリーによる企画イヴェント「Sub-Sonic Live 2015」で、ザ・シャーラタンズとも共演予定だ。

さて、いよいよベンジャミン・ブッカー。ベーシストにアレックス・スポトー、ドラマーにはベンジャミンがデビュー前からセッションを行っていたマックス・ノートンという3ピース編成であり、アレックスとマックスはロッポンギズ・エースというフロリダのローカル・バンドで活躍していたことがあるらしい。エピフォンを携えたベンジャミンがじっくりと印象深いリフを奏で、そこから堰を切ったように転がり出すロックンロール“Always Waiting”でパフォーマンスをスタートだ。激しいファズ・サウンドが吹き荒れることを期待したのだが、強烈なアタック感で迫るリズム・セクションに埋もれてしまう形で、ギターの鳴りはいまひとつというところ。生粋のブルース・マンと呼べるほど、彼はギターが上手くない。ローテクなパンク・アーティストなのである。それでも、ベンジャミンのスモーキーで嗄れた歌声は序盤から全開で、熱を帯びたシャウティング・ヴォーカルが説得力を増していった。

アップテンポな爆裂ナンバーも良いが、ミドルテンポのホンキートンクで語り聴かせるような“Happy Homes”もまた秀逸だ。音源のオルガン・サウンドは不在だが、ベンジャミンのヴォーカルだけでお釣りが来るほど味わい深い。ベンジャミン・ブッカーの素晴らしさとは、シンガー/ストーリーテラーとしての素晴らしさであることが、この曲であらためて実感できた。続いて、ファリー・ルイスのカントリー・ブルース“Fallin’ Down Blues”では、アレックスがヴァイオリンを、マックスがマンドリンを奏で、ギターレス編成の歌を軸にしたパフォーマンスが繰り広げられる。ベンジャミンは煽り立てるでもなく歌に没入しているのだが、オーディエンスのクラップが自然に沸き上がって演奏に加わっていた。

実父が海軍を退役すると、ベンジャミンの家族はヴァージニアからフロリダに移り住み、そこでベンジャミンは大学へと進学してジャーナリズムを学んでいる。元々はスケート・カルチャーに親しんだ、今時のごく一般的な少年だったそうだ。それが、LAの伝説的カウパンク・バンドであるザ・ガン・クラブなどに衝撃を受け、ブルースのルーツを辿るようになる。だからなのか、一見ヴィンテージな彼のパフォーマンスは、グランジや、トミー・ゲレロ辺りの知的でオルタナティヴな現代型ブルース・ロックの影響を垣間見せることもある。つまり、彼は我々日本のロック・ファンと同じように、音楽ライフの中で自身の選択に基づきブルースを探り当てたアーティストなのである。

歴史の闇を憂いながら正面を見据え、溜め込んだ感情をメッセージに乗せて放つ“Kids Never Growing Older”は、紛れもなくザ・ガン・クラブのようなパンク・バンドから影響を受けた陰鬱なブルースだ。或いは、迫害との戦いの史実と現代テクノロジーを引き合いに《未来はゆっくりとやってくるのさ》と詩情を運ぶソウル・バラードの“Slow Coming”。小手先の技術はさしたる問題ではない。プリミティヴな音の爆発力は、あくまでも現代を生きる彼の叫びを運ぶために、彼自身が選んだツールなのである。再び痛快な爆走を繰り広げるR&Bナンバーは、“Wicked Waters”。ここぞとばかりに鮮烈なギター・フレーズを轟かせて繰り出される、確信の“Violent Shiver”は、フィニッシュした途端にオーディエンスの大喝采を浴びていた。

アレックスとマックスがセッションを繰り広げている間、ベンジャミンはドリンクを運び込んで2人に手渡し、「カンパイ!」と一声。MCらしいMCはほとんどなかったけれども、地声からして歌と同様に嗄れているのが可笑しい。そして泣き笑いのストーリーテリングで“Have You Seen My Son?”もプレイすると、衝動の熱さしか伝わるものがないインスト・セッションをブチ撒け、本編はフィナーレを迎えた。アンコールでは再びヴァイオリンとマンドリンが持ち込まれるカントリー・ブルースを届け、ベース&ドラムスに移行するセットで豪快に幕を閉じる。まだまだ若いベンジャミンが、これからどんなキャリアを築き上げてゆくのか楽しみだ。(小池宏和)
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