シンディ・ローパー @ 日本武道館

シンディ・ローパー @ 日本武道館 - pic by Yuki Kuroyanagipic by Yuki Kuroyanagi
「シンディ・ローパー ~30周年アニヴァーサリー・セレブレーション ジャパン・ツアー 2015」と題されたツアーの最終日は、7年ぶりだという武道館公演。この間にシンディは、2011年3月11日に発生した東日本大震災の直後、まだ照明の電力を確保できない状況下でライヴを敢行したり、以降も被災地を見舞いに訪れるなどの応援活動を通じて、単なる親日家では収まらないくらいに深い、この国への愛情を示してきた。そんな彼女が、不滅の名盤であるデビュー・アルバム『シーズ・ソー・アンユージュアル』(リリース当時の邦題は『N.Y.ダンステリア』)のリリース30周年を記念し、同作品の収録曲をメインにしたライヴを行うということで、絶対に行かねば!と大勢のファンが詰めかけ、武道館は2階席の上方まで大入り満員となった。

オープニングは、彼女の持ち曲でも特にパンチが効いたヒット・ナンバーの"She Bop"。個人的に、アーサー・ベイカーによる12インチ用リミックス・ヴァージョンも大好きだった。シンディはいきなりフロアの右側入口から登場し、客席のド真ん中を横断しながら舞台に上がるというサプライズ演出で、大観衆の気持ちを一気に引きつける。遠目にも眩しい真っ赤な髪と魔女っぽい衣装を見て、後ろの席に座る若い男性が「かわいいー! かわいいー!」と10回くらい叫び声を上げたので、思わず「彼女、還暦すぎてんのよ」とツッコミたくなったが、魔女っ娘の小道具みたいな感じでリコーダーを取り出して間奏のソロをとる姿を見ると、実際メチャクチャ愛くるしいのだ。

2曲目もデビュー・アルバムから、軽快なリズムの"I'll Kiss You"。あらためてバック・バンドに目をやると、ギター、ベース、ドラムス、女性コーラスにキーボードが2人の6人編成で、鍵盤のうちの1人はフーターズのメンバーでもあるロブ・ハイマンだ。続いてウクレレ弾き語りの"He’s So Unusual"を演る前に、アルバム・タイトルにまつわるベーシストとの思い出を語ると、「シートベルトをしっかり締めていくよ!」との掛け声通り、そのまま"Yeah Yeah"へと突入。オノ・ヨーコから受けた影響も表れたノリノリのナンバーで、序盤からグイグイ飛ばしてオーディエンスを巻き込んでいく。

5曲目"Witness"はレゲエ風のアレンジを施された曲だが、やはり古い友人だというスキンヘッドのドラマーによるドスンとヘヴィな叩きっぷりが不思議な感じでハマっていてよかった。いかにもエイティーズな音色のリズム・マシーンと組み合わせることにより、シンディの音楽をライヴで表現するには、こういうロックなドラマーが合っているのかもしれない。また、序盤は少し歌い難そうな様子も見られたが、このあたりから徐々にノドの調子も出てきた感じで、その歌声にもぐーんと張りと伸びが出てきた。

次に披露された"All Through the Night"は、デビュー・アルバムの中でもじっくり聴かせる系の曲。暗めに照明を落とした舞台上で、ハンディタイプの蛍光ランプで仄かな希望の灯を照らすかのような動作を見せるシンディが、曲の後半に入って小さなミラーボールに持ち替えると、上方から巨大なミラーボールが武道館全体を煌煌と照らす。彼女が心の力で闇を打ち払う姿を表した見事な演出に、客席からはごく自然に大きな喝采が巻き起こる。

ここで一旦『シーズ・ソー・アンユージュアル』を離れ、比較的最近のアルバム『ブリング・ヤー・トゥー・ザ・ブリンク~究極ガール』からダンサブルな"Into the Nightlife"。続けて、彼女が音楽を手がけたミュージカル『キンキィ・ブーツ』から"Sex Is In the Heel"を披露。「脚本を書いたハーヴェイは、私より変な人よ」と紹介された同ミュージカルは「近いうちに日本でも上演されるかも」とのこと。さらに「自分を受け入れること、そして他人を受け入れることというのがテーマなの」と続けてから、「まあ、これは靴についての歌だけどねっ」と戯けてみせた。

そしてアカペラで歌われる日本語曲"忘れないわ"。下積み時代に日本レストランで働いた時の経験が、日本に対する愛に繋がっていると語るシンディにとって、特に思い出深い曲なのだという。「愛する人のことを決して忘れない」という内容の歌詞に込めた彼女の思いは、直前の仙台公演だけでなく、ここ東京でも満場の観衆に染み渡っていた。続けて歌われた名曲中の名曲"Time After Time"で、一気に涙腺が決壊した人も多かったことだろう。

そこから"Girls Just Want to Have Fun"(当初の邦題は"ハイスクールはダンステリア")という鉄板すぎる流れで、泣いていたオーディエンスも一転して立ち上がり踊りまくる展開に。さらにデビュー・アルバム1曲目を飾っていた"Money Changes Everything"で本編終了。この日はプリンスが書いた"ホエン・ユー・ワー・マイン"以外の全曲がデビュー作からプレイされたが、曲順の組み方も含めて、とてもいい構成になっていたと思う。

アンコールでは、再びアカペラで"上を向いて歩こう"。歌詞の書かれた紙を持ちながら、少し拙い感じの歌唱になったが、それを観客の大合唱が支えるような形になったことが、また胸に響く。そして、赤い髪との対比が美しい黄色の帽子を持ちながら"Hat Full Of Stars"を歌い上げた後、メンバー紹介のソロ回しも含めた"Shine"と"Change Of Heart"で、ショウは大きなクライマックスを迎えた。

バンド全員で肩を組んで深々とお辞儀をした後、間を空けない2度目のアンコールのようにして、ダルシマーを手にとったシンディ。これまでの公演のように代表曲"True Colors"の弾き語りでラストを締めくくるかと思いきや、彼女はここで少し固い表情を見せながら「今の世界は恐ろしいこともあるわね。かつて偉大なミュージシャンがいて、こういう歌を歌ったの」というような内容のことを話し、おもむろにジョン・レノンの"Imagine"を歌い始めた。おそらく、当日報じられた過激派組織による日本人人質事件のニュースを受けての行動なのだろうと推測する。続けて歌われた"True Colors"は、シンディ・ローパーというアーティストの素晴らしさをこのうえなく体現するものになっていたと思う。

ステージから去り際に彼女が観客へ向けて語りかけた言葉は、「グッド・ナイト」とか「シー・ユー」ではなく、「テイク・ケア、テイク・ケア・イーチ・アザー」だったことも、とても印象深かった。(鈴木喜之)

[セットリスト]
1. She Bop
2. I'll Kiss You
3. He's So Unusual
4. Yeah Yeah
5. Witness
6. All Through the Night
7. Into the Nightlife
8. Sex Is In the Heel
~忘れないわ~
9. Time After Time
10. Girls Just Want to Have Fun
11. Money Changes Everything

~上を向いて歩こう~
En1. Hat Full Of Stars
En2. Shine
En3. Change Of Heart
~Imagine~
En4. True Colors
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