ゆず@横浜アリーナ

ゆず@横浜アリーナ
「このライヴが終わればみんなそれぞれの日々に帰っていきます。ゆずのライヴに来てくれたみんなにはきっといっぱいいいことが起こるけど、時には困難もあるでしょう。自分の壁は自分で超えなければならない。それは大変かもしれない。でも一つだけ忘れないでください――どんなときでも、何があっても、僕らの歌、音楽、声がみんなのそばにい続けます。みんなのことを守り続けます」

12枚目のフルアルバム『新世界』を引っさげて行われた「YUZU ARENA TOUR 2014 新世界」。全14会場30公演、のべ30万人が足を運んだというツアーのファイナル公演=横浜アリーナ2日目。そのアンコール、北川悠仁の言葉のあとに湧いた拍手はなかなか鳴り止まなかった。どんなに会場が大きかろうと、観客の数が多かろうと「一人ひとりに届けたい」という北川/岩沢厚治の意識が至る所に滲む音楽たちの距離の近さも、サウンド作りや演出の面での積極的な挑戦による新鮮さも味わうことができたライヴ。それは奇しくもアルバムのコンセプト「懐か新しい」の具現化そのものであった。

ゆず@横浜アリーナ
ゆず@横浜アリーナ
「まもなく新世界への旅が始まります」というアナウンスのあとにネコやキツネ、獅子舞のお面をした4人=新世界パフォーマーが登場し、アリーナ席にせり出したセンターステージにて踊り始める。13126人の来場者がラジオ体操第一で体を温めたあとに和装のトランペット吹きが現れ、彼女を先頭にして和傘や提灯を手にしながら歩いていく一行。メインステージへ辿り着くと、ステージを隠していた幕が上がり、バンドの音が会場全体にウワッと広がる。1曲目は“ユートピア”。佐々木貴之(G)/上田健司(B)/松原“マツキチ”寛(Dr)/斎藤有太(Key)/佐藤和哉(篠笛・和太鼓)/秋山璃帆(Tp・Sax)/佐藤帆乃佳ストリングス(バイオリン×2+ヴィオラ+チェロ)といった面々の「新世界バンド」が奏でるオリエンタルな響きが観客全員を異世界へ誘う。北川&岩沢を含め総勢12名のミュージシャン+4名のパフォーマーが並ぶステージ上は実に華やか。ギター+ベース+ドラム+キーボードのシンプルなセットで“アゲイン2”が持つ陽性のエネルギーを素直に鳴らせば、そこにストリングス隊が加わり“センチメンタル”に描かれる晩夏の切なさを丁寧に奏でる――といった具合に、バックバンドの形を少しずつ変化させながら楽曲それぞれの魅力を引き出していく。北川&岩沢の高純度のハーモニーがバンドの音に乗ってどこまでも遠くへ伸びていく“ひだまり”を終えると、「本公演ではやっていなかったことをやりたいと思います」とセンターステージへと移動する2人。ゆずの基本形ともいえる2人きりのアコースティックセットで始めたのは“四時五分”。1stフルアルバムに収録されているこの曲の登場に客席からは歓声が上がり、北川も「ハタチぐらいのときに書いた曲ですが、気がつけば37歳になりました」と目を細めるのだった。自分たちの歌をしっかりと響かせるだけにはとどまらず、“栄光の架橋”を観客とともに唄い、“陽はまた昇る”ではタオル回し&タオル投げを巻き起こすなど、会場を盛り上げていく。「弾き語りをやってきて17年だけど常に挑戦していきたい」と北川は語っていた。

ここで一転、昭和歌謡コーナーに突入。北川扮する北見川潤子と岩沢扮するムーチョ小岩沢の波乱の大恋愛を描いたドラマムービーが。2人の出会いから潤子の失踪までの過程や、そして10年経っても潤子を忘れられないムーチョが伊勢佐木町のキャバレーで彼女らしき人物を発見する様子が放映される。そしてステージ上にバブリーなドレスに身を包んだ潤子と七三分けがトレードマークのムーチョが登場。記憶喪失のために別の女性として生きていた潤子だったが、“Ultra Lover Soul”(歌詞は女性目線に変えられている)、“夜霧の伊勢佐木町~愛の真世界編~”をムーチョとともに演奏するうちに記憶を取り戻す。しかし“恋の歌謡日”の最中にキャバレーのオーナーがムーチョ目がけて発砲、彼を庇った潤子は瀕死の状態に。「まだ曲の途中よね。最後まで唄いきらなきゃ」(潤子)、「無理だよ、その体じゃ!」(ムーチョ)というやり取りのあと、「どうしても唄いきりたいの。だって私、女だから……!」と潤子。最後までその声を震わせる姿は最高にカッコよかった。「またどこかでお会いしましょう。あなたたちのこと忘れないわ。私のことも忘れないでね」という言葉を遺して潤子が倒れたところでスクリーンに浮かぶ「完」の文字。昭和歌謡の歌姫・北見川潤子は散り際も美しかった。

ゆず@横浜アリーナ
……という昭和歌謡コーナーを終えて、“レトロフューチャー”から通常モードに。上空にレーザーが行き交うなか、鋭い口調で掛け合いを繰り返していくサマが非常にスリリングなこの曲を経て、“表裏一体”では眩いくらいに真っ白な照明を背負いながら感情の葛藤を歌声に込めていく。この2曲においての、展開を重ねるほどにどんどん高みへ向かっていく2人の歌唱は見事だった。このドラマチックな疾走感こそゆずの新機軸ともいえるのではなかろうか。「嬉しいんだけど寂しいんだよなあ。1曲1曲、もう演れないと思うと……」とツアーファイナル特有の感情を言葉に表す北川。しかし「17年もやってると葛藤とかもあるんだけど、嬉しいことの方が多いの。卒業式でゆずの歌を唄ってくれたとか、結婚式でゆずの歌を使ってくれたとか」と笑う姿にはゆずが重ねてきた歳月の大きさを感じる。そして作ってきたたくさんの楽曲たちを惜しみなく披露する方法として“ええじゃないかメドレー”が投下される。“T.W.L”“少年”“LOVE & PEACH”などのライヴ定番曲をギュギュッと凝縮したメドレーに、観客は手拍子をしたり、リズムに合わせてジャンプしたり、お決まりの振りでダンスしたりとお祭り騒ぎ! 北川はハンドマイクであちこちへ走り回り、「ありがとう」の尻文字で会場を沸かせるなど、客席に負けないハイテンションっぷりを全身から溢れ出させ、対してスタンドマイクの前で堅実にギターを鳴らす岩沢は、ライヴ終盤に突入しても衰え知らずのハイトーンを貫きとおす。そしてラストの“ヒカレ”で高らかに鳴らされる希望――客席上空をゆったりと泳ぐクジラと、大音量の手拍子が楽曲を彩って本編終了!

ゆず@横浜アリーナ
アンコールを求めて客席から自然発生する“贈る詩”の合唱に再びステージの幕が上がり、まずは“守ってあげたい”が披露される。そして「5月後半から続いてきたツアーも最終日。日差しはまだあるけど風は涼しくなってきて秋だもんなあ。もうそういうのはいいんじゃないかなー?」と“夏色”へ。口に含んだ水を客席に向かって吹き出したり、センターステージで唄っていたかと思いきやステージを下りて観客と戯れたり、あっちへこっちへと走り回る北川、ここにきてタガが外れたかのように弾けまくる! そして「こうやって素晴らしいステージができているのはすべて……僕たちゆずの力です」なんて冗談を言ったあと、「新世界バンド」のメンバーやスタッフ、そしてファンたちに感謝を述べる北川。「このツアーにかかわったすべての人に素晴らしい新世界が訪れるように、願いを込めて最後にこの曲を届けたいと思います」と“雨のち晴レルヤ”へ。そしてバンドメンバーとパフォーマーたちがステージを去ったあと、今回のツアーの模様を映像化した『LIVE FILMS 新世界』とMV集『録歌選 新世界』の同時リリースと、来年夏・横浜スタジアムでの弾き語りライヴの開催を発表(詳しくはこちら→http://ro69.jp/news/detail/110386)。最後に「ツアー最終日にしか歌わない曲」を2人で弾き語る。岩沢のギターをバックに、このツアーで廻った箇所の日付と場所を1公演ずつ言っていく北川。深々とお辞儀をしてステージを降りた2人の音楽が多くの人に愛される理由を改めて噛みしめたくなるエンディングだった。(蜂須賀ちなみ)

■セットリスト
01.ユートピア
02.アゲイン2
03.センチメンタル
04.よろこびのうた
05.ひだまり
06.四時五分
07.栄光の架橋
08.陽はまた昇る
09.Ultra Lover Soul
10.夜霧の伊勢佐木町~愛の真世界編~
11.恋の歌謡日
12.レトロフューチャー
13.表裏一体
14.友 ~旅立ちの時~
15.ええじゃないかメドレー(T.W.L~イロトリドリ~シシカバブー~超特急~少年~LOVE & PEACH~いちご~LOVE & PEACH~T.W.L)
16.ヒカレ

(encore)
17.守ってあげたい
18.夏色
19.雨のち晴レルヤ
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