TOTALFAT@Zepp Tokyo

昨年12月にベストアルバム『THE BEST FAT COLLECTION』をリリースしたTOTALFATの「ベスコレTour 2014」。このベスト盤を引っさげたツアーはアルカラ、9mm Parabellum Bullet 、HEY-SMITHらを迎えた対バン編30本(追加公演も含む)+ワンマン編7本、そしてラストには沖縄で行われるBIGMAMAとのツーマンライヴ……と3月12日から10月12日までの長期間にわたって開催中。そのワンマン編の3本目であるZepp Tokyo公演。Jose(Vo・G)とShun(Vo・B)は高校生のときに観客として初めてZepp Tokyoに来たというが、そのステージに立つということは当時の自分たちにとって「『ここでやりてえ』とすら思うこともないくらいデカい夢だった」のだそう。結成から14年、ここに立つまでに14年かかったとShunは語っていたが、肩をガッシリと組むように強 固 に 結 ば れ た 4人 の 演 奏 に は 、重ねてきた月日があるからこその、上 昇 し 続 け る フ ロ ア の 熱 気 を 丸 ご と 受 け 止 め ら れる懐の深さを感じた。

今後もツアーは続いていくためセットリストの掲載は割愛するが(少々の曲目&演出表記はあります)、ベスト盤に収録の楽曲群に加え、シングルカップリングのレア曲なども惜しげもなく披露、2500人のオーディエンスを天井知らずの熱狂空間へと導いた2時間半だった。影アナが注意事項をアナウンスするだけで割れんばかりの歓声が湧き上がるほど興奮を抑えきれない様子だったオーディエンスたちへアグレッシヴな楽曲群を連続投下していく4人。ハンドクラップに大合唱、ジャンピングにダイブなど、全身を使いながら大盛り上がりであるフロアの熱気が2階席までムワッと上がってきた。初っ端から会場を沸騰させてみせると、「Zepp Tokyo、お前らそんなもんじゃねえだろ!?」(Jose)、「今までのツアーで一番ヤバい日にしませんか? そのためにはお前らの声が必要なんだ!」(Shun)とアツい言葉でさらに煽るヴォーカル陣。そして体温を上昇させるオーディエンス、それでもまだまだ続くアジテーション……という具合に、バンド&オーディエンスがお互いのテンションを幾度も飛び越えながら、共に上昇を繰り返していく。本編からアンコールまで終始続いていくそんなコミュニケーション。フェスの場などで他出演者に「TOTALFATのお客さんはいい顔でライヴを観てるよね」と言われることが多く、ファンたちのことを誇りに思っているとJoseが語る場面もあったが、バンドがオーディエンスを、オーディエンスがバンドを信頼しているからこそ、このライヴハウスという場所では心を裸にして大騒ぎすることができるのであろう。ライヴ終盤での「最大限の感謝の気持ちを込めて言わせてください……お前ら全員かかってこいや!!」というJoseの叫びも、曲間で音が止むたびにフロアのあちこちから飛ぶ「休んでんじゃねえぞ!」「かかってこいやー!」というメンバーへの言葉も、もはやお互いへの愛の言葉である。そういう意味でひとつめのハイライトとなったのは、最新シングルのタイトル曲“夏のトカゲ”だ。なまはげ太鼓の2人をゲストに迎え入れたこの曲では、2つの和太鼓の音が加わることによってバンドの響きが格段に分厚くなり、いつになく荘厳な仕上がり。恒例のタオルスクリューもフロア後方までしっかりと巻き起こし、視覚的にも鮮やかな景色を生みだしたのだった。

この日はワンマンライヴならではの試みとしてアコースティック編成を披露。TOTALFATにはBPMの高い楽曲が多く、この日もアッパーチューンを中心としたセットリストだったが、どの曲にも共通して言えるのがメロディがドラマチックであるということだろう。必要最小限の音のみが鳴るアコースティックという場ではメロディの持つ美しさがより分かりやすく表れる。普段よりも柔らかい表情を浮かべながら楽曲を丁寧に奏でていく4人。特にKuboty(G・Cho)がアコースティックギターを、Bunta(Dr・Cho)がカホンとシェイカーを演奏して4人編成で届けられた“Always”は「今までで一番恥ずかしい歌詞の曲」とShunが言うほどのド直球ラブソングだが、その甘酸っぱさが何に隠れることもなく剥き出しの状態で表現される様子は新鮮だった。そしてもうひとつワンマンならではの試みとしてBuntaによるドラムソロ、続けてKubotyによるギターソロが披露される。Buntaは同期音に合わせて「Bunta!」&「TOTALFAT!」コールも勃発させるハイテンションなプレイを見せ、KubotyはShun曰く「30年前ぐらいのサウンドがリバイバルしたような」渋い旋律をうならせる。テクニカルな一面を見せて拍手喝采を巻き起こした2人だった。

終盤に差し掛かっても右肩上がりにヴォルテージを上昇させていくバンドのサウンド。Shunは声が枯れてしまうのでは?と若干心配になるほど何度もフロアへ言葉を投げかけるし、疲れ知らずの真っ直ぐな歌を放つJoseはオーディエンスの表情を一つひとつ確かめるかのようにとてもよく会場を見ている。Buntaは時には手に掴んだスティックが吹っ飛ぶほど大きく振りかぶって楽器を叩くし、お立ち台に何度も上がっては高速のタッピングをキメるKubotyは紛れもなくギターヒーローだ。「生きていくために必要なことはライヴハウスの外にあります。音楽を知らないやつは『音楽がなくたって』と言うでしょう。でもあえてここで言わせてもらいます。音楽は心の渇きを潤せる! 音楽は心の隙間を埋めることができる! そういう人が集まってるんだろ? 進めなかったら半歩下がれ。辛くなったらライヴハウスに来い!」――そんなShunの言葉の前後に鳴らされたのは“Good Bye, Good Luck”と“Good Fight & Promise You”。《You say good bye/旅立ちのとき》(“Good Bye, Good Luck”)と《I won't leave you, I won't say goodbye》(“Good Fight & Promise You”)は一見相反する歌詞。しかしそれらが連なれば「ライヴが終わったらライヴハウスの外へ出なければいけない」けど「明日からも音楽とともに頑張っていこう」というメッセージに聞こえて、人と人とがゴッチャゴチャに混ざり合ったフロアの景色も、大合唱される「good bye」という単語もとても感動的だった。

「続けていれば夢は叶う――それを証明するために俺たちは音楽を止めません! 俺たちの音楽はお前たちの音楽なんだよ!!」(Shun)。

ここに確かに存在するバンド対オーディエンスの信頼関係。「音楽」という場所で再会することをお互いが約束するための演奏、歌声、熱気、景色。これこそがTOTALFATが14年かけて丁寧に育てていった宝物なのだろう――そう思えた夜だった。そんな素晴らしき景色を以後も更新し続けるであろうこのツアーは、福岡、広島、名古屋、大阪、そして沖縄へと続く!(蜂須賀ちなみ)
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