スガ シカオ@Zepp Tokyo

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今年5月発売のシングル『アストライド/LIFE』で、インディーズからメジャーレーベルへ完全復帰したスガ シカオが、自ら「祝メジャーデビュー、皆様にご挨拶FUNKをぶっ放す」と銘打って、広島、大阪、東京をまわったクラブツアー「Suga Shikao FUNK FIRE 2014」。この日は、そのツアーファイナル、Zepp Tokyoである。「FUNK FIRE」というのは「オールスタンディング、FUNK&ROCK。バラード・ポップス一切なし」をコンセプトに、スガが7年前から行っているライブシリーズのこと。バンド編成のアグレッシブなパフォーマンスで、毎回、熱狂の渦に包まれる名物企画だが、前回の「FUNK FIRE」が2012年6月だったので、ちょうど2年ぶりの開催となった。2011年にメジャーを離れインディーズになって以降、最先端のトンがったサウンドを追求してきたスガであってみれば、メジャー復帰を祝う今回の「FUNK FIRE」は、インディーズでの音楽的挑戦の1つの節目、または集大成ともいえるもの。「今日のオレたちには、グダグダしゃべっている時間はないぜ。グルーヴの渦に巻き込まれて、最高に幸せな夜にしよう」――冒頭のMCでスガが放った言葉通り、音楽とグルーヴの力が会場を1つにして、最後には、そこにいる人たち全員を笑顔にした、最高に楽しくて心まで踊るようなライブとなった。

スガ シカオ@Zepp Tokyo
会場にクラブテイストの“赤い実”リミックスバージョンがSEで流れるなか、その音をかき消さんばかりの歓声に迎えられ、登場したスガとバンドメンバーたち。バンドがそのまま“赤い実”を生の演奏で引き取り、この日のライブが始まった。メンバーは坂本竜太(B)、田中義人(G)、林田“pochi”裕一(Key)、岸田容男(Dr)の4人。「FUNK FIRE」シリーズではもうお馴染みの顔ぶれだ。ファンクロック・ナンバーの“赤い実”が、ジミヘンかプリンスかと思えるほど、田中のいっそうヘヴィなギターソロとともに豪快に演奏されると「なるほど、今日のライブはこういう感じかぁ」と、妙に納得させられてしまう。「FUNK FIRE」のコンセプト通り、掛け値なしに突き抜けたFUNK&ROCKを1曲目からぶちかます。「何も考えず、今日はただ楽しんでくれればいい」そんなスガのメッセージを直球で受け取った感覚で、オープニングの緊張感がぱっと消えてなくなった。続く“見る前に跳べ.com”では歌詞の「.com」のところで、早くも場内は大合唱に包まれ、“ストーリー”“FESTIVAL”では、ベース&ドラムのぶっといファンクビートが強調されたアレンジで、オールスタンディングの人の波が大きく左右に揺れる。そして“LIFE”“コノユビトマレ”の、哀愁を含みつつ、未来へ踏み出そうとする、すがすがしく透明感あふれたメロディ。ステディな8ビートに客席のハンドクラップが重なり、会場は一気に明るいムードへ。矢継ぎ早に披露された6曲は、インディーズ以降の、いまのスガの音楽を鮮烈にスケッチしながら、「とにかく気持ちいい」としか表現できない、聴く側の肉体を圧倒的に刺激するサウンドを放射して、会場全体をスガの音楽の奥へ奥へと巻き込み、連れ去っていくようだった。

スガ シカオ@Zepp Tokyo
そのままライブ中盤。「FUNK FIRE」の名物となっている“GO GOメドレー”のコーナーに、ついに突入だ。スガは急にカタコトの日本語というか、ラッパー口調で、こう説明を始める。「よい子のみなさ~ん、ワシントン ゴーゴーファンクは、もう知ってるよね。いま流れている(ドラムの岸田が叩いている)ゆる~いリズムに乗って、DJのようにどんどん曲をつないでいきまぁーす。1曲のように聴こえるけど、いろんな曲をパクって、いやリスペクトして、30分、30曲オーバー。譜面の長さは6メートル。オレら、全部、あたまんなかに入ってるぜ。GO GOのリズムは、まるで人生のように、どんどん続いていくのでーす!」ワシントン ゴーゴーファンクの創始者、チャック・ブラウンの“Go Go Swing”でスタートしたメドレー。同じリズムのまま“サヨナラホームラン”へつながれていき、本来のメランコリックな曲調と陽気なリズムの組み合わせは、天気雨というか泣き笑いというか、独特の味わいが楽しい。そのあと再びチャック・ブラウンの“Woody Woodpecker”のリフやスライ&ザ・ファミリー・ストーンの“I Want to Take You Higher”、ジャズスタンダードの“Harlem Nocturne”など有名曲を、ギラギラのファンクロックにアレンジ・翻案して挿入。一方、“たとえば朝のバス停で”や“愛について”の自らの曲では、ジャジーでリラックスした空気感もある。ドラムの岸田がグルーヴの熱量を上げ下げしてコントロールし、次に何が起こるのかというスリルをつねに忍ばせ、決して飽きさせない。だがやはり、このコーナーで一番盛り上がったのは、スガが謎のフリーラッパーになって「このバンドメンバーのなかに絶倫がいます」と、ツアー中のホテルでの、ある夜の出来事をラップでバラした“叩けばホコリばっかし”だった。ビースティ・ボーイズ風のラップメタルで「そいつの名前は、オレからはいえねえ、そいつの名前は、漢字で四文字、どいつもこいつも、叩けばホコリばっかし」と何度もシャウトすると、フロアはもう腰も顔面の筋肉も崩壊して、爆笑と歓声の渦。ニヤニヤしながらリズムにあわせ、ヘッドバンギングやハンドウェーブがフロア中で波打っている。それにしても、スガのこのパワフルな吹っ切れ具合いは、彼の明確な意志を感じさせるほど。さまざまな経験を経て、何でもアリのポジティブさを獲得していく姿勢こそ、真のファンク道ということなのか。

スガ シカオ@Zepp Tokyo
しかし、観客を楽しませる仕掛けは、これだけで終わらなかった。後半は“はじまりの日”と“ドキュメント2010~Singer VS. Rapper~ ”の2曲で、オリジナルでもフィーチャリングされているRHYMESTERのMummy-Dがサプライズゲストで登場。「これぞDさん!」という見事なライミングをキメて大喝采を浴びた。「すんごいね、お客さんの今日のノリ。ものすごい圧を感じるよ」といいつつ、Dさんも「オレも本名、漢字四文字」と明かしてニッコリ。そのあとスガが「じゃあ次の曲を、漢字四文字の男に捧げます」といって始めた“したくてたまらない”では「みんなもしたくてたまらないだろう? もっともっと声を聞かせてくれよ。ファンクの匂いがプンプンするぜ」と、アゲアゲのアジテーターぶりを発揮して煽りまくり。オーディエンスも「Hey! Hey!」と耳をつんざくかけ声で呼応する。“91時91分”ではJB風のタイトなグルーヴにハイトーンのシャウトが天高くまで上昇し、限界しらずのまま、今日はいったいどこまで盛り上がってしまうんだろうと思った。すると今度は、最新シングル“アストライド”のシンプルなビートが絶妙な緩急のコントラストで鳴り始め、優しいメロディがふっと心の琴線に触れていく。“アイタイ”“Reyou”で再びファンクロックをかき鳴らすと、ハウスミュージックにアレンジされた“奇跡”で、本編はいったん終了となる。

スガ シカオ@Zepp Tokyo
アンコールでステージに戻ってくれたスガたちメンバーは、“情熱と人生の間”を演奏したあと、再びMummy-Dを呼び込んで「FUNK FIRE」のテーマソングともいうべき“俺たちファンクファイヤー”で大盛り上がり。オリジナルにはないMummy-Dのラップに加え、ファンクバンドがよくやる定番の連続キメ打ちを、Dさんの思いつきの数字=40回でチャレンジ。お客さんもいっしょに手拍子で参加したが、最後はお約束のグダグダな状態となり、スガの「まあまあかな~」の声に、みんなで爆笑。「漢字四文字って、結局、誰なんだよ」とスガ自身がMummy-Dに聞くと、Dさんが「菅止戈男(すがしかお/本名)なんじゃない?」と答えるオチまで用意されていた。つまりこの日、ステージに立った全員が、漢字四文字の男なのだ。「最終日だから」と2度目のアンコールにも応じてくれたバンドは、スガが作詞しKAT-TUNに提供した“Real Face”を、ラウドロックのアレンジで演奏。最後にスガが「最高のファイナルでした。これからはメジャーで図太く、しぶとく、ムラムラとやっていくよ」と宣言して大団円となる。スガ シカオの音楽、特に歌詞には、自己の暗部をキリキリえぐり出していく孤独さとネガティビティ、知的な毒が内包されている。だがだからこそ、ファンクグルーヴの肉体性とエロス、生を肯定するエネルギーや、バンドメンバーや観客たちとの有機的な一体感、笑顔や歓声が、彼の音楽には、車の両輪のように必要なのだ、と思えた夜だった。(岸田智)


セットリスト

01.赤い実
02.見る前に跳べ.com
03.ストーリー
04.FESTIVAL
05.LIFE
06.コノユビトマレ
07.GO GO メドレー
08.あまい果実
09.はじまりの日 feat. Mummy-D
10.ドキュメント2010~Singer VS. Rapper~
11.したくてたまらない
12.91時91分
13.アストライド
14.アイタイ
15.Reyou
16.奇跡

(encore1)
17.情熱と人生の間
18.俺たちファンクファイヤー

(encore2)
19.Real Face
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