家入レオ@NHKホール

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 大嫌いだった大人への階段を、果敢に上りはじめた家入レオの剥き身の覚悟がダイレクトに示されたステージだった。セカンド・アルバム『a boy』を引っ提げて全国14か所を回った、彼女にとって3度目となるワンマン・ツアーのファイナル公演。階段状に組み上げられたステージ・セットの最上階に家入レオが登場、割れんばかりの拍手喝采が沸き起こったオープニングから、会場となったNHKホールには、歌い手としての確固たる使命感を抱いた家入レオと、それを受け止める観客のエネルギーが激しく渦巻いていた。

 オープニング・チューンは“カーニバル”。浮き立つリズムと会場一丸の手拍子に乗って、家入レオの凛とした歌声が伸びていく。Tシャツ&ジーンズというラフな格好で、階段を少しずつ降りながらキュートに歌い踊る家入レオ。その姿は弱冠19歳らしい無邪気なものだ。しかし流麗なピアノの旋律から“太陽の女神”に流れると、天高く突き抜けるエネルギッシュなヴォーカルが炸裂。巨大なミラーボールが黄金とブルーの閃光を交互に放つ中、光り輝く大海原のような雄大かつ包容力あふれる情景を鮮やかに生み出してしまった。続く“イジワルな神様”では、高々とジャンプし足を踏み鳴らしながらエモーショナルな歌声を届けていく家入レオ。ほとばしる闘志のままに曲終わりで拳を突き上げると、客席から万雷の拍手が送られる。

 「泣いても笑っても今日がファイナル。皆さんと音楽でひとつになって気持ちのキャッチボールができたらなと思います」という挨拶に続いて、スロー・バラード“Time after Time”へ。何かを掴みとるだけでなく与えることの尊さを綴ったこの歌は、家入レオの新境地だ。さらにソウルフルな歌声が響きわたった“君に届け”、《Hello Hello 離れてても そばにいるよ》の温かなシンガロングに包まれた“Hello”、パワフルな旋律にひときわ大きなハンドクラップが送られた“Shine”と、ピュアな心情をまっすぐな歌と言葉で届けながら、会場の一体感を高めていく家入レオ。大きく腕を振り回したり、人差し指を高々と突き上げたりとアグレッシヴなパフォーマンスは随所で見られるものの、観客に寄り添いながら場内のテンションをじわじわと上げていくその姿勢は、思いの丈をガムシャラにぶつけていたデビュー当時の彼女のパフォーマンスとは、明らかに違うように見える。

 そして、幼少期のほろ苦い記憶を語ったMCを経て、椅子に腰かけて歌った“チョコレート”からの中盤が素晴らしかった。喪失感に満ちた楽曲世界に感極まったのか、途中で声を詰まらせる家入レオに「レオちゃん、がんばれ!」の声援が飛んだ“キミだけ”。床に座り込んだり、頭を抱え込んだりしながら、深い闇の中に渦巻く情念を鬼気迫る歌声で狂い咲かせた“Too Many”。ハードエッジなサウンドに乗せて、拡声器を通してグラマラスな歌声を轟かせた“Free”。そして“Who’s that”で熱く燃え上がると、残酷な愛の形を憂えた魂の叫びが炸裂する“Bless You”で壮絶なクライマックスへ――。感情を抑え切れずにあどけない素を覗かせてしまう無防備さ、何かにとり憑かれたように貫禄のパフォーマンスを演じ切ってしまう頼もしさ、その両極に振り切れながら感情をヴィヴィッドに描き出していくその姿には、表現者として今まさに急激な成長と変化を遂げている彼女のリアルが浮き彫りになっていた。音楽を志した当初から抱き続けるピュアでシリアスな感情と、デビュー後に手にした「皆ともっとひとつになりたい」という開かれた想い。それがガチンコでせめぎ合い、生々しくもエンタテインメント性溢れるショウに昇華されたステージは、もう迫力十分。その後、一転して柔らかな三拍子の旋律で会場を癒した“Lay it down”まで含めて、表現者としての類まれなる才能を開花させはじめた家入レオの「今」に驚かされる圧巻のパートだったと思う。
家入レオ@NHKホール
 そんな自らに訪れた変化を、「ファースト・ツアーの時は、まだツアーを経験したことがなかったから、自分のために歌っていました。でも最初のツアーを終えた時に、自分のためだけじゃなくて、もっと会場の皆さんとひとつになりたいなと思って。だからセカンド・アルバム『a boy』はライヴを意識した曲が増えました。それだけライヴで得られるパワーっていうのは、私にとって、とてつもないものなんです」と語る家入レオ。そして今日のライヴのために今朝ドラッグストアで買ったという最強クール感の目薬を差して気合いを注入すると、ファンク・モード全開の“Fake Love”から終盤戦に突入! そのままノンストップで雪崩れ込んだ“Kiss Me”で青いサイリウムが揺れる客席のハンドウェーブを導くと、ドスの効いた低音の歌い出しから会場中のタオルが振り回される“Linda”へ。さらに“Papa & Mama”ではステージ・セットを駆け上がり、上手から下手まで休みなく走り回りながら、溌剌とした歌声を解き放っていく家入レオ。あれだけ激しく動き回りながら、ハリのある歌声に1ミリのブレも感じさせないところが素晴らしい。そして“サブリナ”で絶頂に到達したところで、一枚のフラッグがステージに持ち込まれる。実はこのフラッグは開場時に「皆の夢を書き込んでください」とロビーに飾られていたもので、この日の来場者の書き込みでビッシリ。最後はそれを肩にかけながら歌い踊った“希望の地球”で観客ひとりひとりの夢にエールを送り、ポジティヴなムード弾ける晴れやかなフィナーレを迎えた。

 割れんばかりの「レオ!」コールに迎えられたアンコールでは、“ミスター”“Message”の連打でシンガロングとハンドクラップが巻き起こる巨大な一体感を再び生み出した家入レオ。さらにダブル・アンコールで再びステージに現れると、「今まで私が大人に持っていた感情は、寂しさとか葛藤とかで、そういう思いを音楽にぶつけてきました。でも寂しい辛いってだけ歌っていても、誰かが聴いてくれるわけじゃなくて。皆さんがいるからこそ私は歌うことができているし、皆さんに出会えたからこそ大人になろうって初めて思えました。これからも自分らしくまっすぐに音楽を届けていきたいと思います」という最後の挨拶から“a boy”へ。傷つきながらも逞しく成長していく意志を伸びやかに歌い上げて大団円……と思いきや、バンドメンバーが去った後もステージに留まり続ける家入レオ。「まだまだ伝えたいことがあります!」と、セットリストに予定のなかった“Say Goodbye”をたった一人で弾き語り、深々とお辞儀をしてステージを去った。今年12月には二十歳を迎え、本当の意味で大人の階段を上りはじめる家入レオ。音楽へのピュアな想いと、表現者としての使命感を胸に、今後どんなキャリアを積み上げていくのか。その進化の過程を、これからも楽しみに見守っていきたい。(齋藤美穂)


セットリスト
1.カーニバル
2.太陽の女神
3.イジワルな神様
4.Time after Time
5.君に届け
6.Hello
7.Shine
8.チョコレート
9.キミだけ
10.Too many
11.Free
12.Who's that
13.Bless You
14.Lay it down
15.Fake Love
16.Kiss Me
17.Linda
18.Papa & Mama
19.サブリナ
20.希望の地球

アンコール1
21.ミスター
22.Message

アンコール2
23.a boy
24.Say Goodbye
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