クリープハイプ 日本武道館2days

クリープハイプ 日本武道館2days
「タクシー乗ってても未だに料金メーターを気にしちゃうし、TSUTAYAで新作が借りられないし、武道館に立つ日だっていうのにエキストラのバイトのメールが来たし……。どうしてもそういうのがずっと抜けなくて。染みついてて。どうしてもそういうことばかり思い出すんですよ」

クリープハイプ、キャリア初の日本武道館2days公演――1日目のMCで尾崎世界観(Vo/Gt)がそんな話をしていたが、つまりはそういうことだったのだと思う。結成から13年、紆余曲折を経て現在のメンバーになってからは約5年ともなれば、バンドにとっては晴れ舞台だっただろう。それに初めての武道館には魔物が棲んでいるとよく言われている。だけど感極まるわけでもなく、ビビるわけでもなく、当たり前にクリープハイプのライヴだった……というのが1日目を終えた時点での感想だが、2日目ラストの“寝癖”を鳴らしきったあとの4人の姿はやっぱりいつもより大きく見えたし、清々しい表情をしているようにも見えた。好き/嫌いの間とそれに伴う様々なややこしい感情を呆れるほどに行き来し、時にはのたうち回る。全部無視してやり過ごせば楽なのにどうしてもそれができない音楽と、それを自らの身で以て肯定していくことの素晴らしさが確かにあった2日間だった。4月30日発売のROCKIN’ON JAPANでは密着レポート&インタビューが掲載されるのでそちらもぜひチェックしていただきたいところだが、本レポートではライヴの模様をいち早くお届けしようと思う。2日分まとめてなので長くなりますが、どうぞお付き合いよろしくお願いいたします。ということで、まずは初日の『平日の武道館 バイト編~ねぇ、シフト代わってくれない?~』から!

BGMがブツリと切れ、暗転のなかSEなしでメンバーが登場。ステージ後方に下がるスクリーンにコンビニの店員が仕事をサボってクリープハイプのUstreamライヴ(註:2月21日に行われた生中継でのスタジオライヴ。ベストアルバムの曲順通りに演奏された)を見ている映像が映し出される。移籍を発表し、始まった1曲目に対して「何でそれなんだよ。お前らは何で始まったと思ってるんだよ」と漏らしたところで映像が終わり、それを受けての「クリープハイプはこの曲で始まったと思ってます」という尾崎の言葉を合図に “左耳”が鳴らされる。そのまま小泉拓(Dr)のリズムが“SHE IS FINE”へ、さらに定番のクラップが起きた“蜂蜜と風呂場”へ続く。そして、空間を泳ぐような長谷川カオナシ(Ba)の低音、彩りを与えてくれる小川幸慈(Gt)の旋律、そして尾崎のハイトーンボイスによる《キライ》の繰り返しが鮮烈な “あの嫌いのうた”までノンストップだ。オーディエンス一人ひとりとの距離を徐々に縮めていくかのようにライヴが展開されていく。

客席からのメンバーを呼ぶ声に「好きなように楽しんでくださいね~」などと返しつつ、「年寄りだからもう呼びかけても反応しなくなってきてるけど、世界で一番かわいい犬の歌です」と“マルコ”を披露。 “ラブホテル”で《一回位 減るもんでもないし》のあとにかなり長いタメの演出をしたり、「ライヴでやったことない曲だからすごく練習しました」と言っていた“グルグル”では尾崎がアコースティックギターに持ち替えたり、ギターのアルペジオによって紡がれる不穏な和音と長谷川が奏でる妖しいフレーズが“グレーマンのせいにする”を導いたり。様々な色の曲が演奏されるが、武道館だからといって無理にスケールを拡張させない、いつものあの感じ。それがどの曲でも変わらないから4人の音が近く感じるのだ。特に「今日来ている友達のバンドの分も頑張れたらとちょっとは思っています」という尾崎の言葉のあとの “傷つける”の繊細さと温かさがそれをよく体現していた。イントロをミスして客席から応援されていたのも、ご愛嬌ということで(笑)。

ライヴによく遊びに来ていた尾崎の祖母が先日亡くなったという話に触れ、「いなくなればいいのにっていう人は増えるのに、いてほしい人がいなくなっちゃうのは何でだろうって最近すごく考えるんです。でもここに、いてほしい人がこんなにいてくれることに救われてます。いなくならないでくださいね」という言葉に続けて“風にふかれて”“ごめんなさい”が演奏され、長谷川の「人が仲良くなるのに必要なのは怪獣や宇宙人を焼き尽くすための火まつりだと思う」という言葉に誘われた“火まつり”ではステージ上に12個の炎が灯され怪しく揺れる。ここで事前に公開されていたこの2日間の予告編映像の続きともいえる映像が流れる。コンビニバイト少年がスーツ姿の客(どうやら兄のようだ)と先述のUstreamについて「クリープハイプだって大人なんだから色々あんだよ」「そんなのロックじゃねえよ」などと言い合いながら缶ビールをレジに通したところで“バイト バイト バイト”へ。長谷川のソロから始まる“HE IS MINE”で「武道館はいろいろ厳しくて言っちゃいけない言葉があるから……分かってるだろうな?」との尾崎の不敵な言葉に対して、オーディエンスが「セックスしよう!」と大音量で応えると、さらにそれに応じるかのようにバンド側も“身も蓋もない水槽”“ウワノソラ”“社会の窓”と攻撃的なナンバーを連発! ここまでくると小泉の連打は壁に風穴を開けてしまうんじゃないかと思えてくるし、小川の音が緊急事態を知らせるサイレンのように聴こえてくる。そのくらいのけたたましさだ。各々の楽器の音で光を乱反射させるような眩い世界を創り出した“憂、燦々”のあと、コンビニバイト少年が仕事中にメロディを思いついて、こっそり裏でギターを弾きながら唄う映像がスクリーンに。しかしよく考えると聴いたことがあるその曲は……「あ、これ“オレンジ”だ」ということで、“オレンジ”を会場いっぱいに鳴らして本編終了。

アンコールでは「(冒頭のVTRで)『何でその曲なんだよ』って言われたけど、それをやってもいいですか?」と“イノチミジカシコイセヨオトメ”“手と手”を披露。鳴りやまないクラップに呼び出されて再々登場し、7月16日に開催される自主企画イベント『ストリップ歌小屋』(詳細はこちら→ http://ro69.jp/news/detail/100510)の告知を済ませると、「新曲ができました。“社会の窓”みたいな曲だと思ってんだろ? そういうのはやめたんだ。スマートに戦おうと思って。もう絶対に移籍はしません」と5月7日にリリースされるシングルの表題曲である“寝癖”を奏でる。そして「お客さんが5人のときから、社長がずっと『武道館でこの曲ができるから』って言ってて。何言ってんだろうな~と思ってたけど、できました。上手く言えないけどバンドやっててよかったなと今思ってます」と話し、尾崎がフーッと一息吐いてから始めた “ねがいり”がダブルアンコールのラストを飾ったのだった。この日の1曲目だった“左耳”然り、インディーズ時に初めて出した音源に収録されている“ねがいり”然り、最新曲の“寝癖”然り、クリープハイプが鳴らしていることは変わらない。“寝癖”のフレーズを借りるとすれば、《気持ちは嫌になるくらい真っ直ぐ》なのだ。不器用で零れたり溢れたりしてしまう感情たちが、しっかり音楽の物語としてきらめき、この舞台で響いたことに思いを馳せずにはいられなかった。

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クリープハイプ 日本武道館2days
翌日、『連日の武道館 正社員編~有給休暇の使い道、これが私の生きる道~』。前日にも使用された、コンビニバイトの弟にメロディが降りてくるシーンの映像がオープニングを飾る。異なる点は、この日は「正社員編」ということもあって兄目線でストーリーが展開されていること。コンビニを出た兄が「あれ“オレンジ”じゃねえかよ」と呟いたところで映像が終わり、尾崎があのコードを一発鳴らす。「大変お騒がせしております。今話題のクリープハイプです」と挨拶したあと、“オレンジ”へ。鬱屈としたエネルギーがキャッチーなメロディと開けたサウンドに乗って飛び立っていき、それを受けて上の階のオーディエンスまで腕を上げて盛り上がる。小川/長谷川/小泉によるガッチリ肩を組むような固いサウンドが尾崎の絶唱を上へ上へと押しあげて上昇気流を生み出した“おやすみ泣き声、さよなら歌姫”、 抒情的に響いた“NE-TAXI”のアウトロの余韻もそのままに、原案:尾崎、監督・脚本:松井大悟の映画『自分の事ばかりで情けなくなるよ』の劇中歌 “言わなくても伝わると思ってたよ”へ。 序盤から感情の針があっちこっちへ振りきれるような演奏が放たれたところで、さらにトドメが。「みなさんに聴いてほしいとっておきのラブソングがあります」と新曲に突入したのだが、これがまあ、“社会の窓”に通じるような毒づきソングで、スクリーンに映る強烈な歌詞に当然会場も大盛り上がり。要は移籍にまつわる一連の出来事について文字通りそのまま唄っている曲。嘲笑も自虐も毒もあるが、《唄いたい歌を唄わせてよ》《ちゃんと届くのならそれが僕の幸せ》といった歌詞がどうしても印象に残るため、願いの歌のようにも聞こえる曲だった。攻撃力もそのままに、触れたものみな傷つける的な鋭さと危うさで以てブレーキが壊れたかのように爆走。そのあとの“HE IS MINE”では紫の照明とアダルトな雰囲気がよく映えていた。

 続いて、長谷川と尾崎が交互にヴォーカルをとる“グレーマンのせいにする”、アコースティックギターの音が効いた“傷つける”をしっとり響かせる。ここで冒頭に流れた映像の続きがスクリーンに映される。外を歩いている兄が女性に電話をして家に泊めてもらうためのお願いをしているシーン。それに対して女性が「今日はいいけどさ、明日はどうするの?」と言ったところで、“明日はどっちだ”が柔らかく紡がれる。「あと78曲ですが(笑)、それでは行きますか?」とここから後半戦に向けて再びエンジンをかけ、“イノチミジカシコイセヨオトメ”、ステージ後方からスモークが噴出された“手と手”、長谷川と小泉によるプチセッションを経て、《九段下の大学生》と歌詞を変えた“週刊誌”とアッパーチューンを連発。「リハーサルが終わったときに柔軟体操をしていた小川の背中を馬跳びの要領で飛び越えようとしたら失敗して、下手したらケガして今日の公演が中止になるところだった」という尾崎の珍エピソードを「いろんなものを飛び越えて今日ここに立っています」と綺麗に収めたところで、“ラブホテル”へ。前日同様大サビの前でタメがあるのだが、そこで「緊張しているからステージに登場するまでは4人して胸に右手を当てるW杯日本代表さながらの佇まいだった」ということを話したり、長谷川を「怒ってる?」といじるわりには喋らせなかったり、客席から飛ぶたくさんの声にいちいち反応したりともはやこれはちょっとしたMCだ。長谷川がリード・ヴォーカルをとる“かえるの唄”、背景の青い照明とそこに入る何本もの白い光が美しかった“憂、燦々”、クラップも起こってアットホームは雰囲気の“さっきはごめんね、ありがとう”と立て続けに演奏したところで「次が最後の曲です」と尾崎。その声に対して「えー!」「もう1回最初から!」などの声が飛ぶが、「不安なこともすごく多くて、でもこんなデカいところでライヴして、みんなの顔を見られて安心しました。だから『えー!』とかじゃなくて、嬉しそうな顔を見せてください」と“社会の窓”を発射。《窮屈すぎて》→「最高です!」のコール&レスポンスが決まると同時にパーンと音をたてて銀色の紙ふぶきが舞うなか、腕を上げて飛び跳ねるオーディエンスを見る4人はどこかスッキリした表情をしていた。

クリープハイプ 日本武道館2days
「すごく楽しくて、やめたくないなと思います。一生懸命1曲ずつ唄っていくので聴いてください」という尾崎の言葉から始まったアンコールでは“さっきの話”“女の子”を、そしてダブルアンコールでは“ねがいり”“寝癖”を披露。喋っただけでかわいいと言われるための長谷川流のテクニック、汗でズボンの前のほうが濡れてしまっておもらしみたいになってしまったという小泉の話、なかなか怒らない小川だが本当に怒ったとき=「さすがに気分が悪いよ」と言ったときだというエピソードなど、とりとめのない話がポンポン出てくるほどリラックスした空気のなか、尾崎がこうも言っていた。「思ったよりもライヴを楽しめててよかったです。これで終わったらどうしようと思ってたんですけど、よかったです。またYahoo!ニュースのトップになったりするかもしれないけど、よろしくお願いします」。武道館いっぱいに満ちた拍手の音量は、2日間の成功を物語るには十分な大きさだった。そういえば最後の最後にはマイクを通さずに「東京ドームでやります」と宣言していた。みみっちいけど実はデカくて、ひねくれているから真っ直ぐなクリープハイプの音楽が、もっと大きな会場で結実することに胸を熱くする将来を楽しみにしたい。しかしその前に、5月5日のJAPAN JAM、さらに8月からの全国ホールツアー(詳細はこちら→ http://ro69.jp/news/detail/100529)もお楽しみに!(蜂須賀ちなみ)


セットリスト
『平日の武道館 バイト編~ねぇ、シフト代わってくれない?~』(4/16)
01. 左耳
02. SHE IS FINE
03. 蜂蜜と風呂場
04. あの嫌いのうた
05. マルコ
06. チロルとポルノ
07. ラブホテル
08. グルグル
09. グレーマンのせいにする
10. 傷つける
11. 風にふかれて
12. ごめんなさい
13. 火まつり
14. バイト バイト バイト
15.HE IS MINE
16. 身も蓋もない水槽
17. ウワノソラ
18. 社会の窓
19. 憂、燦々
20. オレンジ
アンコール1
21. イノチミジカシコイセヨオトメ
22. 手と手
アンコール2
23. 寝癖(新曲)
24. ねがいり

『連日の武道館 正社員編~有給休暇の使い道、これが私の生きる道~』 (4/17)
01. オレンジ
02. おやすみ泣き声、さよなら歌姫
03. NE-TAXI
04. 言わなくても伝わると思ってたよ
05. 新曲
06. あ
07. ウワノソラ
08. HE IS MINE
09. グレーマンのせいにする
10. 傷つける
11. 明日はどっちだ
12. イノチミジカシコイセヨオトメ
13. 手と手
14. 愛の標識
15. 週刊誌
16. ラブホテル
17. かえるの唄
18. 憂、燦々
19. さっきはごめんね、ありがとう
20. 社会の窓
アンコール1
21. さっきの話
22. 女の子
アンコール2
23. ねがいり
24. 寝癖(新曲)
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