星野源@NHKホール

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病気を乗り越えて完全復活した姿を、全国で披露したツアー『星野源の復活アアアアア!』。そのファイナルとなる『星野源の復活アアアア了!』(芸が細かい!)が、東京・NHKホールで行われた。本当は昨年の夏に武道館公演が、その前にNHKホール公演が予定されていた。療養のために1年越しとなったライヴは、待った甲斐がある、見応えと聴き応えと笑い応えの一大スペクタクルであった。

星野源@NHKホール
「源ちゃーん!」コールが飛び交う中、登場するなり思いきりピースを掲げて見せ、“化物”がスタート。さらに“ギャグ”、“湯気”、“ステップ”と畳み掛けていく。武道館からライヴを重ねてきたからか、こちらの心境もリラックスしているからか、彼がステージに立っていることが、彼の歌が、とてもナチュラルに映る。オーディエンスも、体を揺らしたり手を叩くだけではなく、隙あらば彼に話し掛けようとするアットホームな雰囲気だ。
ここでメンバー紹介。野村卓史(Key)、伊賀航(B)、さらに「こう見ても二級建築士」と紹介されていた、伊藤大地(Dr)、長岡亮介(G)、石橋英子(Key)……錚々たる面々である。星野も、演奏のグルーヴや会場の空気に後押しされたのか「今日は話さないつもりでいた」と言いながら、楽しそうに饒舌をふるう。真っ赤に染まった夕陽のような照明をバッグに歌い上げた“くせのうた”、歌声とコーラスがNHKホールの高い天井まで広がった“生まれ変わり”と続くと、ステージから全員が捌け、するするとスクリーンが下りてきた。そして、♪チャララララララーン、と聞き覚えのあるメロディと、「千葉県千葉市……」と聞き覚えのあるナレーション。これ、某ビフォーアフターのパクリじゃないか!(笑)。さらに、古びた犬小屋に悩む髭の星野おじいさんの前に現れたのは、匠こと伊賀航。さっきのメンバー紹介は布石だったわけね!(笑)。作業の様子もばっちり映し出し、後編まで引っ張る力作。後のMCによると「病院でずーっと考えていた」アイディアだったそう。また、会場がざわざわしたまま名曲“くだらないの中に”へ突入し、空気をがらりと変えてしまったところもお見事だった。

中盤からは星野が一人きりでステージに立つ、弾き語りコーナー。ここは、剥き出しの声に触れられると同時に、一曲ごとの曲紹介も魅力。「忙しかった時に、休んでセックスしたいと思って書いた」“スカート”、「25歳くらいでひどい振られ方をして、あのクソ女マジ死ねって思って書いた」“ばらばら”、最近出来た唯一の趣味が戦車のラジコンと明かし、東京タワーはアメリカ軍の戦車で出来ているというエピソードから書いた“電波塔”、入院中に痛み止めの座薬を入れてくれた看護師さんが実はファンだったという話から、「そんなあの子は透明少女」とナンバーガールのカヴァー“透明少女”……なんだか由来や逸話から演奏がはじまると、♪ラララ一つとっても、聴こえ方が違ってくる。彼はエッセイも秀逸だけれど、本当に文学の人なんだなあと納得してしまった。

星野源@NHKホール
ミラーボールがきらめいた“レコードノイズ”で再びバンドがステージに立つと、某ビフォーアフターの後編。匠・伊賀の手により二階建ての二世帯住宅で、ソーラーパネルや本棚も完備、という斬新過ぎる犬小屋が完成していた(笑)。それから、たっぷりとコール&レスポンスで熱い声援を浴びながら、「手拍子しにくい曲」“ワークソング”で後半戦へと向かっていく。この流れに、やっぱり星野源は変態だ、とニヤニヤしてしまった。ホーン隊とストリングス隊も後押しし、“フィルム”、“知らない”と壮大に聴かせていく。特に、「嬉しいです、こうして人前に出れるというのは」という言葉からはじまった“夢の外へ”では、グッときてしまった。最後は、オーディエンスの「ウェーブがしたい!」という声に応えて、時間がない中、全員で同時に跳び上がるウェーヴ(と言えるのか!?)を挟み「ここだけの話、アンコールと、ここだけでしか流さない映像があります」と暴露してから、“ある車掌”で締め括った。

星野源@NHKホール
星野源@NHKホール
予告の通りするするとスクリーンが下り、映し出されたのは『情熱大陸』。オープニングは、先日のテレビで放映された場面と同じである。むむむ?と思っていると、「ラムタラ」という言葉から地上波では流せない様子になっていき……AV論かい! なかなか興味深かったけど(笑)。すると間もなく、影アナが聞こえてくる。あれ? 武道館の時も聞いた、休養中にwiiカラオケで音楽に触れていたエピソード? すると……武道館でも披露された、布施明の“君は薔薇より美しい”を、ヅラ&グラサン&スーツ姿で、ステップ踏みながら熱唱! そしてバンドメンバーもグラサン姿! まさか、また聞けるとは。さらに「セイ、ニセアキラ!」といったコール&レスポンスも(そこに何故か「セイ、サカナクション!」なども紛れていた。友情!)。さらに、次の“地獄でなぜ悪い”は、ジャケットを脱いで白Tシャツを白パンツにインという、さらに強烈なファッションで、ステージを駆け回って歌う。ライヴをはみ出た爆走エンタテインメント・ショー! 最後はジャケットを羽織り、帽子を被って「こんばんは、マイケル・ジャクソンです。ここにたくさんいる、ネヴァーランドのみんなと一緒に……」と、そのまま新曲の“桜の森”へ。えっ、これで新曲!? これで締め!? でも、この曲は新境地。シンガーソングライター、星野源のイメージを大きく押し広げるナンバーだと思う。そして最後は、モモエちゃんのマイクばりに、ヅラとグラサンをステージに置いて、満面の笑みでステージを降りていった。

星野源@NHKホール
「こないだ見た映画で、今自分が立っているところは、これまでやってきた積み重ねで出来ているって言っていて。ほんとそうだと思う」――たくさんの赤裸々な歌やエンタテインメントなパフォーマンスの中で、彼が感慨深げに語ったこの言葉が、大きな説得力をもって心に響いた。希代の表現者である彼の真価は、これからますます発揮されていくだろう。楽しみでしかない!(高橋美穂)
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