焚吐、10代最初で最後のアルバムがポップ的実験の集大成となった理由

焚吐

2月に20歳になる焚吐がリリースする、10代の集大成となる12曲を収めたファーストフルアルバム『スケープゴート』。ソングライターとして転機になったデビュー曲“オールカテゴライズ”、小学6年で書いた“ティティループ”、そして最新曲“ハイパールーキー”など、自身の足跡をリアルに伝える曲ばかりだ。曲を書き歌うことを存在証明として生きて来た焚吐が語る激動の10代は、音楽への切実な思いに溢れている。穏やかな物腰の彼が抱えてきた物語と静かな熱に耳を傾けよう。

インタビュー=今井智子

周りに直接言えないことを音楽にぶつけるというか。身代わりになってくれて、自分を救ってくれた

――成人式を迎えられたそうですが、曲は全て10代で書かれたもの。焚吐さんの10代がここに詰まっているということでしょうか。

「そうですね、10代の集大成と言えるかもしれないですね」

――デビューまでに書いていた100曲の中からの曲もこの中に?

「いま世に出したい曲をピックアップして、12曲の中に入れたという感じです」

――デビュー後に書いた曲もありますか。

「けっこうあります。“黒いキャンバス”、“ハイパールーキー”、“君がいいんです”。前半はほとんどデビューしてからの曲ですね。後半になると、高校時代の曲とか。12曲目の“ティティループ”は小学校6年生の時の曲です。『自分の存在意義』みたいなことを考えている、ませている子供でした」

――この曲が焚吐さんにとっての、歌う人間としての起点だったり、歌に限らず自分の存在について思う原点?

「自分の音楽性だとか、自分が本当にアーティストと名乗っていいのかとか、そういう自我みたいなものを考え始めた年齢だと思うので、キーになっている曲だと思います」

――以前のインタビューでおっしゃっていた、コミュニケーション難民的な状態だったから、こういう歌が必要だったんでしょうか?

「音楽を始める時からずっと、コミュニケーションというものが取れなかったので、この曲にも色濃く反映されていると思います」

――焚吐さんにとって音楽は、心の拠りどころ?

「このアルバムのタイトルにもなっているんですけど、『スケープゴート』というか、自分が直接相手に向かって言えないことを、代わりに言ってくれる身代わりみたいな存在ではありますね。周りに直接言えないことを音楽にぶつけるというか。身代わりになってくれて、自分を救ってくれたんじゃないかなと思います」

――そういう焚吐さんの心の言葉が、たとえば“彼方の明日”にあるのかなと思いましたが。

「同級生に向けての曲なんですけど、自分が直接言えない言葉だと思いますね」

――卒業式で泣くというのは別れというよりひとつのストーリーが終わるということではないかと思うけど、それをシニカルに見ていますね。

「友達がいなかったから(笑)、そういう別れとか名残惜しいとか全く共感ができなくて。今は文明も進化してるし、連絡は取れるし、会おうと思えばいつでも会えるというか、そこまで悲観することはないんじゃないかと。だから、どシニカルですね。イベントで騒ぐのって、短絡的だなと思うところがこの時代にはあって。でも1曲目の“ハイパールーキー”は、そうやって蔑んでいるのが半分だけど、羨ましがってるのが半分。“彼方の明日”も多分、シニカルではあるけど少し羨望の眼差しもあるというか」

――“ハイパールーキー”は、いつ頃できたんですか。

「12月に入る直前ぐらいに歌詞を書き終えたぐらい、ほんとに1番新しい曲で、1番タイムリーといえばタイムリーな曲ですね。10代のうちに吹っ切れた曲を書きたいというか。“彼方の明日”もそうなんですけど、僕の曲は少し引いた視点で遠くから石を投げるような曲が多くて。他人と干渉するのが怖いということもあって、なかなか入り込めないところもあって。“ハイパールーキー”は反面教師になったつもりで、自分も同じ10代だし、若い人間なんだから、そこは自覚を持って、同じようにバカをやろうと思って書いた曲です。こっちはどっちかというと、憧れも含め自分がそういう身に一度なってみたいという気持ちもあるので、“彼方の明日”とは少し違いますね」

音楽家としてというより人間として認められたい側面が大きい

――“黒いキャンバス”も最近の曲なんですね。

「そうです、大学に入って作った曲です。白いキャンバスっていうメッセージ性ってよくあるじゃないですか。未来は可能性に満ちているという。それに対する反骨心というか、白でなきゃいけないのかっていうのがあって。自分のアーティストとしてのスタートは2015年12月ですけど、その前にいろんな曲を書いて、色々と失敗をして、転んでまた起き上がってということを繰り返していて。白いキャンバスと、かけ離れた黒いキャンバスになってるなと思って。だからといってここから再起不能で、黒いキャンバスになったら捨てなきゃいけないみたいなことじゃなくて、黒いキャンバスだからこそ一筋光がさしたらより綺麗に見えて、その光が映えるんじゃないかなって。そういう思いを込めて書いた曲です」

――10代でキャンバス黒くなっちゃうんですか。

「もう失敗ばかりして。人間関係的にももう修復不能なんじゃないかなというぐらいの仲違いもしたり。音楽的にも、たくさんデビューのチャンスがあったのに掴めなかったり。自分がダメなんじゃないかと思った時期もあったんですけど。負のパワーで勝ち上がってきたみたいな感じですね。負のパワーを原動力にしたほうが、自分に合うのかわからないですけど、より力が湧いてきますね」

――歌詞の中には面倒は嫌いだから汚れることは嫌いだからという一節があって、むしろ汚れないようにしてるのかと思いましたが。

「そこは周りへの皮肉というか、周りは白いキャンバスであることを誇ってる人が多いというか、自分はまだ挑戦してないから、やればできるみたいな考え方の人がとても多くて。それに対しての少しアイロニーというか。『そんなにキャンバスいらないなら、こっちに明け渡してよ』みたいな感じで書いた歌詞です」

――自分の未来が明るいとは思わないですか?

「自分がですか? いやぁ、もう不安感で押しつぶされそうですね。毎日毎日不安でしょうがないし、毎日毎日音楽をやっていることについて、悲観的になる部分もあるけど、それでも音楽をやりたいって、思って今に至るので。まあ負の感情というのは一生拭えないんじゃないでしょうか」

――それだけ焚吐さんにとって音楽は欠かせないもの重要なものとしてあるんですね。

「音楽がなけりゃ感情表現というか、周りにいろんなことを物申せなかったので、音楽に助けられてるなあと思いますね。感情をありのままに伝えられるということに加えて、音楽を通してほかの人に認められたというか。僕は音楽家としてというより人間として認められたい側面が大きくて。よく作曲家の人って、自分のアーティスト性だとか、どれだけものづくりに優れているかみたいなことを主張してる方が多いんですけど、自分としては、音楽、焚吐はこういう歌を歌える、だから人間として、いいなあとか、そういうふうに思ってもらえるのがベストだと思っているので、同世代の方、知り合いだとかに、音楽を通して見直してもらえるというのがすごく嬉しいですね」

――自分の思いをストレートに出していくことで、反発を受けることもあると思うんですけど、それも厭わない?

「反発大歓迎というか。今まで評価されること自体がなかったというか自分から人に歩み寄ることがなかったので、評価すらされなかった。だから空気みたいな存在だったので、批判でも好評でも何かリアクションをもらえるということが本当に嬉しいです。焚吐という人間を知って欲しい、その一心ですね」

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