昨年末のCOUNTDOWN JAPAN 14/15。アウェーともホームとも言えない空気の中、ステージ中央のドラムセットに陣取り、シャープな8ビートと、少しだけ鼻にかかった艶やかな声で数千人のオーディエンスを確かにとらえていったその姿は本当にカッコよかった。ドラマなどへの出演を経て知名度が上がっていた中での期待が集まるステージで見事に勝利してみせたシシド・カフカ。こりゃいよいよ台風の目になるな──なんて思っていたら、本当にその才気を爆発させた決定的作品が届いた。
『K⁵(Kの累乗)』と名付けられた本作はセッション・ミニアルバムだ。そのメンツがまたすごい。すでにドラマでオンエアされている斉藤和義とのコラボに始まり、盟友・KenKen(LIFE IS GROOVE)、甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ)、YO-KING(真心ブラザーズ)、そして常磐道ズ 渡辺俊美 他 Special Guest(仮)まで。まさに百戦錬磨の猛者たちに堂々と挑む、果敢で肩の力の抜けた、「新しい」カフカに出会うことができる。これまでミステリアスなアーティストイメージを貫いてきたシシド・カフカだが、この作品の中にいるのは、多くの人にとって素晴らしい出会いになるであろう、新しくて素顔のシシド・カフカだ。特にそれぞれの楽曲で聴ける彼女のネイキッドなヴォーカルに注目してほしい。

インタヴュー:小栁大輔

本当はもっと格好つけて生きていこうと思ってたんですけど、全然もう格好つけられないんですよね

――セッション・ミニアルバムの構想は、前々からあったんですか?

「ずっと前からいろんな人とセッションがしたくてしょうがなかったんですよ。だけどその当時は、まだデビューしたてっていうこともありましたし、『どうもシシド・カフカです』って持っていくものがなかったので出会いがなかったというのもありましたけど、なんとなく足踏みしてましたね。次の9月でデビュー3年目になるんですけど、『こんな感じなんです、私』って言えるものができたので、お声掛けをさせていただけたらいいなあっていうところで、じゃあそれをアルバムとして出そうよっていう話でまとまって。『レコーディングですか、それは一大事ですね』と言いながら(笑)。でも是非やってみたいなということで」

――なるほど。それは精神的に自信が持てたということなのか、あるいは具体的なタイミングが来たという感じなのか。ご自身はどう思いますか?

「自信満々にレコーディングに臨んでるかって言ったら、まったくそうではなくて。もうハラハラしてます。『ちゃんとできますかね?』『大丈夫ですかね?』っていう感じなんですけど。でも自分の中でのシシド・カフカ像がしっかり見えたっていうのと、デビューしたての頃は『こうあるべき』って凝り固まっているものから抜けないまま活動していて。で、それからいろんなことに挑戦させてもらって、自分の幅を広げる作業をずっとしてきた中で、前よりはラフにいろいろなものを楽しいと思いながら、受けて出すことができるようになったので。今のタイミングだったら、セッションしてくださる方々のチームに入っていくという環境でのレコーディングも、楽しみながら最大限を出すことができるんじゃないかなと思えたんですね」

――自信を持って相手のチームに飛び込んでいけるようになったという。そのきっかけは何かあったんですか?

「自信はないんですけど(笑)、今までの2年半ぐらいの積み重ねなんだと思うんですよね。それこそ『NAONのYAON』とかイベントに出て、いろんな人と一緒にやらせていただく機会も増えましたし。あとはモデルだったり演技だったりも、いろいろあったじゃないですか(笑)。特に演技の現場なんて、自分で想像していったものとまったく違うセット、まったく違う服装、思ってた言い回しをしないみたいな。その場で作り上げなきゃいけないっていうことに直面したりしましたし。あと『新堂本兄弟』も大きかったですね。その場でセッションしながら、その日に初めてリハーサルして2、3回通してテレビ収録っていう。それがすごく大きな経験で。フレキシブルに、柔軟に動くことができるようになってきたなっていう印象は、自分に対して持ってましたね」

――とはいえ、その過程ではいろんな戦いがあったと思うんですよね。

「そうですね、だから、思ったより力を抜いていいんだなという感じですかね。それがシシド・カフカのありのままでいるっていうことなのかどうかはまだわからないんですけど。力を抜いていった時のほうが、評価されることが増えたので。今までは本当に凝り固まっていて、力入れて全部の筋肉を硬直させて頑張ってた。なので、もうちょっとラフに『どうもシシド・カフカです』ってレコーディングスタジオに入っていくスタンスが取れたのは、そういういろんな経験の中で力抜いた時に、『それよ!』って言われたことが大きかったかもしれないですね」

――まさにそんな気がするわけですよ。この作品を聴いた今だから言えますけども、これまでのパブリックイメージを一言で言っちゃうと、ちょっと取っ付きにくい(笑)。

「ははははは」

――自分の美意識であったり、パブリックな見え方を大事にしている。そしてそれが強烈だったからとにかくミステリアスだった。でも今は、ミステリアスというのとはまた違う一面を出せるようになったんだろうなと、最近のライヴを観ても思ったんですけども。いろんなことをやっていく中で、この人は少しずつ開放感を覚えていったんだろうなという感じがあって。その感じが、これまでのパブリックイメージと、今のカフカさんを見比べた時のギャップを埋めるロジックなんですが。それはどうですか?

「ああ、そうですね。本当はもっと格好つけて生きていこうと思ってたんですけど、全然もう格好つけられないんですよね。焦りが全面に出るし(笑)。そういうものをいっぱい見せちゃったし。でもそれでも好きって言ってくれる人はいて。これまでは、単純に発してたつもりのものを受け取ってもらえてなかったんだって思いましたね。で、そういう一面を見て受け取ってもらえたことで、もうちょっと力抜いていていいんだなと思って」

今までも思った通りに歩めなかった人生なので。それこそドラム・ヴォーカルって想像もしたことなかった

――それはここ1年なのか2年なのか、あるいは何ヶ月なのかわからないですけど。その中で徐々に身に付けていったものなんでしょうか。

「うん、そんな気はします。徐々に広げていったところで、ここにしか私はいないのでっていうのがよく理解できたというか」

――その中で、自分の本質や核にあるものをより一層わかっていった感じですか? あるいはそんなものなくたっていいんだと思った?

「もともと核になるものがあったような、なかったような感じなんですよね。ただそういう確固たるものがなければいけないんじゃないかっていうところで凝り固まっていたんじゃないかな。これは好き、これは嫌い、これはこう思うっていうのがあるんですけど。嫌いだったものも好きになるし、好きだったものも嫌いになるし。わからないものはわからないしっていうところで。でもやっぱり本能的にこれが好き、これは嫌いっていうのは変わらないものもあるし。でも、私自身が変化をしている感じはあまりしないんですね――それぞれの考え方の良さに気づいて結果的に幅が広がりましたっていう感じなので。今までも思った通りに歩めなかった人生なので。全部頑張って決めて歩んでみようとしていたけど、1ミリもそうならなかった。それこそドラム・ヴォーカルって想像もしたことなかったし。何か決めると、逆に視野が狭くなるので、広く持とうっていうのが今の意識ですかね。だから核っていうものは固いちっちゃいものではなく、この道全体なのかなっていう感覚ですかね。で、その中で行ったり来たりしながら、こっちが面白い、こっちも面白いって言いながらやっていくのが私には合ってるんだろうな。最近、明確に私はこれが合ってるんだなって思い始めてます」

――でもその変化がすべてですよね。ライヴもそうじゃないですか。凝り固まったライヴはやろうと思えばできるわけで、本当クールに叩いて――。

「喋んないみたいな」

――そうそう。で、インパクトを残してやり逃げみたいなこともできるんだけど、「でもこの人、今目の前に人がいると自分を出しちゃう人なんだな」っていう感じはありますよね。

「(笑)そうかもしれないですね」

――で、そのことによる気持ち良さとか、何が起こるかわからない現場の共有とか、そういうものに今病み付きになってる人なんだなっていう感じはすごく伝わる。

「『一緒にセッションしませんか?』って今回のアーティストさんたちに言った時に、いいですよって扉開いてくれたので。とりあえず行っちゃえみたいな。そんな感じでいられるのもこの道が広いからかもしれないですね」

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