ロッキング・オン主催のアマチュア・アーティスト・コンテスト「RO69JACK 12/13」の入賞曲"future"をはじめ、「3ピースバンド」と「ピアノロック」の概念をあっさり更新してみせた1stフルアルバム『クアイフ』から約1年3ヶ月。6月3日にリリースされるQaijffの1stミニアルバム『organism』は、結成からまだ3年強という短い道程の中で森彩乃(Vo・Key)、内田旭彦(B・Cho・Programming)、三輪幸宏(Dr)の3人が遂げた極限進化ぶりを伸びやかに物語っている。生命の終わりの物語を胎児と世界、光と闇の対比を軸に活写した壮大なプログレッシヴポップナンバー"organism"の3分半のドラマをはじめ、《なんのために生きてるとか/本当はどうでもいいのかもなぁ》("meaning of me")というリアルな葛藤、《私がどんなに歌ったって/伝わらないメロディ》("after rain")と「音楽の限界」に抗おうとするフレーズも含め、今この瞬間を懸命に生きる凛とした意志が、卓越した才気と渾然一体となって、6つの楽曲がフルアルバム然とした広がりを描き出す『organism』には結晶している。今作で3人は何を想い、その先に何を見据えているのか? じっくりと話を訊いてみた。

インタヴュー=高橋智樹 撮影=林田咲結

速弾きとか結構派手なこともしてるけど「俺やったるぞ!」ではなくて。曲的に必要性があったからやれた、っていうのは前回よりもある(内田)

──音楽的にも世界観的にも、ものすごくスケールアップした作品だと思います。同時に、その進化に至るにはそれ相応の強い想いがあったんだろうなとも感じるんですが?

 ライヴ活動的には、夏の「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2014」にも出させていただいたりとか、止まらずにやってきたんですけど。1stフルアルバム(『クアイフ』)から今回のリリースまで1年以上空いてしまったんで、もどかしさもあったりして……1stフルアルバムが初めての全国リリースっていうことで、知らない土地の人がCDを持っていてくれていたり、ライヴに足を運んでくれたりっていうのは嬉しいなと思ったんですけど、やっぱり1枚出しただけじゃ、スタート地点に立っただけっていうか。「本当にここからだなあ」って実感しましたね。

──『クアイフ』も「世界変える!」ぐらいのモードで臨んだ作品だったと思うんですけど――。

 (笑)。そうですね。結構でかいことも歌ってたりしたんで。

──今回も壮大なイマジネーションを繰り広げている作品ではあるんですが、特に"organism"に象徴的なように、このカラフルなアレンジのひとつひとつが、そのイメージの隅々までギアをしっかり噛み合わせてる感じがするんですよね。

 よかったです(笑)。「歌を聴かせたい」のはもちろんですけど、もともと「演奏の面白さ」とかプレイとか、そこでも楽しませたいなっていうのが絶対あって。シンプルな曲もあるんですけど、"organism"とかはそこも楽しんでもらえたらなって。

内田 速弾きとか、結構派手なこともしてるんですけど、「俺やったるぞ!」みたいな感じではなくて。曲的に必要性があったからやれた、っていうところは、前回よりもある気がしますね。本当は、もともと今回もフルアルバムを作りたかったんですよ。僕らはフルアルバムを聴いて育ってきたし、人生変えられたなっていうフルアルバムにもいっぱい出会ったし。どうせ自分たちが作るんだったら、人にとってもそういう存在になり得るCDを目指したかったので。その形が、ミニアルバムにするっていう中では最初は見えなくて、それでなかなか選曲が決まらなかったんですけど。最終的には――僕らまだ結成3年で、ミニアルバムとしてはこれが1stだし、まだまだこれからのバンドだから。「あ、Qaijffってこういうバンドなんだ」っていう、知らない人にとっての入口になるような曲をみんなでチョイスしよう、っていうところに落ち着いた感じですね。

──その、「人生を変えたフルアルバム」をあえて挙げるとすれば? まあ、数えきれないくらいたくさんあると思うんですけど。

 そうですね(笑)。私は、もともとバンドを始めたきっかけが清春さんなんですよ。黒夢じゃなくてソロの作品なんですけど、高校3年とか大学1年生とかの頃にハマって。『VINNYBEACH〜架空の海岸〜』っていうアルバムがあるんですけど、頭から聴いていくと、景色がどんどん変わっていくんですよね。あと、ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』も好きで。"ア・デイ・イン・ザ・ライフ"がめちゃくちゃ好きなんですけど、それまでの展開があった上で最後にあの曲!みたいな(笑)。

内田 ベタですけど、僕はビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』ですね。たぶんストーリーとか考えてないと思うんですけど、勝手にこっちが「あ、こういう景色もあるな」っていう想像をかき立てられるというか……めっちゃいろいろ音が入ってるじゃないですか。それも含めて、本当に映画を観ているような感覚があって。あと、くるりさんのアルバムは、どのアルバムもそういう要素があって好きですね。

 でも君さ(三輪に向かって)、ミニアルバムでもめっちゃ好きなやつあるって言ってなかったっけ?

三輪 Supe(シュープ)っていう、日本人のハードコア/ラウド系のバンドがいて。もともとアメリカで活動してたバンドで、その人たちが1stとして出したのがミニアルバム(『GROW IN THE COLD』/2007年)で。それも6曲入りだったんですけど、流れがすごく気持ちよくて、ずっとリピートして聴きたくなるような作品でしたね。そういうふうになればいいなと思って。

──今回のRO69のインタヴューで初めて「Qaijffとは何ぞや」って知る人もいるでしょうけど、ここまでの話だけでも「音楽的に振り幅の大きいバンドなんだな」っていうのは伝わると思います(笑)。

内田 なんか、好きなものが違いすぎて(笑)。彼(三輪)はもともとラウド系出身で――。

三輪 ツーバスドコドコ系のバンドが大好きでしたね。「でした」って、今も好きなんですけど。

 メンバー全員同じ趣味で、すごくカッコいい人たちっているじゃないですか。それももちろん面白いんですけど。逆に、私の全然詳しくないラウド系とか、いろんな要素を持ち寄って、これからも曲作りをやっていけたらなって思ってますね。

もともとフルアルバムを作るつもりだったので、人が生まれてから死ぬまでを1枚通してコンセプト的に作れたらいいなと思ってました(森)

──ここからは1曲ずつ触れていきたいんですけど。"organism"で、生命のサイクルみたいな壮大なテーマを描こうという着想はどういうところから?

 なんでこうなったのかは思い出せないんですけど……誰しも絶対考えることだとは思うんですよ、「なんで生まれてきたんだろう?」とか、死についてとか。私、人の生き様を知るのがすごく好きで。たとえば私、スポーツ全然詳しくないんで、試合はどうでもいいんですけど(笑)、スポーツ選手のドキュメンタリーは見たいんですよ。周りは結婚したり子供が生まれたり、いろんな生き方をしてる人がいるなあって実感して――もともと今回はフルアルバムを作るつもりだったので、「人が生まれてから死ぬまでを1枚通してコンセプト的に作れたらいいな」と思ってたんです。実際ミニアルバムなので、そこまでコンセプトをがちがちに固めたわけではないんですけど、どの曲も基本的に言いたいことは同じというか。決して全部が前向きな表現ではないと思うし、「何でも前向きに解決していくぞ!」っていう曲でもないんですけど。人生いいこともあれば悪いこともあってどうしようもないから、それさえも受け入れて進んでいこうって。前向きじゃない言葉も歌ってるけど、私たちは前向きだよって(笑)。

内田 1曲目に胎内の曲を持ってきたのは……人が生まれて死んでいくのも、言ってしまえば星が誕生して、最後に超新星になって終わっていくのも、結局軸はすべて一緒だと思うんですよ。前提として、星がいつか滅ぶように、俺らが生きてる道程自体が前向きじゃないんです。だけど、そこから始まる光みたいなところがあると思っていて。悲しい大前提の中に、君はどう光を見つけるか?っていう。

──その宇宙規模のでっかいテーマを、"organism"では3分半に結実させてますからね。70年代だったら、イエスは『海洋地形学の物語』だけで4曲80分ですから。

 (笑)。イエス大好きだよね?(と内田を見る)。

内田 僕、70年代のプログレも好きで。"organism"のイントロとかもそういうイメージなんですよ。だけど単純に、曲がコンパクトなのも僕は好きなんで。やっぱりポップミュージックだから。20分とかやれば、そこにアイデアをいっぱい詰め込めますけど、3分半でどれだけやれるか、っていうところが腕の見せどころでもあるんで。

──1曲の中でキーも変わるし、何回もリズムも変わりますからね。

三輪 そうですね。まだ"organism"はそんなに変わるほうじゃない気がしますけど、確かにリズムの切り替えは、今までやってきたバンドの中でも多いかもしれないですね(笑)。

──次の"hello world"は、世界観的には"organism"と地続きですよね。

 かなり共通してますよね。でも、"organism"は生まれる前の話で、胎内を想像してるというか。今、自分たちは生まれて、この年になってますけど、お腹の中にいる時の記憶ってないじゃないですか。それを想像して、これから生まれてくる命に向けて「これから待ち受けていることはいろいろあるけれど……」って語りかけるみたいな感覚なんですけど。"hello world"は、生まれてからこの世界で、自分の足で立って生きることについて歌ってる感じですね。

内田 この2曲はどうしても入れたかったので、音の面で差別化をしたかったんです。近いことは歌ってるけど景色は違うというか、結末は一緒だけど主人公が違うというか――そういう感じにしたかったので。"organism"は、シンセとかも入れながらも、3人の音を大事にしてるんですけど、"hello world"は同期のデジタルっぽい要素も入っているので。

 確かに。ピアノのフレーズとかを全然重視してないもんね。

──次の"meaning of me"は一転して、自問自答と葛藤の曲ですね。

 特に10代の中高生、思春期とか、10代から大人になっていく頃に思うんじゃないか、っていうような内容で。《なんのために生きてるのか》って家でひとりで考えてしまう、みたいなことが自分にもあったし。でも、結果として答えは出てないんですよ。散々《なんのために生きてるのか》って言ってるくせに、《なんのために生きてるとか/本当はどうでもいいのかもなぁ》って言っちゃうところが、逆に気に入ってるんですけど(笑)。

内田 そこ、俺もすごくいいと思う。僕、ブルーハーツもめっちゃ好きで、一番好きな曲は"夕暮れ"っていう――冒頭で《はっきりさせなくてもいい/あやふやなまんまでいい》って、「はっきりしてない答え」をはっきり言われる曲で(笑)。でもそれって、現時点で人生において思う僕自身の答えだと思ってて。はっきりできないから、はっきりさせなくてもいいんだなって。これは森が歌詞を書いてるんですけど、そこに嘘をつかず、《本当はどうでもいいのかもなぁ》って言ってくれたことに、感謝してます。

 ど、どういたしまして(笑)。結局、自分が何がしたくて、何のために生きてるんだろう?って考えちゃってる時って、答えは出ないんですよ。その瞬間瞬間で、自分が助かるために、「まいっか」とか「私はこれがやりたいから」とかその時なりの答えを見つけるんですけど、絶対また悩んだりするじゃないですか。だから、結論を出せないなと思って。

──そして"after rain"に続いていくわけですけど。アグレッシヴなアルバムの中でも平熱っぽい、メランコリックな曲ですよね。

 この曲は、内田がほぼ歌詞を書いてるんですけど、この曲が一番寄り添ってるっていうか、具体的な感じですね。"organism"とか、最初で大きなことをバーッと歌ってて、そこからどんどん近寄ってくるっていう。

内田 《私がどんなに歌ったって/伝わらないメロディ》って、ひょっとしたらアーティストが言っちゃいかん言葉なのかな、とか思ったんですけど。でも、それは実際あると思うんですよね。だって、もともとは「歌いたいから、歌わずにいられないから口ずさんじゃった」っていうのが始まりなんでしょ?っていう。そのことに、これを書いてから「ああ、俺はこれを言いたかったんだな」って気がつきましたね。

 ……そうなんだね(笑)。たまに内田が歌詞を書いた時は、自分が作ったよりは時間をかけて理解するんですけど。今の解釈だと私、ちょっと違ったかもしれない(笑)。

内田 でも、俺はそう作ったけど、それを森彩乃っていう人間に託しているわけで。そこで曲がまた新しい顔を見せてくれたほうが、俺も面白いし、それがバンドじゃんって。そう考えたら、逆にすべて「ここはこうだからこう歌って」って説明する気分じゃないなって。

 究極のところ、お客さんもそうですよね。「私はこういう気持ちで書きました!」って言っても、それをどう捉えるかはお客さん次第だし。

──なるほどね。そういう面でも、「私の曲」「私たちの歌」じゃないですよね。聴いてくれる人に向かって「あなたの曲にしてくれていいですよ」っていう開かれた気分が確実にあるし。

内田 そうか。そうですよね。

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