ボカロ×肉声――異形のスタイルで突き進む
ピノキオピーとは何者なのか?

アルカラ

2009年から活動を開始し、肉声(人力音声)と電子(合成音声)が共存したサウンドを鳴らす独自のスタイル独自のスタイルを確立したクリエイター・ピノキオピー。今回の『HUMAN』は、アルバムとしては2年ぶりとなる。打ち込み、VOCALOIDを用いた無機質なサウンドの中にも、全体に生々しさや人間臭さが香る今作はどのようにして生み出されたのか。RO69初登場となる今回、このスタイルに至った経緯から自身の音楽的ルーツ、そして歌詞を生み出す独自の考えまで、じっくりと語ってもらった。

インタビュー=杉浦美恵

僕が普通に音楽を聴いている時にはなかった音楽が存在してるっていうか

――まず、2009年に動画投稿サイトに投稿を始めたということだったんですけども、それ以前は何か音楽をやっていらっしゃったんですか?

「趣味で4トラックMTRから始まって、ひとりで宅録をやったりしてましたね。その後はパソコン使って、フリーソフトのシーケンサーとかを組んで『音鳴るなあー』って楽しんでたぐらいで、あまり音楽活動とかはしてなかったです」

――もともとはどんな音楽が好きだったんですか?

「音楽はスピッツから好きになって、そこからゆずも好きになって。それからいろいろあってナゴムレコードとか電気グルーヴも好きになって――ゆずとボアダムスを同時に聴いてたり、いろいろごちゃ混ぜで聴いててっていう時期もありました(笑)」

――ナゴムに行き着いたのは電気からですか?

「僕、伊集院(光)さんが好きで、伊集院さんのラジオのアーカイブスを聴いていた時に電気グルーヴとのつながりを知って。『電気っておもしろい人たちなんだな』ってところから『あ、この曲の人なんだ!』って知ったっていう(笑)。曲からじゃなくてラジオからだったんですよ。そこから筋肉少女帯も好きになってっていう流れですかね」

――どういうところに惹かれたんでしょうか。

「自由さとか好き勝手やってる感じとかですね。僕は後追いなので当時の反骨精神とか、時代の感じもあんまり感じ取れてはいないんですけど、僕が普通に音楽を聴いている時にはなかった音楽が存在してるっていうか、およそ一般的じゃない人がほぼ一般的になっていくみたいな流れを感じた時にグッときたというか」

――そういうものに影響受けてる感じは作品からも伺えるんですけども、そこから「自分でも音楽をやってみたいな」と?

「『音楽をやりたい』というよりも、CDとパッケージそのものに対してフェティシズムを感じるところがあって。盤面があって、曲目が並んでいて、歌詞カードがあるっていうそのものがすごい好きなんです。それこそ、小学生の時は架空のCDを作る遊びをやってたので、今やってることはその延長線上にあるなというのはありますね」

「合成音声なのに泥臭いことを歌わせてロックやってる」と思ってグッときたんですよ

――どういうきっかけでボカロのシーンに足を踏み込んだんですか?

「ニコニコユーザーだったんで、ボカロってものがあるというのはふわふわと知ってたんです。でもそんなに好意的に捉えてなくて。無機質な声だからあんまり魅力を感じないなと。なんですけど、ある時にアゴアニキさんの“ダブルラリアット”という曲を聴いて『合成音声なのに泥臭いことを歌わせてロックやってる』と思ってグッときたんですよ。歌詞とかもコンセプチュアルで、『自分の内面的なことを書いてる人がボカロにいるんだ』っていうことを知ってから興味を持ちました」

――実際そのシーンに入ってみておもしろいところは何でしたか?

「最初の頃はまだ発展途上だったので、『ボカロ』って記号にいろんなジャンルの人がいて。それこそ、メタルの人もいれば、フォークの人もいればってぐちゃぐちゃにみんな仲良く集まってたんです。その状態って音楽であんまりないじゃないですか。違うジャンルの人たちがお互い影響し合ってる状況がその時にあって、ほんとにおもしろいなと思いましたね」

――今のようにご自身で歌うとか、人前でライブをするというのは想像していました?

「まったくしてなかったです。むしろ、したくなかったぐらいの。緊張しぃだし、人前に出るのマジで向いてないと思ってましたし。それこそ最初にツアーした時には、隣りに代役を立ててその人が歌うっていう謎のことをやって(笑)」

――あはははは。それぐらい人前に出るのが嫌だったんですか。

「嫌でしたね。でも、それはよくないなと。今はやっていくうちにだんだん慣れてきたって感じですね」

――人前に出るのが嫌だったから、マスクをつけて出たりしていたんですか?

「そこは難しくて、別に顔出しはしてもいいんですけど――当時ボカロをやってる人ってだいたい匿名性を持った状態でやっていて、有名になっていくにつれて顔を出し始めるっていうのが流れとしてあったんですよ。で、僕の周りの人たちが顔を出し始めてて、『この流れ乗って顔を出すのどうなんだ?』って思ったら出せなくなっちゃったんですよ(笑)。今となってはボカロじゃないところでも出してない人増えてるじゃないですか? 増えすぎちゃって、むしろ出してないのもどうなのって……今どうしようもない状態です(笑)」

「ちゃんとライブ感を持って伝わるものじゃないといけない」「だったら、自分が声を出したほうが伝わる」とその時に感じた

――今作に至るまでにボカロとご自身の歌とのツインボーカルというスタイルが確立されていくわけなんですけど、「ボカロに合わせて歌ってみよう」ってなったのはいつぐらいからだったんですか?

「ライブやっていくうちにですね。最初はちょっと歌うぐらいで始まったんですよ。『この曲の最後だけ歌おう』とかだったんですけど、だんだんエスカレートしていって『ここも歌ったらエモいんじゃないの?』とかいうのが増えていった結果、今半々ぐらいに。それに、ボカロだけでライブをやろうとした時にまったくライブ感がないなとも思って。オケの工夫はいろいろできるとしても、ボーカルに関してはただただ垂れ流してる状態になるんで、『声って言葉とかが乗ってるものだから、ちゃんとライブ感を持って伝わるものじゃないといけないな』『だったら、自分が声を出したほうが伝わるなあ』とその時に感じてやり始めたんですね、掛け合いを。それを続けていった結果、このアルバムになってるっていう感じです」

――歌うことに抵抗はなかったんですか?

「最初はありました。僕自身、歌に自信があるわけではないので、『しっかり人前に出せるようなものにはしないとな』という気持ちはあります」

――それは、ご自身のなかで歌や歌詞が届いて欲しいという欲求が強いから、ライブをやっていても有機的なものにしたいという思いが強くなってきたのかなあと思ったんですが。

「それはありますね。作品でも、サビの後ろでコーラスが鳴っているとか人間的なものがあったほうが盛り上がるんですよね、聴いてる感じとして。無機的なものに有機的なものが混ざった時の――そっちのほうが無機的なものが目立つし、逆に有機的なものが混ざった時の違和感みたいなものがすごくあるんで、それがおもしろいなと。無機的なものを、人間じゃないものを人間に見立てることでちょっとエモく感じるとかあるじゃないですか。ロボットが感情持った行動をした時にグッとくるみたいな。それは無機的なものを人間が下に見てるからそう思うんですよね。じゃなくて、これからはAIみたいなものでも『肩組んでやってこう』みたいな、そっちのほうが平和的なんじゃないかなと思ってて。なので、そっちのほうがいいなと思ってます」

公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする