ピアノソロ弾き語り、その理想を語る! 日食なつこ×komaki対談

《あの電波の嘘を暴いてゆけよ》(“ヘールボップ”)、《ほんとの救いは目の前で悲劇と同じ姿をしていた》(“ヒーロー失踪”)、《そんな場所で何を待ってるんだ》(“跳躍”)、《身の丈に合うか合わないとか事後報告でいいよ》(“非売品少女”)──自他へ向けられる鋭利な言葉の数々を、極上のメロディと伸びやかな歌声、ピアノ弾き語りをメインとしたシンプル&カラフルな音像越しに撃ち放つ異才アーティスト=日食なつこ。高校時代の初音源化曲から最新楽曲まで、約7年間に及ぶ足跡を全14曲に凝縮させた1stフルアルバム『逆光で見えない』には、「シンガーソングライター」という言葉では捉えきれない類稀なる才気が隅々にまで満ちあふれている。今回RO69では、初フルアルバムの発売を記念して、ピアノ&ドラム編成で一緒にツアーを行うなどその音楽世界に不可欠なドラマー・komaki(wrong city、ex.tricot)との対談形式で、日食なつこの表現と新作アルバムの核心に迫ってみることにした。

インタヴュー=高橋智樹 撮影=林田咲結

オーケストラをひとりでやってる感覚に近いのかな(komaki)
ピアノソロの形ではあるんですけど、バンドには負けたくなくて。バンドを鍵盤ひとりでやりたくてやってたら、こういう形になったんですね(日食なつこ)

── 人間の醜いところも弱いところも全部、ここまで美しく鳴らせるんだ!っていう驚きも大いにあるアルバムなんですけども。『逆光で見えない』にはバンド編成の曲もピアノ弾き語りの曲も入っている中で、ライヴでも実践しているピアノとドラムの音が特に印象的で。このふたつの楽器で、ここまで強烈な世界観が成立する人ってそうそういないと思うんですけど。

komaki いわゆる弾き語り──ギター然り、ピアノ然り──でやってらっしゃる方と、同じようにふたりでやったとしても、ここまでのものは絶対にできないな、っていうのは思っていて。単純に、上手い下手とかだけじゃなく……レコーディングしてても、明らかに「これ大丈夫かな?」っていうぐらい音数が少なかったりするんですけど。曲として見るとそうかもしれないけど、一個の風景というか表現として見ると、すごくドラムの入れ甲斐があって。それだけで成り立つ、なんだったら叩かない部分がもっとあってもいいかな?って思うような感じでやってますね。

── ピアノプレイも独特ですよね。「歌の伴奏」っていうことではなくて、ひとつひとつがリフでもあり、旋律でもあるっていう。

komakiオーケストラをひとりでやってる、みたいな感覚に近いのかな?

日食そうですね。もともとピアノソロっていう形ではあるんですけど。高校の時に活動を始めた頃からずっと、「バンドには負けたくない」っていうのがあって。大きな音を出せば強いのは当たり前じゃないですか。でも、例えばギターのチッチッチッっていう刻みを、ピアノの高音のカンカンカンっていう不協和音でやったりとか、ベースラインのおいしいフレーズをピアノで──根音を弾くんじゃなくて、三度とか五度とかのあり得ないところをなぞったりとか。バンドを全部、鍵盤ひとりでやっちゃいたいっていうのがあって。それをやってたら……こういうふうになった、っていう感じですね。

── ジャンル的にもすごくルーツレスな感じがありますけど、あえてルーツを挙げるとすれば?

日食もともとのルーツは、えーと……。

komakiEXILEと、BUMP OF CHICKENと──。

日食……っていう、ほんとスタンダードなところなんですけど(笑)。でも、自分の中では、EXILEと同じことをやってるつもりなんですよね。私が好きになったEXILEはSHUNとATSUSHIがヴォーカルだった時のスタイルで。それを、同じような曲を書いて、同じように甘~く歌ってるつもりだったんですけど、「どぎついね」って言われてショックを受ける、みたいなことが続いてて(笑)。他人の目にさらされて、自分がちょっと違うことをやってるっていうのを自覚したっていう感じですね。スタンダードなつもりだったんですけど。

── じゃあ、この独特のピアノスタイルも自分で編み出したもの?

日食そうですね。音っていうよりかは効果音で。歌の中で「この歌詞のあとに、ハッとするフラッシュがパッてほしい」って思った時に、そのフラッシュを音で表したら「あ、この高い音だ」って。激しかった曲の中で、スッと静かになって風が流れるところは、このアルペジオだ、とかっていうように当てていくと、ああいうふうになるんです。それは誰かの曲を聴いてというよりは、絵がそのまま音になればいいかな、っていうイメージでやってる感じですね。

komaki僕、ツアーのファイナルで、彼女の地元(※生まれは花巻市)の盛岡まで行ってきたんですけど。道中、マネージャーたちと車で走ってて、「ここらへんが高校の時に見た景色で、ここを歩いてる時にこの曲ができたんだ」って言われた時に──僕はその風景なんてまったく知らなかったんですけど、曲を聴いて僕がなんとなくイメージしてた風景と、そこを通った時に見た風景が、びっくりするぐらい一致してたんですよ。「この人、音で赤の他人にそれを感じさせてるんだなあ」って思って、驚愕したのを覚えてますね。あれは“floating journey”だよね?

日食そうです。今回のアルバムにも収録されてるんですけど、書いたのは17とかの時で。あんまり出来のいい生徒じゃなかったんで、授業を抜け出して家に帰るとか、わりとよくやってたんですけど。その時ちょうど秋の寒めの季節で、すっごい着込みながら「寒っ!」って言いながら歩いてるんですけど、秋晴れですごく天気はよかったりして。夕方の暮れていく感じがすごく綺麗で、それをそのまま曲にしたい!と思って、歌いながら帰って、ストンとピアノの前に座ってできたのが“floating journey”で。そういうふうに風景が浮かんだっていうのは……17歳の私、よくやったな!って思います。

komakiすげえよ!(笑)。

彼のドラムは「音の女子力」がすごいんですよ。歌うようにドラムを叩くというか。細かいことを言わなくても、曲を聴いてくれるだけで横をつなげてくれる(日食なつこ)

── 逆に、なつこさんからkomakiさんを見て、「他のドラマーとはここが違う」と感じる点は?

日食ひと言で言うと……変な意味じゃなくて、「音の女子力」がすごいんですよ。

komakiおおっ!? ごめん、全然わからへん!(笑)。どういうこと?

日食ドラムって、いわゆる縦の線で音を作っていく、曲を作っていくっていうイメージなんですけど。そうじゃなくて、風景を切り取って、歌うようにドラムを叩くっていうか。チャカチャンとかトコトンとか入れてくる細かい音も──さっき言ったようなフラッシュの一瞬だったりとか、そういうことを言わなくても、曲を聴いてすぐパッとやってくれて。横のドラム、横で音をつなげていくドラムっていうんですか? そういう女の子的な音作りが、女子力高いなと思ったんですけど……ど、どうでしょう?

komaki(笑)。でも自分も、もともとオーケストラのバックでティンパニ叩いてたりとか、そういうのをずっと勉強していた時代があって。そこから「でもロックやりてえ!」ってなって、tricotとかを経由して、tricotを辞めて、すぐこの話が来たんですよね。それこそさっき言ったような、オーケストレーションっぽいピアノをやったりとか……オーケストラとかだと、楽譜はもちろんありましたけど、「第一楽章の演奏は、小川の横を歩いてる風景で」みたいなことを言われたりするんですよね(笑)。そうやって音を当てていってた自分と、ドラムをやってきた自分とが、すごい綺麗に、そのまま日食なつこの音楽につながっていった気がして。すごく楽しかったんですよね。

日食その、クラシックをスタートにしてドラムをやってる感じもわかって。「明らかにこれはドラムじゃなくてティンパニの音っぽい」とかいうのもわかるし。私も、もともと最初はピアノの教室でクラシックをやっていたので。そういう部分でのつながりもあるのかなあと思いますね。

── だから本当に、組むべくして組んだおふたりっていう感じですよね。なつこさん的にも、ピアノ弾き語りだけでずっとライヴをやっていたら、また違った方向性に行ってたでしょうしね。

日食そうですね。最初はピアノひとつだけで曲が完成するように作ってたんですけど、ドラムと一緒にやるようになってから、「ここでドラム入れてほしいから、あえてピアノは抜いておこう」っていう曲も作ってたりして。自分の中でも広がりがあったりしているので。そういう意味でもよかったなって。

↑TOPに戻る

公式SNSアカウントをフォローする

最新ブログ

フォローする