LITE ライブ=曲作りで過ごした3年半の結晶『Cubic』を語る

LITE

ポストロックの雄、LITEが3年5ヶ月ぶりに5枚目のアルバム『Cubic』をリリースした。国内外を問わずさまざまな場所でライブをし、進むべき道を開拓してきたLITE。今回のアルバムは、そんなライブ活動の成果が結実した渾身作であり、同時に武田信幸(Gt)が歌を解禁し、管楽器ともセッションを行うなど、自らの枠を壊して新しいことに挑戦する彼ららしい作品になったとも言える。理性の音楽集団であったLITEがなぜ歌やセッションといった肉体的なニュアンスを求めたのか、さらにはシーンの捉え方、バンドや音楽家としてのあり方に至るまで、武田に語ってもらった。

インタビュー=秋摩竜太郎

ツアーを通して曲を練り、それぞれを自分のフレーズに、自分の言葉にして曲を作るのがテーマだった

──アルバム素晴らしいです!

「うれしいですねえ」

──3年5ヶ月ぶりとなりますが、この期間、じっくり自分たちの音楽を見つめてきたのかなと。

「まさにその通りですね。意味のある3年半だったんですよ。この期間、実はツアーが大半を占めていて。初めて中国に行ったし、アメリカ、イギリスといろんな国に行きました。さらに遡ると前回のアルバムのリリースがあって、直後にもう制作を始めていたんですよ。そこでできつつあった曲をツアーで試していった――試す時間が必要だったんです」

──ライブで試したい、というのが今までと違うところですか?

「前の『Installation』はどちらかと言うと、ラップトップで完結する曲が多くて。音を詰め込むだけ詰め込んで作った曲が多かった。ギターが4本ぐらい鳴っていたり、人が弾けないようなシンセが入っていたり。それをバンドに一度落とし込んで、削っていくというやり方だったんです。そのツアーを回った時にバンド内でディスカッションがあって。例えばドラムであればそれが自分のフレーズじゃないような、自分の言葉で伝えてないような感覚があったと。もっと自分の感覚に落とし込んで伝えたほうが直接的に伝わるんじゃないか、それがプレイヤーとしてやりたいことなんだという話がありました。だから今回は曲を作ったらすぐレコーディングということではなく、ツアーを通して曲を練って、それぞれを自分のフレーズに、自分の言葉にして曲を作っていこうというのがテーマでした」

──つまり前作とは真逆の手法だったと。

「前は引き算だったけど、今回は最小から始めてどんどん足していく流れでした」

──実際に曲は原型から変わっていったんでしょうか?

「曲によっては本当に最初から積み上げていったので、どうしても足りないと感じる部分が出てきたんです。そこをどうするかという選択肢があって、それが最終的に管楽器につながったり、自分の歌につながったり、ほかの人の歌につながったりしていきましたね」

──最初からというのはセッションっぽいところから?

「ジャムセッションから始めました。前回のリリースのあとすぐに合宿に入ったんですよ。“Balloon”や“D”はジャムから始まりました。で、特に前回と違うのはドラムやベースから始まった曲もあるということで。ドラムとベースしかないデモ音源が送られてきて、これをネタにできないかなということもあったり。個々のキャラクターが出た骨組みだけ、そこにどう付け加えていこうかというプロセスが新鮮でしたね」

──昔はもっと理性的というか、ステージでもイヤモニやクリックを聴きながら緻密にやっていたところがあったと思うんですけど、今回の音源はもっと肉体的な生のニュアンスを感じたんです。それはそういう作り方をしたからということだったんですね。だからこそ生々しい演奏をするタブゾンビ(SOIL&”PIMP”SESSIONS)さんが参加するのも納得だなと。

「そうですね。タブさんとかは本当に自由に吹いてほしい、暴れてほしいと思ってました。カチッとやるのではなくて、最低限のところだけ決めて、あとは自由に。自分たちの中でもそれができる余裕みたいなものが十何年もやってると生まれてきた部分もあります。ただクリックは、実は今でも聴いてやってる曲もあるんです。そういう側面と、今回みたいなアグレッシブな側面がはっきりしてきました。この曲はカッチリやろう、この曲はもっといこうというのが、だんだん霧が晴れてきたというか、はっきりわかるようになってきた感じですね」

──この曲はもっといこうとか、フレーズを自分たちの言葉として伝えたいというのは、いろいろなところでライブするようになって生まれた感情でしょうね。

「おっしゃる通りですね。海外と日本は、ライブ環境が大幅に違うことが多いんですよ。例えば日本だと中音がほとんで出ていなくて、外音からバランスを取っていきますけど、アメリカに行くとスピーカーがしょぼくてPAが中音をメインに作っていくことがあります。そうなるとシンセの音とかが僕らの意図するようにミックスされないこともあってフラストレーションを感じたりしました。前作はシンセを使った集大成みたいなところがあったので、そういう環境ではどうしても伝わらないところがあるなと感じて。逆にバンドサウンドだけで個々のキャラクターが出ている曲をやると、お客さんが喜んでくれているのが伝わってきたり。LITEらしさというか、バンドとしてあるべき姿というのはこういうところなんだなと、ツアーを通して思うに至りましたね」

僕たち、インストバンドだけどそう思ってやってない節があるんですよ。歌はなくてもその代わりになるものはある

──歌についてお伺いしたいのですが。2012年の『Past,Present,Future』でもキャロライン(マイス・パレード)さんをゲストに招いて歌をフィーチャーしていましたが、今回は“Warp”で武田さんが、“Zero”ではゲストの根本潤(元Z、THERE IS A LIGHT THAT NEVER GOES OUT)さんが歌っています。これはなぜですか?

「『Past,Present,Future』はミニアルバムで、そういう作品では思い切ったことをできるというイメージがあるんです。つまりひとつの可能性を試したかった。あれでよかったのは、LITEも歌が乗る楽曲を作れるとわかったこと。こういう方向もありだなという感触を得たんですよ。というのが根底にありながら今回の曲作りをしていって、この曲はギターでもないし管楽器でもない、というところで歌が選択肢のひとつにあったという感じですね。ただ、キャロラインのような歌を自分が歌っても気持ち悪いだけだと思ったんで(笑)、自分なりの歌の乗せ方ができるはずだと思ってやってみた感じです」

──前は英語でしたけど今回は日本語です。そこも自分が歌うならという理由で?

「キャロラインが歌うなら絶対母国語であってほしかったし、僕が英語で歌うならネイティブの人の助けが必要で。そうなるとひとつフィルターを通さなければいけない。だったら自分の言葉で伝えたいというのがあったんですね。それと、このバンドが日本語で歌う違和感というか。海外ツアーもやってるし、本来なら英語を乗せるところをあえて日本語でっていう期待を裏切る感じがおもしろいなと思っていて。それは日本でもそうだし、海外でも同じだと思ったんですよ。海外の人も日本語を乗っけてきたよ!という見方をすると思うし、そういう爆弾を投げてみた時にどんな反応をするんだろうっていうワクワク感が強かったです。日本って島国で、なんとなくみんなが不思議な目で見ている中でフェスに出たりすると、同じような年代の人が集まって普通にやっている。そこはボーダーレスで垣根をまったく感じない。そういう中で日本語も垣根なく入っていけるような気がしたんです。そうなったら次のステップというか、不思議な島国の言葉じゃなくて日本語って普通にかっこいいね、ということができる存在になれたらいいなと」

──ほんとそう思います。伝える上でもワクワク感という意味でも絶対日本語で歌うべき。日本人の表現なんだから日本語で当然というか。

「そうなんですよね。海外の人に日本のバンドを聴かせると『なんで日本語で歌わないの?』って言われたりするんですけど、彼らにとってはそれが単純に疑問なんですよ。フランスのバンドだったり、英語圏じゃない人たちが英語で歌っているのもそう。僕らもそういうものさしになってきているし、それはたぶん日本にいたらわからなかったことですね」

──なるほど。ちなみに歌は、初期の頃も入れてたりしたんですよね? インストバンドと呼ばれるから意外な感じがしますけど。

「よくご存知で。LITEの前身のバンドですね。ベースの井澤惇が入る前、CDを出す前のLITEには歌も入ってました。ただ10分間の曲の中で1分ぐらい入ってる感じでしたけど(笑)」

──なんですかその曲構成(笑)。でもそう考えると、今回歌っているのはもちろん挑戦的なことだけど、ルーツになかったわけではないというか。

「間違いなくそうですね。それに僕たち、インストバンドだけどそう思ってやってない節があるんですよ。歌はなくてもその代わりになるものはあった。真ん中に来る何かという意味では歌もギターだったりも並列だと思う。だから自然に入れられたというか」

──ジェフ・ベックとかを聴いてると歌がなくても全然いいみたいな。

「そう、もうギターが泣いてるじゃないですか(笑)。それぐらい感情豊かだと思うんですよ。そうありたいですよね。僕らの場合はそれに加えてわかりやすいフレーズだったり、派手なフレーズだったりが歌の代わりになってると思いますし」

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