「蝶々P」から「一之瀬ユウ」へ── シンガーソングライターとして歩みだした必然とは?

一之瀬ユウ

ネットミュージックのシーンで絶大な支持を得てきた蝶々P。メロディメイカーとしてすぐれたポップセンスを発揮し、papiyon名義では他アーティストに楽曲提供も行うなど、ソングライター、アレンジャーとしての評価も非常に高い。これまですぐれたボーカロイド作品を世に送り続けてきた蝶々Pが、今回、一之瀬ユウというひとりのシンガーソングライターとして、メジャーデビューを果たした。蝶々P作品でも見せてきた美しいギターサウンドやエキセントリックなピアノロックなど、ソングライターとしての実力は、このデビュー作『Allone』でも惜しみなく発揮されているが、バンドサウンドと彼自身の声で紡がれた楽曲は、より普遍的で切なく美しいメロディが際立つ。特筆すべきは、一之瀬ユウが作詞・作曲のみならず、楽曲アレンジもすべて自身で手がけているということ。だからこそ、リズム、ピアノ、そしてギターのアンサンブルが心地好く、彼自身が思い描く世界をしっかりと楽曲で表現できているのだろう。全6曲、すべてが違う色彩を放つ魅力的なこの一枚は、彼のセルフプロデュース力の非凡さを物語る。蝶々Pが、なぜ今シンガーソングライターとして自身の歌を届けようと思ったのか、その軌跡を振り返りながら、今作についてじっくり語ってもらった。

インタビュー=杉浦美恵

あまり自分の歌には自信がなかった

――一之瀬ユウとしての初めての作品がCDとして完成して、どんな気持ちですか?

「今回、いろんな方に関わってもらって、制作には時間もかかりましたが、シンガーソングライターとしての初のCDなので、実際に作品が手元に来て聴いてみて、ようやく、ああ、作り終わったんだなっていう感慨深さがありますね」

――今回は一之瀬ユウとして、RO69では初のインタビューになりますが、蝶々Pとしての音楽活動についても少しお訊きしたいと思います。まず、ボーカロイド作品を作り始めたきっかけは?

「学生の頃、バンドをやっていた時期があったんですけど、それと並行してインストの楽曲をDTMで作ったりしていたんですね。ただ、所有機材の関係もあって、実際に誰かに歌ってもらって、歌ものの楽曲を作るっていうのは、当時は厳しい環境だったんです。でも、その頃にボーカロイドが出始めて、注目を集めてて。パソコンが一台あれば自分ひとりで歌の入った楽曲を作れてしまう、こんなすごいものがあるのか!って思いました。それからボーカロイド作品を作り始めるようになって」

――曲を作って、いい曲ができたっていう時に、自分で歌うという選択肢はなかったんですか?

「そうですね。バンドでもオリジナル曲をやっていたんですけど、それとは切り離して考えていたというか。バンドでは、ほかにボーカルをやる人がいないという理由で、自分が歌っていたんですけど、あまり自分の歌には自信がなかったんです(笑)」

――自分ひとりで楽曲を作る時には、ボーカロイドのほうに魅力を感じていたんですね。ボーカロイドの面白さって、どんなところにあると思いますか?

「人間とは違う何かがあるんですよね。ボーカロイドっていうと、機械だし、ちょっと冷たく感じる部分があると思うんですけど、だからこそ感情移入ができるというか、無機質だからこそ、リスナーさんは自己投影できるような部分があるのかなとも思いますね」

――蝶々P作品は、ピアノとギターの音が非常に印象的な楽曲が多いんですが、一之瀬さんは、もともとピアノをやっていたんですよね?

「半ば強制的に習わされていたというか(笑)。僕の父は、プロではないんですけど、ジャズ系のサックス奏者で、いろんなところで演奏していたということもあって、その影響を受けているんだと思います」

表現したいものがある場合、自分で編曲までやらないと最終的に納得いくものが生まれないと思う

――蝶々Pとして制作を続けてきて、今回初めて一之瀬ユウ名義での作品『Allone』がリリースされるわけですが、蝶々Pとしての作品とは、制作への取り組み方は違いましたか?

「制作段階から、知らず知らずに気負ってしまっていた部分があって、表題曲は特にそうなんですけど、産みの苦しみを味わったりもしました。制作に対する姿勢は、これまでと変わってないと思うんですけど、自分で歌うということに関しては、やはりなんとなく今までとは違う思いがありましたね」

――サポートのミュージシャンも入っていて、レコーディングの仕方も蝶々Pの時とは違うと思うんですけど、今回、一之瀬さんが弾いているのは?

「僕はギターを弾いています。鍵盤に関しては、これまでもそうだったんですけど今回も打ち込みです。プレイヤーの方に弾いていただくのも面白いと思うんですが、『こうしてほしいのにな』とか、自分のニュアンスが消えてしまうのが嫌なんですよね」

――やっぱりアレンジも含めてトータルで自分で作り上げたい?

「そうですね。作詞だけ、作曲だけ、もしくは作詞・作曲だけして編曲はしないっていうシンガーソングライターさんもけっこういると思うんですけど、突き詰めて考えていくと、トータルで自分の表現したいものがある場合、自分自身で編曲までやらないと、最終的な仕上がりとして、納得いくものが生まれないと思うんです。もちろんほかの方と共作して面白いものができあがることもあると思うんですけど、僕の考え方としては、編曲も含めて僕の表現だと思うので、そういうところはこれからも大切にしていきたいなと」

――曲作りの段階で、アレンジのイメージも浮かんでいるんですか?

「そうですね。作曲しながら、ほとんど編曲もやっていくような感じなので。だいたいメロディを作る時点では、曲の全体をこういうふうにしようとか、考えながら作っています。僕の性格なのか、これまでの経験からなのかわからないんですけど、自分で編曲までやらないと気が済まないんですよね。例えばほかのアレンジャーさんにお願いしたとして、僕には出せないものがあがってくる可能性もあるし、それも面白いと思うんですけど、やっぱり自分の当初のイメージからかけ離れてほしくないっていう思いのほうが強いんですよね」

――今回は全編生音をがっつり入れた音作りで、バンドアンサンブルもしっかり楽しめる作品になりましたよね。

「(サポートのミュージシャンは)みなさんもともと一緒にプレイしたことがあって、信頼できる方々だったので、それぞれのパートのだいたいの完成形というか、どういうことをやってくれるかっていうのは事前に想像できていたので、その中で、それぞれに持っている引き出しというか、僕にないものを出せたらなというのはありました」

――細かな部分は各パートの方が持ち寄ってくれて?

「とは言っても、デモの段階で僕が8〜9割、ほぼ完成形のものをお渡ししているので、本当に細かいフレーズとか、例えばドラムならフィルの部分とかの細かいところはお任せしている感じですね」

――バンドサウンドでのレコーディングは、やっぱり楽しいですか?

「けっこう僕自身がオタク気質というか、ギターや機材が好きだっていうのもあって、スタジオっていう空間が僕はすごく好きなんですよね。なので、レコーディングに関しては、ある程度の緊張感を持ちつつ楽しくやれたらいいなと思って取り組んでいました」

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