フジロック、20年の軌跡。そして、それを彩った8の代表曲

FUJI ROCK FESTIVAL

今年開催20年目を迎えるフジロックを記念して、フジの20年の歴史を振り返るコンピ『フジロック・フェスティバル 20thアニヴァーサリー・コレクション (1997 - 2006)』、『フジロック・フェスティバル 20thアニヴァーサリー・コレクション (2007 - 2016)』が6月29日に2枚同時リリースされる。1997年の嵐の天神山で幕を開けたフジの歴史とは、そのまま日本におけるロック・フェスの進化と成熟の歴史であるのはもちろんのこと、フジロックとはそこに出演したアーティストたちのバンド・ヒストリーに「もうひとつの物語」を与え続けた場所でもあったことを、このコンピを聴くと理解できるはずだ。今年ヘッドライナーを務めるレッド・ホット・チリ・ペッパーズにも、ベックにも、フジロックと私たちだけが知る忘れがたい瞬間と興奮があるのだ。以下、対談でそれを検証する。(粉川しの)

対談者=山崎洋一郎(『rockin’on』編集長)×粉川しの(音楽ライター)

レッチリとベックが20年後に並ぶ今年のフジロック

粉「フジロックのコンピと聞いて、いわゆるフジらしいアクトだとみんなが思い浮かべる人たちのナンバーで構成されているんだろうと思いつつ、トラックリストを見たら、あっ、この人たちもそういえば出ていたなっていう驚きもあって。特にワーナー盤(『フジロック・フェスティバル 20thアニヴァーサリー・コレクション(2007-2016)』)を聴いてて感じました。で、ユニバーサル盤(『フジロック・フェスティバル 20thアニヴァーサリー・コレクション(1997-2006)』)に戻ってみると、初回から10年でフジっぽさが確立されて、その次の10年でフジっぽさの定義がぐっと広がっていった、っていうのが一目瞭然なのが面白いですよね。

今年はレッチリとベックが来るわけで、97年って初日のヘッドライナーだったレッチリが嵐で無念の途中中断、2日目はキャンセルになってベックは出られなかった。そのレッチリとベックが20年後にやっと同じステージに立つっていう。ある意味20年ぶりのリベンジ・マッチ的な部分もありますよね」


※『buzz』1997年9月号より
Red Hot Chili Peppers "Dani California"
Beck "Where It's At"

山「ユニバーサル盤(『フジロック・フェスティバル 20thアニヴァーサリー・コレクション(1997-2006)』)にはフー・ファイターズ、ベック、ケミカル、ジャック・ジョンソン、プライマル・スクリーム、ザ・キラーズ、ソニック・ユース、エルヴィス・コステロって並びでしょ? これさ、もし、ロック最強のコンピレーションってタイトルがついてても、それはそれで納得いっちゃうじゃん。で、ワーナー盤(『フジロック・フェスティバル 20thアニヴァーサリー・コレクション(2007-2016)』)のほうもさ、レッチリ、ジェット、ジェイソン・ムラーズ、コールドプレイ、21パイロッツ、ジョン・バトラー・トリオ、リリー・アレンって、これもこれで、最強のロック・コンピじゃん。それだけでも通用するのに、フジロック・フェスティバル 20thアニヴァーサリー・コレクションって名前がついているのが納得のフジロックコンピなんだよね、不思議なことに」
粉「なんなんですかね、その理由は」
山「ここ20年の日本のロック・ファンのロック体験って、フジロックが基本になっているからだよね。フジロックに象られたというかさ。特にグリーン・ステージでやったアーティストっていうのはその年のロックの主役っていう感じがするし、各ステージのヘッドライナーをやったアーティスト達も、その年のバンド・オブ・ザ・イヤーというか」
粉「その年のロック・リスナーの記憶の大きな部分を占めますよね」
山「そうなんだよね」
粉「例えば、外国のオーディエンスの観点から見たケミカル・ブラザーズのヒストリー、立ち位置、評価と、日本のオーディエンスの観点から見たそれって、似て非なるものですよね。そして日本人だけのケミカル像は、フジロックの体験なしでは出来上がらなかったというか。やっぱりフジってすごいんだなって」
山「ほんと、そうだよ。プライマルもそうだし、イギー・ポップもそうだし」


The Chemical Brothers "Hey Boy Hey Girl"
Primal Scream "Rocks"
Iggy Pop "Lust For Life"

フジの場で伝説となったアーティスト達

粉「フジを知っている、体験している日本人だけが特権的に感じられるロック・コンピですよね」
山「そうだね。例えばイギー・ポップだったら、アメリカ人からすればストゥージズであり、クラシック・レジェンドだよねって。でも俺達にとってはイギー・ポップってすごいロックの真ん中にいる人達なわけで」
粉「そういやイギー・ポップ、98年の豊洲でメイン・ステージのビョークの裏ですごいデカい音でやってて、メインまでばんばん音漏れしてくるんですよね。ビョークがちょっとキレてた」
山「そうそう。そういう特別さがあるよね」
粉「マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの“Only Shallow”も、フジの記憶が鮮烈ですよね」
山「通常だったらライブハウスでガーってリヴァーブが反響して箱鳴りしてるみたいなイメージだけど、日本人の場合は苗場の山に空に向かってるイメージだよね」
粉「スコーンって抜けてるぐらいがちょうどいいみたいな」
山「リヴァーブかかってるけど音は帰ってこないみたいな」
粉「クリアですけどって(笑)」
山「やまびこですけど(笑)」
粉「すごくオリジナルな体験してますよね。アンダーワールドの“Born Slippy”にしても。それこそ、苗場におけるジョー・ストラマーとか意味が違いすぎますしね」
山「むしろ主催者側に立ってた人だもんね。ていうか、俺が初回で観たジョー・ストラマーは、運ばれる人たちを、娘を抱っこしながら眺めている姿なんだけど(笑)」
粉「ジョー・ストラマー初回出演してないですよ」
山「じゃあ客だったんだ(笑)。それか下見に来てたんだ。現場の様子を目の当たりにして、娘を置いて手伝いたいぐらいの感じだったよ」
山「逆にコールドプレイは、デビュー以来欧米では王者なわけで、どのフェスに出ても勿論暗い照明の効いた時間帯でわーっと拍手の中出てくるじゃない? でもフジではコールドプレイ、最初の頃の出番は昼間でさ」
粉「ファン.もそういう立ち位置でしたね。世界的にブレイクして、でもグリーンの明るいうちのスロットで」


※『rockin’on JAPAN』1997年9月号より
Underworld "Born Slippy (NUXX) (Short)"
Coldplay "Yellow"
Fun. "We Are Young (feat. Janelle Monáe)"

新人登竜門としての場、レジェンドにとっての特別な舞台

山「あと、新しいアクトについても、フジロック独自のアンテナがあって」
粉「ザ・ミュージックとか、正にそうですよね」
山「そうだね」
粉「まだデビュー・アルバムもリリースしてないのに、オーディエンスはダイヴしまくってるっていう」
山「最初はレッド・マーキーに出て」
粉「次の年にはグリーンに行ってた。ほんと、初回のレッド・マーキーの時は“ステージで足が震えた”ってバンドが言ってた」
山「あとフジロックがすごくいい味出してるなって思うのは、かつて一時代を築いたアーティストも出演し続けていて、長い、暖かい付き合いを続けているっていう」
粉「リスペクトがありますよね」
山「それはすごくはっきり出しているなっていう」
粉「確かに」

山「ジョニー・マーもしょっちゅう来てるよね、スミスの再結成はないけど」
粉「でもちゃんとスミスの曲やってくれる。その最たるものがプライマルとかかもしれませんね。最初の10年盤と最後の10年盤がそれぞれジョー・ストラマーとポーグスっていうのも象徴的ですよね」
山「たしかに」
粉「やっぱロックって、脈々と受け継がれる歴史なんだなって」
粉「こうやって歴史を振り返ってて改めて忘れられない瞬間と言えば、2000年のエリオット・スミス。この年は超寒くて、雨がめちゃくちゃ降ってて。みんなうなだれながら観てたら、ステージのエリオットは超上機嫌で、『みんな後ろ見てごらん、超綺麗だから』って。そしたらグリーンの後ろの山にソフトクリームみたいな靄がふんわり被さっていて。あの時のエリオットの笑顔とあの光景はほんと忘れられない。あれから数年後に亡くなってしまったんですけど」
山「そうか、あの雨の年か」
粉「あと、ルー・リードも思い出深いですね」
山「そうだよ、延々やってたもん」
山「コンピアルバムは所詮コンピアルバムだと思っていたんだけど、ジャケットを見た時にあがるじゃない? ベタなジャケなのに、なんかやっぱりぐっとくるものがあって……。この収録曲の1997年から2006年までと、2007年から2016年って10年毎に分かれてるんだけど、このコンピに収められている収録曲のラインナップを見るとただのコンピなのにあがるという、これがやっぱりフジロックのマジックですね」
粉「そうですね」
山「マジックですね」
粉「やっぱり体験がベースにあると違うんだなあと思いますね」

提供:ユニバーサル ミュージック合同会社、株式会社ワーナーミュージック・ジャパン

企画・制作:RO69編集部

公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする