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だいたい女の子が歌うバンドって、フロントに立って「バックバンド従えてます」ってやりたくなりますよね(atagi)
そういうのかっこいいと思わないですもん、私(PORIN)
――メロディって言葉よりも饒舌じゃないですか。どういうことかというと、怒ってる気分で書いたメロディは言葉が入ってなくても怒ったメロディになると思うし、センチメンタルな気持ちで作ったメロディは言葉がなくてもセンチメンタルだと思うんですね。それを受け取って作詞する人が歌詞を書けば、きっとそういう曲になるんでしょう。だけど、atagiくんの曲にはそういうヒントがあんまりないんだよね。むしろ巧妙に消しているというか。
atagi すごいすね、なんか(笑)。心理学者みたいですね。
――ははは、そういう意識はない?
atagi あります、あります。たぶんそれって良くも悪くもなんでしょうけど、今やってるバンドのルールブック的なものが自分のなかに無意識であって、「エモーションなものを織り込まないようにする」とか「感情的なものよりも美しいメロのほうが心地いいんじゃないかな」って考えたりとか。それは曲を作る段階からありますね。あと、「歌詞をどうしよう」ということを同時進行で考えながらやらないので、無味無臭な感じのデモに仕上がるというか、そういう特徴はあるかもしれないですね。
――で、マツザカくんとPORINさんは作詞してるんだけども、そこでどうするかっていうと、やっぱりセンチメンタルとかエモーションを入れないんですよね。すごくドライですごくマテリアルなものが上がる。そこが面白いと思っているんです。作っているメロディと乗っている言葉がチグハグだと弱いけれど、その温度がメロディを作った人と作詞をした人と歌う人とで合っているから、これはこれですごく強いんじゃないかという。
atagi なるほどー。
――(笑)ちょっと大げさに言ってるところもあるけれど、そう言われてみてどうですか?
マツザカ 正しいと思います。そもそも「こういう歌を歌うバンドです」っていうのがないんで、曲も歌詞に関しても説教たらしくならないようにはしたいし、とくにPORINが歌う曲は自分が言いたいこととかじゃなくて、「PORINってキャラクターをこういうふうに見せていきたくて、その時にPORINがこういうふうに歌ってたらいいなあ」という感じで書いてるんで、そこにエゴがないようには気を付けてますね。でもその正解はバンドのなかに実はないような気がしてて。正解はお客さんなんだろうなあと思っていて。お客さんが「共感できる」とか「PORINが歌ってグッとくる」とか「atagiの声に乗せてこうなったらグッとくる」っていうところで判断してくれたらいいのかなという感じで書いてますね。
――まさにそういうことですよね。誘導しないですよね、お客さんの感情移入の動線みたいなものを。PORINさんはどう思いますか?
PORIN えー、私ですかー(笑)。
マツザカ 語らないねー(笑)。
――わかりやすい意味付けをしないし、そこに正義を感じないし、自分たちらしさも感じていないという。すごく自分たちのことをわかってるんだろうなあと。で、そういう意味で言うと、PORINさんのライヴの振る舞いがいいんですよ。怒らないでほしいんですが、はっきり言っちゃいますが、あんまり意味がない(笑)。
PORIN あはははは。
atagi (笑)でもそれはすごく大事だな。
――声もすごくマテリアルなんだよね。もっと言っちゃうとボカロ的というか。佇まいも含めて。
PORIN あんまり客観視ができないですけど、自然とそうなってるんだと思います。自然とAwesome City Clubに染まってるんだと思います。
マツザカ 俺ら色に染めた(笑)。
PORIN でも染められたのは正解だなあと思ってます。
――すごく象徴的な存在だなあと思ったんですよ。
マツザカ 最初は「もうひとり女の子を入れたい」って言ってて、ハッピー・マンデーズのベズみたいな存在を入れたかったんですよ(笑)。要するにアイコンとして何しててもいいんですよ。ただ「そいつがいるといい」っていう。それをメンバーもお客さんもわかってるみたいな。結局、彼女は歌えたんで歌うんですけど、でもアイコンみたいな感じがほしかったっていうのはありますね。
――しかも、周りをバックバンドにしてしまわないアイコンっていうことだよね。
atagi 女の子でそういうふうに見えるのはなかなか稀有かなあと思うんですね。フロントに立って「バックバンド従えてます」ってたぶんやりたくなるだろうし(笑)――。
PORIN そうならないですよ(笑)。
atagi だいたい女の子が歌うバンドって、僕が知ってる範囲だとそういうふうに見ちゃうから。
PORIN そういうのかっこいいと思わないですもん、私。
マツザカ ただ、このよさはたくさんの人に広まる時に「説明が難しい奴だなあ」みたいな(笑)。このよさってひと言で言うと何なんすかね。
atagi ツイッターで「謎の美少女」って言われてた(笑)。「○○ちゃん」じゃなくて「今日も謎の美少女が――」って(笑)。
マツザカ 「ここに在らず」ってところが謎にもなってるし、でも逆に「ピュアなんだね」みたいなふうにも見えるし、表裏一体な感じはありますよね。
刹那的なものってカロリー高くて苦手なんですよ。刹那的なメロディとか進行とか僕にとっては今ちょっと胸焼けポイントで。もうちょっと出汁の効いたものがいい(笑)(atagi)
──このアルバムはすごくいい作品で。すごく行き渡ってるなと思ったんですよ。気配りというか、音楽をこういうふうに作って、こういうものとしてプレゼンテーションするべきなんじゃないかということにおいてすごく考えられている。リズムの解釈もそうで、1曲1曲で全然違うクセを搭載させているなあと。そこが大きな特徴のひとつだと思うけども。リズムに関してはどうですか?
マツザカ 僕は彼の曲がほんとに好きですけど、一番好きなのはリズムだと思っていて。メロもいいんですけど、作ってくるトラックのリズムが特徴的だなあっていう気はしますね。「音楽で気持ちよくなってもらいたい」っていうのが根本にあるんで、その時にリズムってすごい大事な気がしていて。そういう意味ではもしかしたら最重要なことなのかなあって思いますけどね、このバンドにとってリズムっていうのは。
atagi リズムおたくですね、僕は。
PORIN すごいですよ。リズムのことしか言わないです。
atagi そんなことはないけど(笑)。
──でもそういうところはあるんじゃない? リズムありきで曲ができてるというか。
atagi ほんっとにリズム好きですね。他の人が想像するよりも2.5倍ぐらいは好きです。
マツザカ 子供ができたら「リズム」ってキラキラネーム付けちゃうぐらいな(笑)。
全員 ふははははは。
atagi 音楽やり始める頃から、アーティストそのものというより、曲単位で好きになるところがあって。「この曲とこの曲とこの曲がかっこいい」みたいな。リズムトラックとかバッキングがめちゃめちゃ好きだったんで。そこに対しての憧れはずーっとあったし、今やっとそういう音楽が作れるようになってきて楽しいなあっていう感じですかね。ギタリストでも、がっつり弾く人よりもいわゆるリフ名人みたいな、バッキングが上手い人のほうが好きなんで、ギターもベースもドラムもシンセも全部リズムが肝になってるかなあという感じですかね。
──それはよくわかります。
atagi やりたいことをやっていくと、あんまりBPMが速いとリズムの気持ちいい隙間ができなかったりして、最終的に今作ってるようなBPMの曲がちょっとずつ多くなっていくのかなっていう気もします。
──リズムにブレが入る一番気持ちいいBPMになっているんだね。
atagi そうですね。何かあります? 他に。
マツザカ リズムに対してですか?
PORIN 必死に喰らい付いてますもんね。
マツザカ そうですね。atagiがリズム好きだったり、(今回プロデュースしてくれた)mabanuaさんもグルーヴを追求している人ですし、今回のレコーディングのなかで「ベーシストとしてどうしたい、ああしたい」みたいな気持ちが少しずつ出てきて。それはほんと「喰らい付いてる」っていうのが正しい気がするし、それがいい方向にいってよかったなって思いますね。多少ミュージシャンシップが芽生えたかな、みたいな。
──最初にatagiくんが投入したリズムの流れに反応するように、各楽器のフレーズや、atagiくん自身のなかでもリズムに呼ばれてメロディが出てくるというか、そういう順番だと思うんですよね。
atagi そうですね。メロディも符割りが変わってるというか、たぶん「詞を乗せづらいだろうな」みたいなところがありますけど、それが持ち味となって出ればいいなあみたいな感じですね。
──そういうメロディの呼ばれ方をしているから、メッセージが乗らないというか、乗るわけがないんだよね。
atagi はははははは、確かに。言われてみればそうかもしれないですね。
──そういう意味ではすごく主張が強い音楽と言えるよね。
atagi 面白いですよね。
マツザカ 「(ウチの)メロディにメッセージは乗せづらい」ってそういうふうには思ったことはなかったですけど「特殊だなあ」とは思っていて。それが自分にはマッチしててよかったなというか、「辛いなあ」って感じじゃなくてそこが面白くて、書いてる時に。それはすごくよかったなって思いますけどね。
──それを僕なりに解説すると、アタックなんだと思うんです。言葉のアタックというか、言葉の気持ちよさ。
マツザカ それはすごい大事にしてますね。
──発語した時の快感というかね。
マツザカ そうです、そうです。そこが中心ですね。あとヒップホップが好きっていうのもあって、韻踏んでるとか口に出してる時に気持ちいいとか。今回のアルバムは意識的に歌詞が聞こえるように録音してますけど、今までサウンドクラウドに上げてたデモとかは歌詞が聞こえるというよりも音として気持ちいいというところが一番大事な部分ではあって。
──すごくいいですよ。“4月のマーチ”もそういうところがありますよね。
PORIN そうですねー。歌ってて気持ちいいです。言葉の響きが。
──逆にいうと、ものすごいメッセージだよね。「信用できるものは今鳴ってる瞬間のこの気持ちよさだけなんだ」っていう。
PORIN うわー、かっこいいな。
atagi それ、使ってもいいですか(笑)。でもすごく正しいと思います。答えをそこに求めてるのかもしれないですね。
マツザカ いろんなことをやるんですけど、行き着くとこってやっぱりまたそこみたいなのはあったりしますね、確かに。
──何でそういうバンドになったんだろう。
atagi 僕もひとりで曲を作る、弾き語りとかでやる時にはこんな感じにはならないんですけどね。何だろうなあ。わからないですけど、なんとなくそれがかっこいいなあってやり始めたことがそのまま続いてるだけなのかもなとは思います。刹那的なものってすごいカロリー高くて苦手なんですよ。刹那的なメロディとか進行とか僕にとっては今ちょっと胸焼けポイントで。
PORIN 胃もたれしちゃう。
atagi そうそう。もうちょっと出汁の効いたものがいいっていう(笑)。
PORIN 出汁にうるさいよね。
マツザカ あと「いつでも聴ける音楽だといいなあ」って思いますね。たとえばスポーツ選手が試合の前に元気出すために聴くとか、泣きたい時に聴くとかじゃなくて、日常的に聴けるものっていうのが自分がリスナーとしてずーっと求めてきたものだったりするので、そういう意味でいい感じに軽いBGMになれる音楽だなって。そこは大事な気がしてますね。
──意識的に無駄を作ってるんですよね。「普通だったら『ここいらないだろう』って誰か言うんじゃないの?」っていうような箇所があえてすごく丁寧に残されている。「ギターソロ、もうひと回し短くてもいいんじゃない?」みたいな。
全員 ふはははは!
atagi 確かに(笑)。僕ら、基本的に「これ長いよね」って言われがちだよね。それでも結構精査されたほうなんですけど、「自由気ままにやっていいよ」ってなったら、もっとだる~んってなったものになっちゃう。
マツザカ そうだね。「Aメロ行って、A’行く」みたいな(笑)。
──(笑)でもほんとなら削ぎ落としたって成立しちゃう箇所にこそ、このバンドの思想があるなあと。
マツザカ そうですね。(渋谷のライヴハウス)WWWの店長さんに言われたんですけど、「君たちはいい湯加減なんだよね」って。「湯加減」っていいなあと思って。今みたいに無駄な部分とかがちょうどいい湯加減にしてるんじゃないかなあっていうか、チョッ速でドーンって伝えるとちょっと熱すぎたりとかいろいろするのかなあっていう。ちょっと長めに浸かれるみたいなところだと思う。
atagi たぶん無駄が多いものこそ、聴き流せるものでないと成立しないよなあと自分のなかでは思っていて、いわゆるダンスミュージックとかBGMに成り得るような音楽、ある意味聴き流せるものっていうのは基本的にはループものだったりして。だらだらとしているものに対しての「ちょっといいな」っていう思想はあるなとは思います。
マツザカ でもジャムバンドが延々にやるそれとはちょっと違うんですけどね。やってる高揚感とかそういうものではなくて、でも確かにだらっとしてるっていうか、何なんでしょうね。
──フレーズが主役なんじゃなくて、そこで鳴っているリズムとリズムが呼び起こす空気感が主役だから、そういう意味では無駄なものではない、ってことじゃないですか。このバンドにとっては、それがむしろ正攻法っていう。
マツザカ ああ、「幸せを呼ぶギターソロ」って呼んでます(笑)。ほんとに「ありがとうございまーす!」って感じなんですよ、鳴り出すと。「きたー! 気持ちいいー!」みたいな(笑)。「春の訪れ」みたいな感じがしてて。なんかいいんですよね。「ギター、鳴らしまくります!」という感じじゃなくていいというか、ちょうどいいんですよね。それこそ湯加減っていうか。
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