シティポップの新星

「36.5℃」の情熱に迫る

このたび『Awesome City Tracks』でメジャーデビューを果たしたAwesome City Club。このバンドを聴いていて、いいなあとしみじみ思うのは、自由に気持ちいい音楽をのびのびと鳴らすことが結果的に高性能なシティポップを生み出しているところだ。実際、音楽的なスタイルとしての「シティポップ」に依る気持ちはほとんどないみたいだ。では彼らの音楽は何に根差しているのか。それは、ただただ今、自分たちがカッコいいと思うもの、今多くの人が気持ちいいと思うもの――つまり、そこには健全で、ナチュラルに音楽を求める姿勢があるだけなのだと思う。彼らの曲には、個人の「匂い」を意識的に濾過し、漂白し、音自体の「気持ちよさ」を純度高く届ける機能があらかじめ備わっている。そして、その36.5℃の「温度」がピュアでフィジカルな温かさを伝えてくれる。このモダンなあり方が僕はとても好きだ。
マツザカタクミ(B・Syn・Rap)、PORIN(Vo・Syn)、atagi(Vo・G)の3人が応えてくれた。

インタヴュー・撮影=小栁大輔

バンドバンドしたくなくて、「クラブ」って付けてるのもそういう意味なんですけど。このプロジェクトのために集まった人たちがそこでベストを尽くすみたいな(マツザカタクミ)

――まず、どういう経緯でこういうバンドになったのかというざっくりした説明をしてもらっていいですか?

マツザカタクミ 僕とatagiは前やってたバンド同士で知り合いではあって、さらに渋谷の音楽スタジオで一緒に働いていて。ちょうどその時にフォスター・ザ・ピープルの『Torches』ってアルバムが大好きで「バンドを辞めてもっかい音楽をやりたいなあ」っていう時期があったんです。ちょっと80'sっぽい感じとブラックミュージックが混ざっていて、で、現代風のダンスミュージックに昇華されていて、かつ「歌モノがやりたい」ってatagiに声を掛けて。で、「やろうよ」っていうところから始まり、「やるんだったら可愛い子入れたいね」ってそれだけ決まっていて(笑)。で、いろんな人に声掛けていって、初ライヴの直前ぐらいに彼女(PORIN)がその職場に入ってきて。「あ、可愛いな」みたいな(笑)。

全員 ふははははは。

マツザカ で、話してみたら「センスいいなあ」と。それで、まずは「ちょっとサポートやらない?」みたいな。もともとこういうふうに活動したいっていうイメージがあって。っていうのは、今までそんなに目立った活動はしてこなかったんで、でもそのなかで「自分だったらこうすんのにな」っていうアイディアがあって、それを試してみようっていうプロジェクトでもあったんですよね。曲を「商品」というより「宣伝ツール」として使いたいなと思って始めて。僕は服を作ってたり、友だちにPV作る奴がいて全部DIYでできるようにもして、で、レコーディングはスタジオで無料でできたんで、早めにレコーディングしてPV作って。それからライヴをスタートさせるという形でやってきて。つまり、今まで自分たちがやってきたインディー活動――ライヴやって、デモ作って、みたいなステップアップしていく手順を全部ナシにして、最初から違う形にしたかったっていうのはありましたね。

──今の話には、すごく重要なヒントがあって。多くの場合、バンドっていうのは、結成して音楽を作って、やがてCDを出すっていう大きなスタンスが必ずあるわけだけど、このバンドはまずそれが薄いんだなあという。

マツザカ 目先のお金はいらなかったみたいなところがあって。500円売って500円もらってっていうより、ハードルを下げてネット上で無料で聴いてもらってライヴに来てもらってっていうところから始めたいなっていうのはありましたけどね。

──それはふたりとも納得していたこと?

PORIN はい。

atagi どんなバンドなのか知らないまま、音源も買わないままみたいなのが一番悲しいなと思って。

マツザカ 聴いてもらいたいのにそこに対してお金を払ってもらうっていうのはなかなかハードルが高いなっていうのがありました。まず知ってもらうことを先に考えたかったっていうのはありますね。

──シティポップという言葉を敢えて使うなら、その頃からシティポップだったの?

マツザカ 今の感じがシティポップって思ってもらえるんだったら、その時からシティポップだったのかもしれないですけど、自分たち的には「シティポップをやろう」っていう意識はまったくなかったです。そして今もあんまりないです(笑)。

atagi もっと「ざっくばらんにやってるなあ」っていう感じはあるし、逆に「そう言ってもらっていいんすか?」ぐらいの感じですかね。「そんな高尚なもんじゃないけどな」って。

マツザカ でも都会に住んでる若者が何かやってるというところは意識しているような気がしていて。でもシティポップをみんなで聴き漁って「これをやろう!」っていうのは一回もないです(笑)。

──PORINさんはどうですか?

PORIN 私はわからないです(笑)。洋楽テイストですけど、メロディがキャッチーでポップなのがいいなと思ってるぐらいです。でもatagiくんの書く曲は好きですね。

──そもそもなんでこのバンドに入りたいと思ったんですか?

PORIN それはもう、マツザカくんの情熱ですよ(笑)。

──何かエピソードがあるの?

atagi 深夜イベントでライヴハウスに出ることがあって。その時彼女はサポートメンバーで。下北沢の深夜のライヴイベントが終わって、DJさんが回してる中で酒飲んでて、何してんのかなあって見たらめちゃめちゃ真剣に口説いてて。変な感じだった(笑)。

PORIN 「この人、私のこと好きなのかなあ」って(笑)。

マツザカ 好きです、好きです(笑)。

──ははははは。

PORIN みんなやさしいし、楽しいし、atagiくんが私が歌う曲を書いてきてくれて。それが好きだったので「お願いします」って言いました。

──このバンドの活動の仕方を見ていると、何はなくとも音楽が届かないと意味がないんだ、ということをシビアに考えていて、世の中的にすでに空気ができ上がってるところにちゃんと張っていく感じがするんですよ。それは打算的だということではなくて、すごく現代的でもあるし、すごく正しい、健全だなあと思うんですよ。

マツザカ それは最初からそうしたかったっていうのはありますね。可愛い女の子を入れたかったっていうこともそうだし、日本語で歌ってるのもそうだし、自分たちが思う「今イケてるな」って思うことと「こうなったらたくさんの人に聴いてもらえるだろう」っていうところの一番いいバランスを最初から今までずーっと探ってるような気がしますけどね。

──それは人間性とか価値観の話なんだけども、そういうところが合ってるんじゃない? このバンドは。

マツザカ ああ、そうですね。

atagi 強烈なワンマンバンドではないからそういうやり方が合うのかもしれない。

マツザカ バンドバンドしたくなくて、「クラブ」って付けてるのもそういう意味なんですけど。各々の個性が集まって1個のプロジェクトをやってる感じで。運命共同体というわけではないし、この音楽をやるプロジェクトのために集まった人たちがそこでベストを尽くすみたいな。ちょっとドライというか、それぐらいの温度感がいいのかなという気がしますけどね。

前は誰が歌ってもいいし、パートも全部変えてもいいしみたいな感じだったんですよ。「この曲を一番良くするために誰が何弾く? 誰が歌う? 誰が曲作る? 誰が歌詞書く?」みたいな(マツザカ)

──ライヴを観ると「このバンドはピュアだなあ」と思うんですよ。そして、何に対してピュアかっていうのは、このアルバムが教えてくれるんですけども。

全員 おぉー(笑)。

──そこを話していきたいんですけども。とってもいいアルバムですよね。

全員 ありがとうございます。

──まず、atagiくんの曲は素晴らしいと思います。

atagi いやいやいや(笑)。嬉しいです。

──いろんな要素が効いてるんですよね。これはatagiくんの特徴なのか、このバンドの特徴なのか知りたいんだけども、自分が「これが大好きなんだ」とか、自分の個人性みたいな匂いがほとんどない。

atagi そうですね。僕は基本的にまったく音楽的なエゴがないというか(笑)。これまで極端なことやったりとかエグい音楽が好きだったりとかいろんな音楽遍歴がありましたけど、人の音楽の好みって1年2年でそんなに変わるんだから、って思うとこだわりがなんとなくなくなってきたというか。

PORIN 大人になったんだ。

atagi ふはははは!

マツザカ 一緒に作ってて、誰かが「絶対こうじゃなきゃ嫌だ!」みたいな主張は他のバンドよりも少なくて、「これで良くなるんだったらこれでいいんじゃない」みたいなところはありますね。「一番良い方法にしよう」とか「一番良い○○にしよう」みたいな決め方になってますね。

──5人が5人、俯瞰してバンドを見ているということかな。

PORIN ああー、そうだと思います。

atagi 最初バンド始めた時にそういうものは「あんまりやりたくないね」みたいな話とか、「強烈なメッセージを歌うバンドじゃないんだろうね」みたいな話はもともとしていて。曲を作る上でもそういうところから想起してるものはあるかなあと。

マツザカ 「メッセージはナシでいきたい」っていうのはすごくあって、もしあるとしたら「音楽で上がろう」みたいなことで。「僕らは○○を歌うバンドです」っていうのは全然ないというか、「ただ音楽をやるだけ」みたいな感じの話してなかった?

PORIN 「自由に捉えて」みたいな?

マツザカ うん。ライヴもそうですけど、グッドミュージックをやってお客さんに楽しんでもらおうっていうのが唯一のテーマみたいなところはありますね。

──PORINさんは後から入ったわけじゃないですか。でもこのバンドには入りやすかったと思うんです。要は、ここで歌ってるメッセージや思想に共感するというプロセスがなくて、与えられた役割であったり、「ここでこういうことをしてほしいんですよ」っていう狙いが明確だったんだと思うんです。

PORIN ああー、確かに。

マツザカ ほんとに必要な人だけ入れてるって感じなんですかね。だから、誰が何をやるかみたいなことはすごいはっきりしてたかもしれないですね。

atagi 言われて気付いた(笑)。

──そのあたり「すっごく意識してるなあ」って思ったんですよ。

atagi 自然の成り行きでそうなって。意識してたわけじゃなかったなっていう。

──よりわかりやすく言い換えちゃうと、「俺のための俺の音楽は作らない」というか。

atagi 強烈な個性でもって言いたいこととかやりたいことを出してる人はほんとにかっこいいなと思うんですけど、どうやら僕にはそれが向いてないっていう(笑)。

マツザカ 断言しちゃうの?(笑)。

PORIN まだわかんないよ(笑)。

atagi それってつまり、自分のなかで「かっこいいな」って思う像がだんだん変わってきてるっていうことなんですけど、人を見て「かっこいいな」って思うけども、自分でやっても「かっこいいな」とは思えないというか。否定するわけじゃなくて、たぶん自分に合った感じはこういう感じなんだろうなあっていう点が各々ちょっと被ってるのかなってところですね。

──だからこそ、atagiくんは歌詞を人に任せられるのかもしれないね。自分では歌詞はそんなに書かないんだよね?

atagi そうですね、気がラクですね(笑)。もちろん、書きたいことが出てきた時には「やりたい」って言うんですけど、そうじゃない時は誰が書いてもいいと思うし、もともと職業作家さんの楽曲とかも好きなんで、そういうのがかっこいいかなあって思ってます。

マツザカ だからすごいやりやすいというか、もっと自由にやりたかったし、今はフロントマン、バックみたいな意識が多少出てきましたけど、前はそれが全くなくて。誰が歌ってもいいし、パートも全部変えてもいいしみたいな感じだったんですよ。「この曲を一番良くするために誰が何弾く? 誰が歌う? 誰が曲作る? 誰が歌詞書く?」みたいな。

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