80KIDZ 独自のやり方でシーンとつながるエレクトロ・デュオのセンスと哲学(2)

JUN「今後5年10年やっていくための新たなスタートというか。それを周りの仲間も含めて見せたいな、というのがあったんです」

――アルバムの半分は80KIDZらしい、インストのエレクトロですが、残り半分はポップな歌ものです。

Ali& DJプレイに使うようなガチガチのダンスミュージックだったら、アルバムというフォーマットに入れなくてもいいかなと思ってるんですよ。

――リスニングってことを考えると。

Ali& そう。ダンストラックはデジタルなり盤(ヴァイナル)なりで出せばいいかなと。

――2013年に『80:XX-01020304』という、デジタルシングルで出たダンストラックを集めたアルバムを出しましたね。そのあとに『FACE』というポップな作品を出して、今回はさらにバランスのとれた、誰にでも聞きやすいアルバムになりました。

Aki& そうですね。大人になりましたね(笑)。僕はもともとロック好きだし、アルバムは使うというよりは「聴くもの」という考えは昔からあるんですよ。

――今クラブミュージックのアルバムってすごく減ってますよね。

Ali& ですよねえ。JunoとかBeatport(どちらもDJ向けダンスミュージック専門配信サービス)に出せば、リスナーというよりもまずDJに届くじゃないですか。世界中のDJに。DJに届けば、その週末に自分のトラックが絶対かかるわけですよ。それが広まっていくことでバズが起きて、その結果がアルバムになる、という人が多いと思う。

――だからシングルでいいんじゃないか、改めてアルバムに入れる必要もないんじゃないかということですね。

Ali& うん。それに、前作まではアルバム1枚をコンセプトというか大きい世界観を意識して作ったんですけど、今作はそういう世界観って気にしなかったかもしれないです。

――『5』ってアルバムタイトル自体が、コンセプトはありませんよって言ってるようなものですよね。

Ali& そうそう(笑)。そういうことです。

――ダンストラックの寄せ集めでもない、といって強いコンセプトや世界観があるわけでもない。いわば、「いい曲」だけをコンパイルしたアルバム。

Ali& 「マイ・ベスト」かな。ここ1年半ばかりの80KIDZの。やってみたいこと、チャレンジした曲も結構やってますし。新しいタームに行くための最初の1枚みたいな感じです。ファーストアルバム作る時って、コンセプトとか考えないじゃないですか。無我夢中だから。

――自分の中に湧き上がるような衝動があってそれを曲にしたいという強い気持ちがあれば、特にコンセプトがなくてもいいアルバムになりますよね。

Ali& そうですよね。ファーストがいいって言われるアーティストが多いのは、そういうことなんでしょうね。

――前作である程度やれることをやり尽くした手応えがあったということですか。

JUN 尽くしたというか、前と同じことをしようとは思わない。前作で、当時できることをやって、それまでやってきたことを出せた。でも次も同じことをやろうとは思わないんですよ。今後5年10年やっていくための新たなスタートというか。それを周りの仲間も含めて見せたいな、というのがあったんです。今好きなことを今好きな仲間とやる、ぐらいのノリですね。

Ali& 「好きなこと」というよりは……「やってみたいこと」ですかね。

――ああ、やってみたいことと好きなことは違うわけですね。

Ali& 絶対違うと思うよ。オレはそうだし。

JUN オレはあまり意識してないけど……。

――じゃあ今回は「やってみたいこと」だったわけですか。

Ali& どっちかというとそうかもしれない。

――好きなことをやるとどうなるんですか。

JUN 5曲入りぐらいの――。

――超地味なミニマルになるとか。

Ali& そうなりそうですね(笑)。暗いやつ。

JUN Windowsの起動音みたいなのばっかり入ってるアルバムとかね。アーティストって名前で見られてるところがあって、プレッシャーってほどじゃないけど、覆面でできたら幸せだなと思う時はありますね。80KIDZなら80KIDZの音をある程度意識して作らなきゃいけないから。

――80KIDZらしさのようなものと、そこからはみ出したい気持ちが常にせめぎ合っているような。

JUN そうですね。どこまで試していいか、デモの段階でマネージャーとかAli&くんにジャッジしてもらうことはあります。これは80KIDZの音になってるかって。

――80KIDZの音ってなんですか。

Ali& 僕が作る音です(笑)。

――それはどんな音ですか?

Ali& 僕自身はあまりわかってないですねえ。僕の手癖とか脂っこさを出していけば80KIDZっぽくなっちゃう。

――なるほど。今作で一番80KIDZっぽい曲ってどれですか。

Ali& うーん……1曲目(“Five”)じゃないですか。あと“Doubt”もね。JUNくんが作ってるんですけど、JUNくんっぽいなって思うな。

――どっちもピアノが入ってますね。

Ali& そうすね。ピアノ好きだし、曲を作るのにピアノを使うことは多いですね。コード進行を考える時はピアノが一番膨らみますね。弾けないんですけど。

――ピアノが入ったメロディックでキレイな感じと、エレクトロのブリブリいってる感じが混ざっているのが80KIDZっぽい。

Ali& 「元祖80KIDZ」みたいな(笑)。

――それがファンが望んでいる80KIDZでもあるってことですかね。

Ali& かどうかはわかんないですけど、「僕らがやったほうがいい80KIDZ」。こういうことやってる人って、実はあんまりいないから。

――つまり「個性」ってことですね。

Ali& 曲のリアクションが悪くても、「もういらねえよそういう曲」って言われても――。

JUN 前と一緒じゃん、って言われても――。

Ali& やっておかないと、という曲。一回ここで出しておかないと、みたいな。

――これが基準であって、そこからどの程度はみ出せるか、ということですね。

Ali& どの程度なんですかね。でもEDMはやっちゃいけないと思ってますよ。

Ali&「デビューして来年で10年になりますけど、ここまでやらせてもらえてる。これから先もやってくださいっていう若干の需要はあるんだろうなと」

――以前のインタヴューで、EDMはテンプレ音楽だっておっしゃってましたね。

Ali& そうそう。簡単に作れるんだけど、安直すぎる。一度でも作ったら、すべてをなくすと思うんですよね。

――何を?

Ali& セルアウトしたと思われる。オレがファンだったらめっちゃ悲しいですよ。EDM自体は別に悪くないんすよ。海外ではクラブミュージックの歴史や伝統があるから、EDMのフェスみたいな場でもEDM以外のいろいろなものを受け入れる許容量がある。でも日本ってクラブミュージックを経由してのEDMじゃなくて、ポップミュージックやJ-POPから直接EDMにいってる人が多いじゃないですか。だからEDMじゃないクラブミュージックをまったく理解できない。ただ暗いだけじゃん、っていう人がめっちゃいると思うんですよ。ここ(クラブミュージックの素養)があったうえでの、ここ(EDM)なら、いろんな音楽がフックされていくけど、日本はもう極端でしかないから。そういう状況に巻き込まれるのがいやですね。

――80KIDZの音楽もちょっと工夫をすればEDMになってもおかしくないけど。

JUN めっちゃなりますよ(笑)。

Ali& シンセの音変えてキックの音変えて、もうちょっとリバーブ強くしたらEDMだよね。でもEDMって結局そういうことなんでしょうね。既存のダンスミュージックに、ポップスのキラキラしてる感じや切ない感じをくっつけて、大きなフェスティバル用にアレンジして。キックもドンドンくる感じじゃなくて、もっと軽く固い感じにする。すごくライトじゃないですか。上モノのシンセやメロディはすげえ豪華だけど、下はすごいさっぱりしてる。長時間踊るんじゃなくて、みんなで両手挙げてジャンプして騒ぐためっていう。

――なるほど。ではそういうものに背を向けて――。

JUN 背は向けてない(笑)。

Ali& 僕ら、とんこつラーメンは好きじゃないし食べないけど、みんな好きっていうのは知ってるよ、って感じ。

――80KIDZがEDMだと誤解されてもいいんですか?

Ali& 別にいやじゃないですね。現実にTSUTAYAとかではEDMコーナーに置かれてるから。そう思われても構わない。で、お客さんが「全然EDMじゃないじゃん」って思おうが思わなかろうが、僕ら自身は全然EDMやってないから関係ない。自分たちの魂は売ってないから絶対。たとえ僕らのやってることがEDMにカテゴライズされて、これが2016年のEDMだって言われても、僕らのやることは全然変わらない。

――まあ今作はEDMには聞こえないですよね。

Ali& 良かった(笑)。

――そんな周りの状況関係なく自分たちとして「やるべき音楽」をやって、結果としてバランスのとれたものになった。

Ali& そうですね。デビューして来年で10年になりますけど、ここまでやらせてもらえてる。これから先もやってくださいっていう若干の需要はあるんだろうなと思ってて。

――今回の“Baby”みたいなポップな曲があれば、メジャーフィールドでも勝負できそうですけど。

Ali& あんまり……今35歳になるんですけど、そこまで野心はないすね、ふたりとも。

JUN 今のJ-POPのシーンを見て、そこに食い込めそうなものを作ったところでねえ。

Ali& 楽しいのかなって思うよね。

JUN 狙って作るのもおかしいし、作ったところで食い込めるとも思えないし。

――バンドとして、あるいはアーティストとして、ここまで行きたいという目標はありますか。

Ali& 昔めっちゃあったけど、全部すぐ叶っちゃって。フジロックだったり、海外でフェスに出るとか、そういうのはわりと最初のほうで実現しちゃって。なので今は、ふつうに「ずっと続けること」かな。

――浮き沈みの激しい世界でずっと続けるのは、大型フェスに出ることより意外と大変かもしれません。

Ali& そうですよね。それがわかってるから、続けられたらいいなあと。

提供:スペースシャワーネットワーク

企画・制作:RO69編集部

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